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2話 供物の花園

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「あ、サンズさん毎度です……ってまたヴェスナさん!?」

 ヴェスナと橘月を放りだすべく通路を先導していると、平坂が関係者入口の手前で司会の練習をしていた。面倒なので彼とも鉢合わせしないよう注意していたのだが、出入口を塞がれていては避けようがない。

「……ええと……晴澄さん、ちょっと……」

 ふたりに道を譲りつつ手招きをした彼の横で、晴澄は腰を屈める。

「会社の事情、オレまだよくわかってませんけど……あの人、部外者なんですよね? あんまり関わらせないほうがいいんじゃないですか」

 潜めた声が唱えるのは警戒。
 晴澄との関係を完全に誤解している飛鳥や、今日の第一印象で決めてしまった橘月とは異なり、平坂は錠野葬祭にヴェスナが出入りすることを快く思っていなかった。むろん、それが正解であり常識だ。晴澄も心の底から同意する。

「見た目も派手で悪目立ちしますし、やたらいいにおいしますし……何か、いつも大変なときに現れますし……」
「ああ、はい……そのとおりなんですが……」
「教育不足だな、ハル。誰のおかげで自分の首が繋がっているのかくらいわからせておけ」
「ひいっ、地獄耳……!?」

 今回に関してはヴェスナの協力を要請したのはこちらなので、平坂の味方はしてやれなかった。
 宥めるふりでお茶を濁し、平坂には一足先に会場で待機するよう指示を出して、晴澄も最後の挨拶をしようと彼らに向きなおったところ──

「ヴェスナさん、好きな花ってあります? 今日のお礼に花束でも花籠でも作らせてもらいますんで!」

 また勝手に場が盛り上がっていた。
 ヴェスナをちやほやするのは飛鳥だけで充分である。せめて晴澄とは関係のないところで楽しんでほしい。

「必要ない。うちに置かれても困る」
「ハル、おまえは?」
「……え、」

 返答に詰まり、唾を呑む。
 あまりに唐突な質問だったせいか、あるいは、逃げを許さぬヴェスナの眼差しに射抜かれてしまったせいか。
 影を縫われたように立ちすくみ、彼のたおやかな微笑を正面から直視する。

「好きな花だ。おまえにもひとつくらいあるだろう?」

 祭壇を彩り、棺に納める葬送の花は、昨今だと百合やカーネーションが一般的だ。ただし故・瓜生氏のリンドウのように、生前の好みが周知されている場合は、それを手向けとして選ぶことが推奨される。
 好きな花。別れの日の必需品。晴澄が生きる世界においては、死の象徴にも等しいもの。

「──、アネモネ」

 導かれるように、音を紡いでいた。
 悪魔的に歪んだヴェスナの笑顔で我に返り、口元を押さえるがもう遅い。男は晴澄の肩に手を置いて、橘月に一瞥を投げていた。

「ではそれで頼む。ハルの家に送ってくれればいい」
「は……いや、よくない。いらないからな、橘月」
「あーはいはい。飛鳥さんもこんな感じで見せつけられたわけね、っと」

 スーツの内側に震えを感じる。
 スマホを操作していた橘月が何かを送ってきたらしい。取り出して確認する前に、彼の拳はドンと晴澄の胸を叩いた。

「それ、ちゃんと見とけよ。せいぜい大事にするこった」
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