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1章

15話

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久しぶりに着る制服は筋肉が付いたためか、きつかった。その為、サイズを自動調節する類の呪いを徹夜のテンションで掛けて調節する。

呪いとして発動するためのエネルギーは着用者の僕の霊力を吸って補完されるような仕組みだ。

中学校で武力抵抗したのがかなり昔のように思える。

あの時は制服もボロボロになってしまったので僕の固有能力によって完璧に再生させてある。その後汚れなどはクリーニングに出して綺麗にしてもらった。

霊力は呪いや祝福といった形にすることでおよそ万能と言える。

刀とアタッシュケースを持ち、家を出た。アタッシュケースには頑丈にするような呪いと防犯用の呪いが幾つかかけてある。その中には現金と筆記用具と仕事道具などを入れてあった。

戸締りとゴミ出し等を終えて家を出ると、ちらほらと近所の児童生徒たちが小学校に登校していた。僕は自転車に乗り、自身に隠形をかけながら登校した。

僕の通っている中学校は幼小中高一貫の中学校だ。各学校間の内部進学は4割ほど。

諸事情により、大学は作っていないとのことだ。

遅めの時間に出たので学校についたのは丁度朝のホームルームが始まることだった。

駐輪場に自転車を止め、来客者用の玄関を通ってスリッパで校舎に上がった。

改めて見る学校は酷く呪われていて、歴史ある学校に相応しい禍々しさだった。よくこんなところに普通に通っていたと驚くほどだ。

僕の見立てでは学校を建てるときに土地の神様にかなり平伏したようで、その神様が未だに守護をしてくれているようだ。それでも隠し切れないくらいには酷い。

校舎内は酷く静かで、教鞭をとっている大人の声が幾つか聞こえるばかりだった。

幼等部以外は校舎がどこかしら繋がっているが、交流という意味合いで横のつながりは薄い。

生徒にもなるべく他の学年にはいかないように指示されている。

中等部の職員室に堂々と入り、教頭のデスクに近付いたところで隠形を部分的に解いた。刀やアタッシュケースを見られてはまずいのでそれは隠している。

うん?逮捕された体育教師の席に新しく座る先生と思わしき男……。それにあの女性。中々、業が深そうだ。

「おはようございます。教頭先生」
「う、うぉ!?さ、真田君。おはようございます」

僕の存在に驚いた、教頭先生はひっくり返りそうになりながらも何とか挨拶を返して来た。

「それでは始めましょう。場所はどこですか?」

「ついて来てください」

教頭先生はそう言うと、鍵と荷物の入った手提げ袋を持って職員室の端から入れる校長室に入った。僕も招かれて内部に入る。

「え?ここ校長室ですよね?」
「はい。校長は終日中学受験イベントの方に出席しているのでこの部屋が丁度空いています。使わない手はありませんよ」

この人も大概頭がどうかしているようだ。

僕は当然のように校長の机に座るように言われた。机の上には固定電話しか置かれておらず、寂しい机だった。しかもかなり古そうだ。その電話はコンセントが抜かれていた。

部屋の中には高そうな花瓶と、賞状に歴代校長の顔写真。棚に書類が入っているだけだった。

机の引き出しは全て施錠されている。僕はアタッシュケースから筆記用具だけ取り出した。

教頭先生はその机の端にテストの問題用紙の山を置いた。

「まあ、ここならカンニングのしようがありませんね……」
「まあ、そうですね。スマートフォンは一部教科、英語と国語の時以外使わないで下さいね。リスニング問題でQRコードを読み取ると音声が流れるようになっています。技能教科の先生、特に音楽の教科が割り込もうとしていましたが私の方で阻止しておきました」
「そ、そうですか」
「技能教科は平均点を取ったことにしておくように取引しておきましたのでご安心を」
「お、おっす!」

教頭先生の黒さは健在だった。

「よい返事です。技能教科は技能点と筆記で5割ずつですが、不服があれば別途相談です。お手洗いは部屋を出て左にある職員用のものを利用してくださって構いません。昼食は11時過ぎ頃に持ってきます。校長がいないので私が給食の試食をすることになっていますのでそれに巻き込む形です」
「分かりました。楽しみにしています」
「ええ」

教頭先生はそう言うと「始めてください」と言って校長室を後にした。

僕は“学習特化の指輪”を付けてテスト問題に手を付けた。

2回分のテストはとんでもない物量戦を仕掛けてきたが1教科1時間ほどかかり、11時までに3教科が終了した。

難関高校受験でも出かねない問題も幾つかあったが恐らく平均点以上は取れていることだろう。

11時半になった頃教頭先生が戻って来た。とても疲れた顔をしながら2つのトレイを持っている。

「遅かったですね。何かありましたか?」
「え、ええ。モンスターペアレントの襲撃に遭いました」
「それはお疲れ様です」

教頭先生は机の隅にトレイを置くと、「どこまでできました?」と僕に聞いて来た。

「一応、国数英の6回分は終わりました」
「早いですね!食べ終わったらその分は採点しましょう」

どうやら教頭先生が採点するらしい。

「採点は担当教科の先生では?」
「袖の下で態度を変える方々が、ちょっと仕事の量を増やした人の採点をまともにやると思いますか?」

僕が盗撮を例え話しでしたことから始まったデスマーチのことを言っているのだろう。

「それで、数学のテストがあんなに難しかったんですね……」
「あ、定期テストではあった証明問題が穴埋めではなくなってますね……。それに全体の難易度が……」
「まあ、そう言うわけです」
「でも、これ、かなり高得点でしょう」
「勉強する時間だけはありましたから」

