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1章

20話

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中学3年生になった4月。

漸く5か所の神社が完成し、選出された神主と参列の僧侶たちなどによって大規模な五芒星と五角形の霊的な弱体化及び封印目的の結界が生成された。

その恩恵はすさまじく、日本各地の今回の件に関連するとみられる悪霊は悉く沈黙し、山に漂う呪いも刻々と薄くなって行く。

事態の鎮圧化が図れたと諸外国に通達し、こちらへのヘイトはいったん収まったが、そのヘイトの矛先が第三国などに向かう形となり、実弾飛び交う紛争になった国々も幾つか出始めた。

しかし、新たな問題が発生した。日本にミサイルを撃ち込んだ国である。今日、4月6日に周辺国を巻き込んで戦争をおっぱじめたのだ。

日本に着弾してもおかしくない場所にミサイルを発射したことをネチネチと指摘され、それに激怒した形になる。それが国家を侮辱したという認識になり、賠償金を請求したが当然踏み倒され、両国が両国に進行し、お互いの首都を攻撃対象にしてミサイルやら戦闘機やらが開戦数日にして飛び交っているらしい。

既に数十万人が犠牲になっているようで鎖国状態になった影響が逆に経済損失を抑えることに繋がったとの見方もある。

日本はすぐさま中立を宣言した。今回ばかりは米国の顔色をうかがう気は一切なく、行く末を見届ける気でいる。流石に、核を持ち出しそうになったら日本国への被害が考えられるので自国民保護のため、全力でその行使を防ぎに動くことだろう。

密かに日本海側に流れミサイルを打ち落とすための兵器の展開が済んでいる。

それらの情報は小豆鬼あずきおにを国会や内閣官房、防衛省など、様々なところに派遣しているから得られた情報だ。

「ケンちゃん。もっと来てぇ~」

鎖国状態が終わり、僕は結局、梨花さんと肉体関係を持つようになった。

命を預け合う仲になって、それが終わりを迎え、お互い気が抜けてしまったのだ。すると、僕は僕で二十数人をこの手で呪い殺し、数百人を見殺しにしたことに罪悪感やらなんやらで押しつぶされそうになり、梨花さんに慰められてコロリである。

だから、見事な裸体で僕を誘う彼女の魅力に抗うことが出来ず、第3ラウンドに突入した。

昨日は、両親の遺体が日本に帰って来て通夜の会場に直送し、今日の午後に埋葬を済ませて、先程帰ってきたところだ。

冷凍保存期間が長がった影響もあり300万円弱請求されたが仕方のないことだろう。身内だけで済ませるつもりだったが、有岡住職以外にも清水さんの所の親子までもが一緒に読経をあげて手厚く葬ることになった。

正直疲れた。

日本の経済の回復にはいましばらくかかる見通しだが、こんな事態になる前の失われた30年と呼ばれたあの時代よりかは希望が持てるようで、経済に上向きの兆候が見られるらしい。

この後、弁護士を雇って遺産整理をしないとならない。相続税がいくらになるのか、恐ろしいところである。

そんな中、僕に接近する影がいた。

各国の諜報機関や宗教関係者である。

正直迷惑なので行方不明になってもらった。

今頃、日本に大使館を置いている国々は庭先に届いた呪物と化した首の干物に慄いていることだろう。それ自体が祖国を蝕む呪いだ。彼らの忠誠心がそっくりそのまま祖国を呪うことになる。

また、あれから式神を増やしたり、術を鍛えたりなど更なる修練を重ねた。

そんな時、家の固定電話が鳴った。僕は一物を拭い、電話に出る。

「はい、真田ですが?」
『こちらは○○県警○○署生活安全課の田口と申します』

警察だった。電話の声からして若い男性だろう。

「はあ。うちに何か御用でしょうか?」
『失礼ですが息子さんでいらっしゃいますでしょうか?』
「はい」
『本日ご両親は御在宅ですか?』
「いいえ。2人とも先日亡くなりまして、本日埋葬いたしました」
『そ、そうですか。それはご愁傷さまです……どなたか保護者の方はいらっしゃいますか?』
「先にご用件をお伺いします」
『恐らく、貴方のお父様の妹に当たる方が亡くなりまして、その関係で御遺体のお引き取りと、中学3年生になるあなた様のご兄妹のお引き取りをお願いしたいのですが……』
「僕に兄弟ですか?」

