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2章

35 ちょっとヒーローになってくるのさ

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 櫻を抱え、町を歩く。櫻は変わり果てた街並みから目を逸らすことはなかった。

 別に行く当てはない。

 町の中央に行くと騒がしくなってきた。いつものとは違う。より張り詰めた騒がしさだ。

 櫻にしっかり捕まっているように言った。

 見知った顔を見つけた。

「しずくさん何事ですか?」

「ああ、君か。」

 煽情的な服装のしずくさんの話によるとこの町の方向に魔物の群れが迫ってきているらしい。

 先日できたばかりの自警団を中心にどうするのか討論しているらしい。暫くすると建物から人が出てきた。拡声器をもって語りだす。

「俺は自警団団長の大崎小里だ。生き残りたいなら静かに聞いてくれ。緊急事態につき簡潔に話す。この町に魔物の大群が迫っている。現状の戦力では抗いようのない彼我の戦力差がある。自警団の結論としては現状での討伐は不可能。至急、最低限の荷物を持ってあの山に向かってくれ。あそこは焼けたせいで魔物が一切いない。また、今、把握しているダンジョンに潜っている探索者を呼び戻している最中である。魔物と接敵し次第、高低差を生かした籠城戦を行う。到達予想時刻までの残り時間は約一時間だ。周りの者にも周知させながら逃げてくれ。なお、お勧めはしないが、ダンジョンの中に逃げ込むという手もある。その場合、我々は関知しない。なお、個別で戦線に参加してくれる者は指示を出すので俺のところに来るように。以上だ。」

 そこからはあわただしく人が動き出した。オレは……。“転移”のスクロールをここに一つ登録した。この混雑では山頂まで1時間で行けるかどうかといったところだな。仕方ない。しずくさんを探すと道のわきで東さんを抱えていた。東さんは裸だった。
 
「しずくさん。山でこの子をお願いできないっすか?」

「え?その子は?」

「妹の櫻です。ちょっと殿でも務めてこないと間に合いそうにないんでお願いします。山まではオレのホムンクルスが運ぶので。」

 オレはホムンクルス4型を一体【収納空間】から出して“櫻を山まで運び、”護れ”と命じた。

「わかったわ。あなたも気を付けてね。」

 【ポイント取引】で2000ポイントを「ありがとうございます。これ前払いです。」と言ってしずくさんに譲渡した。しずくさんがあたふたしていたがスルーすることにした。

「櫻。このおね~さんのいうことをよく聞くんだよ。」

「お兄ちゃんは?」

「ちょっとヒーローになってくるのさ。可愛いお姫様は待っていられるかい?」

「うん!」

 最後に抱きしめて櫻と離れた。

 もう振り返らない。スキルポイントを振って新たに【防衛10】【護衛10】を取得しつつ、【行軍3】【数的不利3】【殿3】【遅滞3】【連戦3】【籠城3】を10に上げた。
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