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『不倫』
しおりを挟む「どこらへんの席にする?」
「んー、前の方じゃなければどこでも良いですよ。神谷さんはいつもどの辺から観るんですか?」
「絶対一番後ろを取るね。しかも端っこ」
「じゃあ今日もそうしましょうよ。でも何で後ろの端っこなんですか?」
「一番後ろから人とスクリーンを同時に見下ろすのが好きなんだ。端っこは単純にトイレに出やすいからね」
なにそれと杏菜は笑った。
今日、私は杏菜と映画に来ている。
前に杏菜から映画に行きたいと連絡が来てから今日までずいぶんと時間を要した。
単純にお互いの予定が合わなかっただけで、毎日連絡も取り合っていたし、仕事でも毎回杏菜に荷物の受け取りをしてもらっていた。
そこで必ず二言ぐらい話していた。最初はお互いがぎこちなかったが、そんなのは時間が解決してくれた。
今では杏菜と呼ぶようになっていた。
でも杏菜は私を『旬くん』ではなく『神谷さん』と呼ぶ。
理由は、ただ単に私の方が年上なのでそう呼んでしまうと言っていた。
「神谷さんっ、神谷さんっ」
杏菜が横から方を軽く叩いた。
どうやら私は眠っていたようだ。
「いつから寝てたんですか?映画すっごくおもしろかったのにー」
杏菜の顔はふくれていた。
「疲れてたんだ。ごめんごめん」
私はそう言うと杏菜の頭をポンポンッと撫でた。
杏菜は「もうっ!」と言っていたが顔は笑っていた。
これだから女性の心理はよく分からない。
この頭ポンポンも日野に教わったテクだ。
日野は女性が怒り出しそうだったり、拗ねそうだったら頭をポンポンしとけば何とかなると言っていた。
初めはそんなことないだろうと思ったが、どうやら本当に何とかなったようだ。
すると、ぼーっと日野との会話を思い出していた私の前に杏菜が顔を覗かせた。
「ご飯どこいきますか〰️?」
「え?ああ、今日はパスタにしようと思ってるんだけど、どう?」
「えーっ?パスタですか?私パスタすごく好きなんです」
杏菜は子供のように笑った。
このパスタというのは中野に教えてもらっていた。
中野とは天ぷら屋に行った後、数回会った。日野がいた日もあれば、私と2人で会ったりした日もあった。
どうやら中野は大人の遊びを知らない私がお気に入りみたいで、色々と教えてくれた。
「ヤれなければその女に価値はない!」
これが中野の口癖だった。はじめは、最低ですねと笑っていたが中野はおおまじだった。
既婚者の不倫や浮気は、独身者には比べ物にならないリスクを背負う。だから悠長に遊ぶだけでは割に合わないというのが中野の考えだった。
私も杏菜のことは少なからず性的な目で見ていた。こんな可愛い子とSEXできれば幸せだろうなと。
そんなことを考えながら杏菜を見ていたら、パスタをすする小さな口もエロくみえてきて勃起した。
「どうしたんですか?そんなにジロジロ見ないでくださいよぉ」
「ん?いや、可愛いなーって思って」
「急になんなんですかっ」
杏菜は嬉しそうだった。やはり女性は可愛いや美しいという言葉に弱いらしい。これは美加にも当てはまる。美加にもよく同じことを言ったものだ。
パスタを食べ終えて店を出ると辺りは暗くなっており、時計を見ると19時だった。
「この後どうする?ドライブがてら夜景でも見にいく?」
「え?夜景ですか!?行きましょ行きましょ!」
杏菜は思いのほか乗り気だった。
「あれ?ここ夜景スポットなんですよね?今日は人が少ないみたい」
「おっ本当だな。ラッキーじゃん」
ここは美加ともよく来ていた場所なので私は慣れていたが、たしかにいつもより人は少ない。
11月下旬ともなれば日が落ちるとかなり冷え込む。なので私達は外には出ず、車の中から夜景を楽しんだ。
