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5話 双子の意志
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「ぶえええええん晴澄さあん! ど、どうしようもないのが来ちゃいましたあっ……!」
バックヤードに駆けこんできたのは今日も今日とてオールバックを振り乱している平坂である。
彼の甲高い悲鳴も、どうしようもないのが来るのも錠野葬祭の日常茶飯事で、晴澄は特に感慨もなく備品の整理を続けた。
「ヴェスナなら無視して構いませんよ」
「いやヴェスナさんじゃなくてヴェスナさんよりマシ……? ですけど、それでもどうしようもないんです! オレの手には余りますううう!」
てっきりどうしようもない人物代表かつ不法侵入常習犯の我が同居人かと思ったが違うらしい。となると会社の客だろうか。
死を商売にしている以上、慎重な対応が必要となる相手が多いのは事実だ。しかし誰かを失った人をどうしようもないの呼ばわりはいただけないし、そもそも葬家との打ち合わせであれば指導役の飛鳥がついているはずなのだが。
「飛びこみのお客さまですか?」
「う、うっ、はい……生前予約をご希望なんですが、健康そうな若い方たちで……」
「……たち?」
「そうなんですよお! 同じようなのがふたりもいるなんて反則じゃないですか!?」
「……」
同じような若者ふたりが、葬儀の生前予約に現れた──晴澄にはその情報で充分だった。正体の察しがついてしまったのである。
なるほど、ヴェスナよりどうしようもなさはマシだが、晴澄も極力関わりたくない者たちで、よく考えればやはり同じくらいどうしようもないかもしれない。
立ちあがらず、蝋燭の箱を数える手も止めず、こっそりと溜息を洩らす。
「追い払ってもらえませんか。たぶん、晴澄はいないと言えば諦めて──」
「居留守など無駄です、晴澄兄!」
「ひいっ、来た……!」
声を震わせ竦みあがる平坂。
彼の後をつけてきたのだろう。蛍光灯の下に、こけしのような頭がふたつ並ぶ。
「我ら南天福寿を追い払おうとは不心得もよいところ」
「久しぶりなのだから、せめて挨拶の時間をくださいな。この愛くるしいウイローもつけますよ」
「まあ人懐こいだけが取り柄のバカ犬だけれども」
「キャン!」
「あ、ああ、犬はそれ以上入れちゃだめですって……」
「キャゥン?」
「……うう……かわいい……」
来客という名の侵入者が抱いているのは無邪気に舌を垂らすコーギーだが、これに屈しては彼らの思う壺だ。
こめかみに刺さる、4つのぎらぎらした視線こそが本質。
素知らぬふりを貫くには、バックヤードは狭すぎた。
「平坂さんはウイローを……犬を外に連れていって、しばらく面倒を見てやってください」
「さすが晴澄兄、話が早くて助かります!」
「そしてどうぞ、名も知らぬ人。15キロある犬だから気をつけて」
「キャン」
天道南天と天道福寿はふっくらとしたコーギーを平坂に押しつけ、無表情でハイタッチを交わすのだった。
バックヤードに駆けこんできたのは今日も今日とてオールバックを振り乱している平坂である。
彼の甲高い悲鳴も、どうしようもないのが来るのも錠野葬祭の日常茶飯事で、晴澄は特に感慨もなく備品の整理を続けた。
「ヴェスナなら無視して構いませんよ」
「いやヴェスナさんじゃなくてヴェスナさんよりマシ……? ですけど、それでもどうしようもないんです! オレの手には余りますううう!」
てっきりどうしようもない人物代表かつ不法侵入常習犯の我が同居人かと思ったが違うらしい。となると会社の客だろうか。
死を商売にしている以上、慎重な対応が必要となる相手が多いのは事実だ。しかし誰かを失った人をどうしようもないの呼ばわりはいただけないし、そもそも葬家との打ち合わせであれば指導役の飛鳥がついているはずなのだが。
「飛びこみのお客さまですか?」
「う、うっ、はい……生前予約をご希望なんですが、健康そうな若い方たちで……」
「……たち?」
「そうなんですよお! 同じようなのがふたりもいるなんて反則じゃないですか!?」
「……」
同じような若者ふたりが、葬儀の生前予約に現れた──晴澄にはその情報で充分だった。正体の察しがついてしまったのである。
なるほど、ヴェスナよりどうしようもなさはマシだが、晴澄も極力関わりたくない者たちで、よく考えればやはり同じくらいどうしようもないかもしれない。
立ちあがらず、蝋燭の箱を数える手も止めず、こっそりと溜息を洩らす。
「追い払ってもらえませんか。たぶん、晴澄はいないと言えば諦めて──」
「居留守など無駄です、晴澄兄!」
「ひいっ、来た……!」
声を震わせ竦みあがる平坂。
彼の後をつけてきたのだろう。蛍光灯の下に、こけしのような頭がふたつ並ぶ。
「我ら南天福寿を追い払おうとは不心得もよいところ」
「久しぶりなのだから、せめて挨拶の時間をくださいな。この愛くるしいウイローもつけますよ」
「まあ人懐こいだけが取り柄のバカ犬だけれども」
「キャン!」
「あ、ああ、犬はそれ以上入れちゃだめですって……」
「キャゥン?」
「……うう……かわいい……」
来客という名の侵入者が抱いているのは無邪気に舌を垂らすコーギーだが、これに屈しては彼らの思う壺だ。
こめかみに刺さる、4つのぎらぎらした視線こそが本質。
素知らぬふりを貫くには、バックヤードは狭すぎた。
「平坂さんはウイローを……犬を外に連れていって、しばらく面倒を見てやってください」
「さすが晴澄兄、話が早くて助かります!」
「そしてどうぞ、名も知らぬ人。15キロある犬だから気をつけて」
「キャン」
天道南天と天道福寿はふっくらとしたコーギーを平坂に押しつけ、無表情でハイタッチを交わすのだった。
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