寝耳に水だ。僕に兄弟がいるなんて話聞いたことがない。しかも恐らく僕と同級生。僕は6月生まれだから、恐らく双子。あとは、一卵性か二卵性の問題。

本当に血縁者なのかは僕の目で見ればわかる。

『はい。ご確認ですが健太様でいらっしゃいますか?』
「はい。そうです」
『戸籍の記録を見ますと、健太さんのお父様の妹、亡くなった叔母に当たる方の姉に当たる方が健太さん達の本当の親に当たるようです。その方は出産時に亡くなっておりまして、健太さんたちはそれぞれご兄弟妹の養子に迎え入れられたようです。貴方の叔母に当たる恵子様は健太さんが1歳の頃、健太さんのおばあさまに当たる方と絶縁状態になっているようですね』
「それで、僕の兄弟?に当たる人は?」
『はい。署の方で保護しております』
「それで、僕の兄、弟、姉、妹、どれに当たるんですか?」
『戸籍上の記録では妹に当たることになっております』
「はあ、では取り敢えず……」

僕は夜に会いに行く約束をして電話を切った。その後、有岡住職を頼り、その知り合いの行政書士や弁護士と契約して、遺産整理などの事務作業をしてもらう契約を3時間で済ませた。

梨花に事情を説明しつつ、中学の制服に着替え、アタッシュケースに現金などを入れ、予感がしたから刀袋に“祟り刀躯晒し髑髏たたりがたなむくろざらししゃれこうべ”を入れて持ち出した。

指定された警察署は自転車で20分ほど離れた場所にあった。僕が本来通うはずだった公立中学の隣の学区だ。

自転車を降り、生活安全課を駐輪場に入れて、案内に従うと、生活安全課の方の談話室のような場所で1人のかわいらしい少女が毛布にくるまり、マグカップに入った茶色い液体を小動物のように飲んでいた。

僕の直感が彼女は僕の妹であると確信する。

それと同時に色々とヴィジョンが見えてしまい、大凡の情報は頭に入った。厄介な、しかもこれは……。

取り敢えず、来たことは伝えなければならないだろう。

「先程、お電話を頂いた真田です。田口さんは……」
「ああ、君が……」

デスクに座っていた30代前に見える若い男性が僕の方を向いて席を立った。僕は目線を彼女に向けて「彼女ですね?」と問うた。

田口さんは驚いたように「分かるんだね」と返答した。

そのまま、談話室に案内されコーヒーと一緒に放置される。

「僕は君の兄らしい。真田 健太さなだ けんた。6月9日が誕生日。中学3年生になる。君は?」
「……ナギサ。真田 渚さなだ なぎさ。14歳。同じ誕生日。……中学3年生」

渚を名乗る僕の妹はそう言葉を紡ぐとココアを啜った。僕にはコーヒーで渚にはココアか……。その目線は僕をちらりと見た後、再び、マグカップに注がれる。

「んで、親もいないけど、僕の家、来る?衣食住と月5万のお小遣いは保証するけど?」
「……迷惑、……じゃない?」
「迷惑なモノか。兄妹の僕を頼れ」
「……いい、の?」
「ああ。どんと来い!」

渚は「う、うん」と戸惑いながらも僕の家に来ることに同意した。

「渚。渚って呼んで?」
「分かった。渚。僕のことは……」
「お兄ちゃん……」

ピコン! 真田健太はシスコンに覚醒した!

