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2章

37 オレは払いましたよ

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 当の団長は壁の上でその先を見ていた。

「団長さん。殿を務めていた井戸っす。ちょっといいっすか?」

「ああ。殿ご苦労。」

 団長はよく鍛えられた体をしていてフルプレートアーマーを身につけていた。

 武器は盾と斧のようだ。兜は右腕で抱えたままだった。

「アレ。どうするんですか?」

 オレは目線であのスキル所持者たちを指した。

 団長も神妙な顔つきになり「気付いていたのか。」と口にした。

「本来ならばあれらはここに入れないはずだった。しかし、一々弾いているとここに入れるのに時間がかかりすぎてこの状態になってしまった。かといってこの衆人観衆の中、今更排除することもできん。こちらの信用が落ちる。下手したら中外同時に相手することになりかねん。一般市民には【鑑定】を持っている者はいないから証明することも出来ん。」

 何人かの注目がオレたちに集まっていた。

「けど、何人かは理性が飛ぶ寸前っすよ。せめて、拘束でもしておかないと。」

「ん-。いや。封印しよう。これを知ってるか?」

 団長は【収納空間】からポーション瓶のようなものを取り出した。【鑑定】を掛けるとオレは納得した。

 低級封印の小瓶 瓶の中に入れた存在を無条件に封印できる。ダンジョンからしか出土しない。作成はほぼ不可能だろう。人間や魔物でない存在は程度による。封印故に肉体の状態は停滞する。

「実験では既に低級でも人間の封印は成功している。数はある。数人の【鑑定】を使えるものに初期以上の者は封印させよう。その先のことは知らん。」

「その人の身内にでも渡せばいいんじゃないんすか?わざわざ団長が救ってやる義理はないっすよ。だって、一人一人に100万ポイントも使うなんてできませんて。殺処分してないだけ十二分に優しい。」

「そういってくれると救われる。甘いのだろうな。弱さでもある。」

 団長はそう言い残して団員たちに指示を出し始めた。改めてみてみるが四桁と少し程度しか人がいない。これで十分と言えるかどうかだな。これでいいような気がする。そして、“王”候補を見つけた。少し優しすぎるが候補としてはいいかもしれない。

「お兄ちゃん!」

 櫻が駆け寄ってくる。無事に避難できたようで一先ず安心だ。だが、その隣に九条さんたちがいた。

「櫻。今すぐこっちに来なさい。」

 ホムンクルスとしずくさんと東さんもこちら側だ。オレは非情にならなければいけない。櫻をオレの後ろに隠した。

「九条さん。一時的に封印させてもらうっす。あと三日もしないうちにそれを食べても腹を満たせなくなり、段々と空腹に苦しみ徐々に、理性なき畜生に成り下がります。」

 オレは【収納空間】から下級封印の小瓶を何本も取り出す。そのコルクを開けてゆえちゃんに向けた。ゆえちゃんは小瓶に吸い込まれる。そのままコルクを閉めた。一応薄いが気配はある。【収納空間】には入れられないようだ。

「お兄ちゃんとして、櫻の恩人は殺したくないんすよ。これが終わった解放する可能性があるんで抵抗しないでもらえるっすか?」

 有無も言わさず周りの人間を封印して行く。何かしようとする櫻をしずくさんがオレの後ろで抑えていた。粗方封印し終わり、後は九条さんだけになった。

 自覚はあったのだろう。

「誠君。一つ聞いていかい?」

「何ですか?」

「これは治せるのかい?」

 治せる……。言い回しが変わるな。治すではなく消すといった方が正しい。

「はい。一応できるっす。でも……。」

「でも?」

「あなたに現在のレートで100億円払えますか?」

「100億円……。」

「ポイントで百万ポイント。いいとこサラリーマンの人生50回分ってところっすかね。」

「そんなのむ……。」

「オレは払いましたよ。」

「……。」

 九条さんの言葉を遮って言った。後の言葉は必要ない。

 封印した。

 あの寺にいた他の人を含めて13人。きっちりと回収した。

 これで後顧の憂いを絶てたか……。騒ぎを聞きつけた団長さんにそのまま渡した。周囲はそれを静かに見守った。

 その時だった。

「魔物が来たぞ!」

 上で見張りをしていた男が叫んだ。
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