杏菜はあまり夜景を見たことはないらしく感動している様子だ。
私はここだ!っと思い杏菜の肩に手を伸ばした。
一瞬ビクッと杏菜の体はよじれたが、何の抵抗もなく肩を抱かせてくれた。
その反応にいけると判断した私は、杏菜の肩をこちらへ引き寄せ、そのまま手を後頭部へと手をスライドさせ顔を近づけた。
杏菜はまるで人形のように脱力しており、そこで私達は初めて唇を重ねた。
ねっとりとしたいやらしい音が車中で響き渡る。そこで何気なく車の外へ視線をやると、杏菜の後ろにサラジャが見えた。
激しく舌を絡め合っているのでさすがにサラジャに話しかける訳にはいかなかったが、視線だけはサラジャに向けていた。
サラジャは心なしか少し微笑んでいるようにも見えたが、すぐに私達へ背を向けると、夜景の中へ溶けるように消えていった。
数分後、やっと唇を放した時杏菜の方から
「私達…付き合うってことでいいんですかね?」
と照れながら聞いてきた。
すかさず私も「まぁ、そういうことかな?」と答えた。
「本当に今さらですけど神谷さん、奥さんとかいないですよね?」
一瞬ドキッとしたが、
「いたらこんなことしないよ」とまた唇を重ねた。
私はとうとう不倫をしてしまった。
学生時代から彼女はいたが、今まで一度も浮気だけはしてこなかった。
当然ながら不倫や浮気は悪い事だと思っていた。
だが実際してみると罪悪感はさほどなく、驚くほど心地よいものだ。
バレるほど長期的な関係にはならんだろうと思った。
私は杏菜と唇を重ねたことにより、より一層杏菜を性的対象として見るようになった。
そして車のシートを倒し、私達は一つになった。もう性欲に歯止めがきかなかった。はじめは杏菜も「それは…」と少し拒んだが、強引にいくと私の言うがまま下着を脱ぎ、渋々行為に及んだ。
私は相手に対する気遣いもなく、自分の性欲を満たす為だけに腰を振った。
行為を終えると杏菜は少し泣いていた。
何を思っているのか私には分からなかったので、杏菜に何も言葉を掛けず、家まで送り届けた。
自宅に帰るまでの道程、私はものすごく高揚を感じた。少々強引に性欲を満たしたことにより、アドレナリンやら何やら脳内でありとあらゆるホルモンが分泌されているようだ。
しかし自宅の玄関の扉を開くと、夕飯のカレーの匂いが鼻につき一気に我に返った。
「お帰り!今日は旬くんの好きなチキンカレーだよ」
美加はそれだけを言うとキッチンへ顔を引っ込めた。
当たり前のことだが美加は私が不倫しており、夕飯にパスタを食べてきたことを知らない。
だから当然のように夕飯の準備を進めている。カレーが好物の私が、カレーの匂いを嗅いでこんなにも気分が下がったのは人生で初めてだ。
私はいつものようにリビングへ行く前に二階の自室へ向かい、1人掛けの椅子に腰掛けた。
ここでようやく罪悪感というものが沸いた。
私はどうしてあんなことしてしまつたのだろうか?相手が私に好意があったのは事実だが、これじゃあまるでレイプではないか。
杏菜を自宅まで送り届けたものの、その足で警察に駆け込まれていたら私は性犯罪で捕まるのか?
杏菜の言い様によっては捕まるだろう。今の社会は性犯罪にかなり厳しい。
済んでしまったことをくよくよ考えても意味がないことは頭で分かっていたが、考えずにはいられなかった。
「お前が知らないだけで、こんなことは世の中で当たり前に横行している」
「えっ?」
声がしたので振り返ったが、そこには誰もいなかった。
私が知らないだけ?そうなのか?
サラジャの声のように聞こえたので、サラジャは私の近くで常に見守ってくれていることを思い出し、安心した私は食事も取らずそのまま眠ってしまった。
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