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1章
1 どうしようもない世の中で
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オレは井戸誠。もやしのようにやせ細った14歳。
日本の義務教育換算で中学3年生だ。
中学3年生になったと言った方が正しい。
行楽シーズン、ゴールデンウィークなどと呼ばれたこの時期でさえ、新学期は始まっていない。
遠くに見える山は新緑に満ちている。
それもこれも1年生の最後に起こったあの事件が原因だ。
災害と言った方が正しいだろう。天変地異または、恩恵と言われたそれは、その後の人間から見れば正しく天災だ。
そう。春休みの前だった。
突如として世界中にダンジョンと呼ばれる迷宮が生まれた。
後に探索者と呼ばれる者たちの先駆けである自ら内部へ入った先駆者たちによって、そのダンジョンの中には現代の常識を覆すものがたくさん秘められていたという話が広まった。
数少ない生存者が持ち帰ることに成功したそれらは勿論のことだが金になった。
故に人々はそれらを欲した。いや、それを売って手に入る金をと言った方が正しい。
神の奇跡。秘薬。神秘。アーティファクト……。人々がそう呼ぶような代物が手の届くところに生まれた。
オレの親たちもそれらを求める者たちの中の一人だった。
父が連帯保証人になっていた人が借金を苦に夜逃げした。
総額5000万円。
新築を建てたばかりの我が家には払うことは不可能だった。
その借入先が任侠の方面のところのフロント企業であったらしく、債権が本格的に裏に回ったらしい。自己破産も実質的に不可能になった。
今思えば笑ってしまえることだが、危険を顧みず夫婦で一発逆転をかけて案の定帰ってこなかった。
その当時、いや、今もだが政府や行政が把握できていないダンジョンは数多あった。故に人々はそれらに潜ることが出来た。
ここで政府が公表していなかったことがある。それはダンジョンの中には魔物がいるということだ。魔物。その呼称すら正しいのか怪しい。
人・地域によっては怪物・怪異・モンスター・クリーチャーなどなど様々な呼び方がされている。
ダンジョンの入り口付近の魔物はさほど強くはない。ただし、須らくどう猛だった。飢えた獣は侵入者たる者たちに攻撃的であり、詐欺師のように狡猾だった。
スコップ片手に飛び込んだ両親やその他大勢のその大半は帰ってこなかった。どうやら日本の人間は平和ボケが過ぎたらしい。
おかげで俺たちのような子供があふれた。何とか施設には入れたものの親戚もなく部屋も定員オーバー状態。
古株の子に聞けば行政からの支援金は変わってないのに御飯の量は減っているらしい。食糧自給率の低い日本が頼っていた海外からの輸入が滞ればこうなることはわかり切っていたことだ。
幸いにも妹にだけは里親が見つかり、早期の内に引き取られていった。まだ5歳だったあの娘と別れるのはそれはもう筆舌に尽くしがたい苦痛だったが、里親が見つかることは奇跡であり、それも仕方のないことだと涙を呑んで割り切った。
今、ホームセンターなどを覗けば剣や槍、盾、鎧の類が所せましと並んでいる。
「どれにしようかな。」
オレは何振りもの剣を握りその感覚を試していた。あの事件以降、ある情報が出回った。
ダンジョンの魔物には銃や爆弾の類は効果を発揮しない。あの化け物に通じるのは現状、直接攻撃だけであるという情報だ。
それを裏付けるようにダンジョンから出てきた魔物に対しての銃撃は一切の意味がなく、付近を通った一度ダンジョンに入ったことがあったらしい高校球児のバットの一振りで魔物は沈黙した。
そして起こった最初の大災厄と呼ばれるスタンピード。魔物の地上進出でその高校生は活躍したという。
しかし、その件で公務員の内自衛隊を含む九割が殉職した。生き残りは予備自衛官を交えて専ら所属に関わらず復旧作業に追われている。
官僚の多かった霞が関には常人では勝てないであろう化け物たちが出現し、そこに勤める大半が行方不明となった。今も捜索が続けられているのが現状だ。
だから法律なんか全部無視して武器が売られ始めた。法律の改正を行う者たちが揃って行方不明なのだからそれも仕方ないか。今は官僚主導で何とかしているらしい。詰まるところ自分の身は自分で守れ。それに完結する。
結論、すとんとはまった70センチほどのショートソードと40センチほどの金属で補強された木の盾を買った。
あと、靴と服も新調した。本当は施設に持ち込めないのだがオレの手元には両親が財布の中に残した現金があったため余裕をもって購入できた。
30リットルのバックパックにロープや懐中電灯、非常食なども買い込み、気分は一端の冒険者だ。
オレはそのまま目的の場所まで向かう。ひび割れた廃墟群からは植物が生え始めていた。見たことのない植物だ。