何かおかしな説明が発生したような気もするが、不詳、僕は実の妹にときめいてしまった。

「うん。お兄ちゃんでいい。いや、お兄ちゃんがいい!……それでだ。いろいろと相談しなくちゃならない。住む場所は僕の家。当然学区が違うのだから転校しなくちゃならない」
「え……」
「今の中学がいいのか?」
「う、うん。出来れば」

話しを聞けば通っているのは公立の中学校で、陸上を頑張っており、最後の1年は集大成として頑張りたいらしい。

「そうか。まあ、何とかしよう」

通っている中学校と、通うべき中学校の両方の校長を軽く洗脳して許可を取れば他愛もない話だ。

住んでいる家と学区が違う中学校に通っている中学生のはなしは数年に一度は聞いたことがある。教育委員会当りにまで政府機関を脅して話を付ければ直ぐにどうにかなるだろう。

「や、やった!」
「ま、恐らく自転車通学の許可もとることになるだろうけどな」
「うん」
「でもしっかり、覚悟しておくんだぞ?」
「え?」
「親ナシに世間は冷たい。無視や陰口から始まり、物を隠されたり、悪い噂を広められたり、教科書を破られたり、机の上に花瓶を置かれたりといったそのような類のいじめ、渚は女の子だからクラスや部活の人に強姦される可能性もある。それに目に見えた冷遇や対応の変化。昨日まで友達だった奴が気が付いたら敵になっていたり離れていることもある」

そう言ったことはよく聞く話だ。昔の友人も事故で両親を亡くして施設入りしたあと、転校先の学校で酷いいじめにあったと、電話で泣きつかれたことがある。

まあ、その時には僕のいじめが始まっていたので何もできなかった。

「そ、そんな。みんなならきっと……」
「きっと、多分。そんなものは何にも保障にならない。まあ、言ってくれればいくらでも解決するからそこは気にしなくていい。だから、抱え込まない。それだけ覚えておいてね?渚」
「う、うん」

渚は暗い顔をしながらも決意を固めたように頷いた。

「んで、叔母さんの遺体なんだけど、どうしたい?」
「どんな選択肢があるの?うち、お金ないよ?」
「お金のことは気にしなくていい。僕たちのおばあちゃんと同じ一族代々のお墓に入れるか、無縁仏の永代供養にでもぶち込むか」

僕は渚に何があったのかをヴィジョンとして見てしまった。言ってしまえば虐待だ。

渚は僕みたいな固有能力が弱いながらも無自覚に発現しており、自己回復能力が高いため傷が目立っていないだけだ。

渚は「え?」と疑問符を浮かべた。その表情すら可愛く見える。これが世に聞くシスコンフィルターか?

「渚に何があったのかは大凡見当はついている。無理に言う必要はない。渚がどうしたいかだ。ただ、死んだ婆さんが叔母さんに相当頭に来ているらしくて……」

生者には関与しないけど死んだあとなら別という奴だろう。

「?」
「早い話、一族の方のお墓に行けば、叔母さんがとことん肩身の狭い思いをするって話」
「な、なるほど?じゃあ、一族の方で……」
「分かった。で、家族葬?それとも誰か呼ぶ予定でもある?」
「家族葬で。多分、あの人の職場の人は来るかも……」

話しを聞くと、叔母さんは売れないスナックでパートとして働いていたらしい。生活は極貧。彼女の制服も近所の人のお古らしい。

「分かった。そっちへの連絡はいろいろ決まってからにしよう」
「う、うん」
「大丈夫。お兄ちゃんに任せなさい。僕の親のを済ませたばかりだから」
「う、うん?」
「今日納骨だった」

時刻は午後6時。まあ、何とかなるか。一先ず、渚の通っている中学校に連絡を入れ、長ければ1週間ほどは休ませることを自らの口で連絡させた。

田口さんを呼び出して、諸々の手続きを済ませると、今日の内に葬儀屋が遺体を引き取りに来てくれることになった。

序に、有岡住職にも軽く話を通して、まあ、何とか時間調整する準備はしてくれるとのことだ。

遺体を収容しに来た人は今日の午前中に火葬場まで両親の遺体を運んだ人で、向こうは僕のことを2度見していた。交渉してそのままその車で斎場まで運んでもらうようにお願いしたが、その際に必要になる印鑑等を取るために彼女の家に寄った。