そんな話をしながら給食を食べ始めた。途中、インターンシップで来ている女性が混ざって来た。4限が空きでコマであったらしい。

その女性は京極 彩羽きょうごく いろはと名乗り、体育系大学の4年生らしい。一見、可愛らしいスポーツ女子に見えた。

「それで、京極さん、インターンシップも2日目になりましたがどうですか?」
「は、はい。とても充実した実習を経験させていただいています」
「それは良かった。確か、昔から教師が夢だったんですよね?」
「はい。子供の頃からの……」

「どのような教師になりたいんですか?」

どうやら京極さんは大人の男性が苦手のようだ。僕が興味本位に聞いてみると、少しだけ表情が柔らかくなった。

「生徒に道を示せるような教師になりたいです」
「それはどうしてですか?」
「中学校の頃の私はとても荒れていて、その時に一生懸命になってくれた先生がいたんです。憧れました。その先生のおかげで私は今教師を目指せています。だから、その先生のような人になりたいと思っています」

確固たる意志がそこにあるように感じた。

「就職はこの学校を?」
「はい。高校からの編入でしたが、募集もあったのでお世話になりたいなと、既に私立なので内定を頂きました」
「ですって、教頭先生?」
「いいですね。4月から共に働ける日を楽しみにしています」

教頭先生は一足先に僕の一緒にトレイを持って校長室を出てしまった。京極さんが急いでご飯をかきこんでいる。

僕はその間に国語のテストの問題用紙の裏に必要事項を書き、問題の書いてある面を表になる様に4つ折りにした。

「京極さん」
「は、はい!」
「僕は見えてしまう側だから言いますが、過去は変わりません。忘れるのではなく、受け入れて乗り越えなければ、あなたは確実に潰れます」

京極さんは「な、何を言って……」と動揺した。そこに先程書いた4つ折りの紙を差し出す。

「6人に関してはせめてちゃんとした供養をするべきです。今は向き合えないのであれば、他を先に祓うべきでしょう。6人がなんとか護ってはいますが力不足です。この紙にその性別と供養に関するお寺、払うことに関する神社をそれぞれ書いておきました。真田からの紹介だと言えば無碍にはされません。1年と10カ月近く、異様に疲れやすかったり、不幸な出来事などが続いたでしょう。夢のなかで見覚えのある女性たちに縋りつかれたり……」
「ほ、本当に視えるの?」
「ええ。全て言いましょうか?」
「私を呪っているのは女の人ばかり?」
「はい。貴方だけ助かった嫉妬が主な原因でしょう。このままでは男性関連の不幸に見舞われます。恐らく体育教師でしょうか、逮捕された人の机を使っている人は特に注意です。あの人は恨まれ過ぎている」

「そ、そんな!?いい人だと思ったのに!」
「幾人もの女子高生や女子中学生と交際して何度も堕胎させているクズ野郎ですよ?恨んでいる水子の数なんて30を超え、確実に死亡している女性の霊も4人は見えます。死因は
自殺が大半で全力で呪殺しようとしていますが、1人の執着している守護霊が無駄に強いから……」
「親身になって話を聞いてくれる人だと思っていたのに……、まさか、そんなぁ」

京極さんは青白い顔で呼吸を乱し、かなり動揺していた。

「1年間就職を取り止めるという手段もあります。学校側に僕が掛け合って1年待つように頼みましょうか?」
「いいえ。いち早く先生になるのが私の目標なの。その目標の為だけに頑張って来たんだから……。それだけは絶対ダメ。2年も無駄にしたんだから……」
「そうですか。ちゃんと、心を整える時間も必要だとは思うんですがね。」
「分かりました。教頭先生にだけは配慮するように伝えておきましょう。あれで、なかなか
の狸です。あと、教員になってからは校長にも気を付けてください。セクハラ爺です」
「……」
「いいですね?」
「は、はい!」

京極さんはそれだけ返事をするとコーヒー牛乳を超速で飲み干し、校長室を出て行った。午後からは創立祭の企画の手伝いを教頭先生の下でさせられるらしい。

僕は言えなかった、京極さんに未だ太い極悪の縁が繋がっていることを。

「あの人はまだ狙われているようだな」

そう一人呟いてみるも、仕方なしにテストの解答を再開するのだった。
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