紫色の蔦の先端には食虫植物の口のようなものが乗っかっていた。
地上はこうやってダンジョンに侵食されていくのだろう。
日本の義務教育換算で中学3年生だ。
中学3年生になったと言った方が正しい。
行楽シーズン、ゴールデンウィークなどと呼ばれたこの時期でさえ、新学期は始まっていない。
遠くに見える山は新緑に満ちている。
それもこれも1年生の最後に起こったあの事件が原因だ。
災害と言った方が正しいだろう。天変地異または、恩恵と言われたそれは、その後の人間から見れば正しく天災だ。
そう。春休みの前だった。
突如として世界中にダンジョンと呼ばれる迷宮が生まれた。
後に探索者と呼ばれる者たちの先駆けである自ら内部へ入った先駆者たちによって、そのダンジョンの中には現代の常識を覆すものがたくさん秘められていたという話が広まった。
数少ない生存者が持ち帰ることに成功したそれらは勿論のことだが金になった。
故に人々はそれらを欲した。いや、それを売って手に入る金をと言った方が正しい。
神の奇跡。秘薬。神秘。アーティファクト……。人々がそう呼ぶような代物が手の届くところに生まれた。
オレの親たちもそれらを求める者たちの中の一人だった。
父が連帯保証人になっていた人が借金を苦に夜逃げした。
総額5000万円。
新築を建てたばかりの我が家には払うことは不可能だった。
その借入先が任侠の方面のところのフロント企業であったらしく、債権が本格的に裏に回ったらしい。自己破産も実質的に不可能になった。
今思えば笑ってしまえることだが、危険を顧みず夫婦で一発逆転をかけて案の定帰ってこなかった。
その当時、いや、今もだが政府や行政が把握できていないダンジョンは数多あった。故に人々はそれらに潜ることが出来た。
ここで政府が公表していなかったことがある。それはダンジョンの中には魔物がいるということだ。魔物。その呼称すら正しいのか怪しい。
人・地域によっては怪物・怪異・モンスター・クリーチャーなどなど様々な呼び方がされている。
ダンジョンの入り口付近の魔物はさほど強くはない。ただし、須らくどう猛だった。飢えた獣は侵入者たる者たちに攻撃的であり、詐欺師のように狡猾だった。
スコップ片手に飛び込んだ両親やその他大勢のその大半は帰ってこなかった。どうやら日本の人間は平和ボケが過ぎたらしい。
おかげで俺たちのような子供があふれた。何とか施設には入れたものの親戚もなく部屋も定員オーバー状態。
古株の子に聞けば行政からの支援金は変わってないのに御飯の量は減っているらしい。食糧自給率の低い日本が頼っていた海外からの輸入が滞ればこうなることはわかり切っていたことだ。
幸いにも妹にだけは里親が見つかり、早期の内に引き取られていった。まだ5歳だったあの娘と別れるのはそれはもう筆舌に尽くしがたい苦痛だったが、里親が見つかることは奇跡であり、それも仕方のないことだと涙を呑んで割り切った。
今、ホームセンターなどを覗けば剣や槍、盾、鎧の類が所せましと並んでいる。
「どれにしようかな。」
オレは何振りもの剣を握りその感覚を試していた。あの事件以降、ある情報が出回った。
ダンジョンの魔物には銃や爆弾の類は効果を発揮しない。あの化け物に通じるのは現状、直接攻撃だけであるという情報だ。
それを裏付けるようにダンジョンから出てきた魔物に対しての銃撃は一切の意味がなく、付近を通った一度ダンジョンに入ったことがあったらしい高校球児のバットの一振りで魔物は沈黙した。
そして起こった最初の大災厄と呼ばれるスタンピード。魔物の地上進出でその高校生は活躍したという。
しかし、その件で公務員の内自衛隊を含む九割が殉職した。生き残りは予備自衛官を交えて専ら所属に関わらず復旧作業に追われている。
官僚の多かった霞が関には常人では勝てないであろう化け物たちが出現し、そこに勤める大半が行方不明となった。今も捜索が続けられているのが現状だ。
だから法律なんか全部無視して武器が売られ始めた。法律の改正を行う者たちが揃って行方不明なのだからそれも仕方ないか。今は官僚主導で何とかしているらしい。詰まるところ自分の身は自分で守れ。それに完結する。
結論、すとんとはまった70センチほどのショートソードと40センチほどの金属で補強された木の盾を買った。
あと、靴と服も新調した。本当は施設に持ち込めないのだがオレの手元には両親が財布の中に残した現金があったため余裕をもって購入できた。
30リットルのバックパックにロープや懐中電灯、非常食なども買い込み、気分は一端の冒険者だ。
オレはそのまま目的の場所まで向かう。ひび割れた廃墟群からは植物が生え始めていた。見たことのない植物だ。
紫色の蔦の先端には食虫植物の口のようなものが乗っかっていた。
地上はこうやってダンジョンに侵食されていくのだろう。
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