渚の暮らしていた家は辺鄙な場所にあるお世辞にも綺麗とは言えないアパートの一室だった。渚は20分ほどで荷物をまとめるのから着替えまで含めて終わらせて出て来た。

その間僕は仕事人風の運転手の人と話をしていたのだが、同じ日に同じ人を別件で乗せたのは初めてらしい。

彼は踏み込まず、深入りせず、無視はしない。その道25年のベテランだという。

彼についている悪霊の類がいたのでモノのついでに紙の形代に回収しておいた。流石に、急に体が軽くなり、驚いている様子はあったが問いただされはしなかった。

「お待たせしました」

渚が乗り込み、僕の隣に座ってシートベルトをしたのを確認すると車は家族葬の斎場に走った。

道中誰も話さなかったが、渚は僕の服の裾を握って離さなかった。

斎場につくと、ここでも2度見3度見されて、書類にサインしたりなどして、詳しい話は明日することにした。流石に子供が式を取り仕切ることはあまりないらしいので、両親の時同様、前払いで札束を3つほど積んだ。

これだけで皆さんのやる気が確保できるのだから凄い。

「死亡診断書とか、届けに行かなくていいの?」
「届けに行ったら口座とか凍結されちゃうから、全部終わってからね」

そんな豆知識を語りながら、今日は斎場に泊まることになった。貸し出された親族控室は両親の時と同じ場所だった。

シャワー等を借りて、夕食は出前を取った。出前は寿司だ。

「わぁ。寿司なんて初めて!」
「いっぱい食べな!お兄ちゃんのも食べていいんだぞ?」

なんか、かわいそうになって僕の分まであげた。サーモンとイクラがお気に召したらしい。

10数分もすればお腹がいっぱいになって、僕の淹れたお茶を啜っていた。

この寿司、何で卵が6つも入っているんだよ?

時刻は21時を回ろうとしている。僕は梨花さんにアプリで今日明日は帰れないと連絡を入れた。

渚はスマートフォンを持っていないらしい。今度購入しに行かなければいけないな。僕はそう決心した。

「ちょっと、質問なんだけど、腕が四本で目が1つ。身長がとても大きい神様に心当たりない?」
「え?なに?急にお兄ちゃん……」
「いや、だって渚、その荒神に魅入られているからさぁ」

僕は詳しく現状を教えた。恐らく16歳くらいで神の花嫁として死ぬ可能性が高いことを。

「ぶっちゃけた話、叔母さんが罰当たりなことをして、その神に祟られたんだけど、その巻き添えみたいな形で渚が気に入られちゃってる」
「本当に?毎年誕生日に夢に出て来る4本腕の巨人……」
「ああ、心当たりあるんだ。僕がいればそれなりに大丈夫だろうけれど、力がどうのこうのじゃなくて、神とかは我を通すものだから……。多分、叔母さんの魂を取りに今晩か明日の晩あたりに食べに来るんじゃないかな?既にボロボロだけど」
「私も食べられちゃう?」
「いや。まだ、見たい。で、叔母さんの方だけど、どう扱うのかはわからないけど、パクって食べて終了とかあるかも。そうしたら苦しいまずに終わっちゃう」
「それは嫌だ。お兄ちゃんがいれば安心?」
「それなりに力が強そうだから微妙かも」

僕は取り敢えず霊体の侵入を防ぐ結界を四方に貼った。序に外から感知され難くなるように隠形のような呪いも重ねがけした。

「これは?」
「霊体の侵入を防ぐ結界。僕、最近じゃ業界で有名になって来たから」
「そ、そうなんだ……」
「あ、今疑ったでしょ?ま、信じなくてもいいけどね」

渚が疑ったような胡散臭そうな表情をする。

そんな感じで床に就き、1晩が経過した。
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