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2章

30 伏線と夜

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 外はすっかり真っ暗だった。夜空を見上げると満天の星空が見えた。真っ暗な夜道を小さな光の魔法で足元を照らして歩いた。ここは都会な方だからここまで星がきれいな空は初めてだ。

 家に帰ると明かりがついていた。オレは嬌声が響くリビングを素通りして脱衣所一直線だ。魔法で汚れた身体を洗った。家にいる気配は10と少しなので同級生たちだろう。不思議と今日はそんなにやる気にならなかった。

 何が違うのだろうか。

 栄養のある木の実を一つ齧った。旨くない。魔法で浮かばせた水を弄ぶ。以前よりも楽に制御できている気がした。思い立って久しぶりに腹の中を洗浄した。

 下着だけ身につけて、リビングの退廃的乱れた行為に参加する気も起きず、自分の部屋に戻った。

 久しぶりに自分のスマホを充電した。

 異例の緊急事態として電話会社は一斉に通信無料を当初から発表しているのでオレでも問題なく使える。その会社すらどうなっているかわからない。

 一応圏外にはなっていなかった。問題なく起動した。掲示板なんかでは探索者による魔物討伐の討論がガチで行われていたり、ダンジョンで戦う様子が配信されたりしていた。一か月ぶりに色々と物色した。

 その中で気になるものを発見した。今日の夕方。ダンジョンから。それも富士山にあるものからたった数体であるが、スタンピードと呼ぶにふさわしいそれらが地上進出を起こしたらしい。“旅人”を名乗る人の話では5体くらいだったという話だ。その後、身の危険を感じて身を隠したからドラゴンがどこに行ったのかわからないという。

 それに対して運悪くドラゴンに遭遇してしまった人が書き込んでいた。ランクSだったとか、勝てそうにないとかそういうことだった。既に壊滅的被害を被った町もあるらしい。

“HPにダメージが通らん”

“咆哮で魔法がレジスト・キャンセルされた”

“ブレスでマンションが融解した”

“風圧で死ねる”

 様々だ。一種の空飛ぶ災害だ。海外でもドラゴンの出現するダンジョンが発見されていて、まだ、体制を維持できている国々では頭を悩ませているらしい。

 あとはスキルの考察だったり、そんな内容だった。オレは、こんな世界の中で必死に理不尽に抵抗している人たちがいるのを知って感動した。安心も覚えた。望みは薄いが、妹を預かってくれている人に文面で連絡を入れた。少なからず戦い続けることが出来ている人がいることだけでも感動だ。

 どう戦っていくのかについてはロールプレイが一番押されていた。やはり、人数で攻め切ろうみたいな感じで終わっていた。オレみたいに単騎で潜っているのは少ないみたいだ。そういう人もいるにはいた。
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