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2章
25 この結末は間違っているけれど 2
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ガイはイムを見上げる。
「シャンリーの事……好きか?」
「うん! 大好き」
ガイと同じ世界樹の分身である妖精イムは。屈託ない笑顔で。はっきりと言いきった。
それを横目にララが聞えよがしに呟いた。
「未練があるなら今からでも泣きついてヨリを戻してくればいい。さよならバイバイ幸せにね」
それに背を向けたままで。しかしガイは吐露する。
「俺の本当の気持ちは、許されない事かもしれない……」
だがそれを、横からタリンが「はっ!」とせせら笑うのだ。
「どこの誰のどんなルールでだ? 帝国の法律なら別の国に行けばいいだろ。つまんねーコト考えてんなオメーも」
「正しいのか間違っているのか……正当性って物を、考えはしないのか?」
タリンへと険しい視線を向けてガイは問う。
だがしかし。
タリン「はぁ?」と首を傾げる。
「セートーセー? なんだそりゃ食った事ねーな」
そんなタリンを前に、ガイは考える。
(こいつを見習う事は、人間として間違っているから無いとして……俺はもう一度、考える必要があるんじゃないのか?)
ふと、ガイは気づいた。
微かに感じていた、自分への違和感の正体に。
そしてそれを自覚した今――それは薄れて消えつつあった。
自分の正直な気持ちは何だ?
なぜ、自分はシャンリーの要求を断った?
なにが受け入れられなかった?
結局は、どうしたい?
そして今……これから、どう動く?
一つ一つ考えて。
ガイの意思は決まった。
改めて一同を見渡す。
先日までの……いやそれ以上に確固とした意思をもった、ギラつきさえある瞳で。
「もう一度ケイトの首都へ行く。絶対に一悶着あるから……タリン、お前も来い」
「はぁ? お前のオンナ連れ戻すのを手伝えってか。馬鹿じゃネーノ」
一転、呆れて顔をしかめるタリン。他人の色恋のために協力する気なんかさらさら有りはしねぇ。
だがガイは眉一つ動かさない。
こいつがそんな奴だという事は、とうの昔に承知の事実。
だからこう付け加えるのだ。
「わかっている。報酬なら出す」
「ビジネスの話か! OK、オレに任せやがれ」
またまた表情一転、活き活きと叫んでサムズアップ!
銭になるなら話は別だ。夜の店にも金は要る。
まぁそのくせ値段交渉などした事は無く、昔から金銭の契約は他人に投げっぱなしなのだが。
そんなガイに目をキラキラと輝かせ、スティーナが両の拳を握った。
「師匠! 奥さんを取り戻しに行くんですね!」
「ああ。取り戻しにな」
「?」
ガイの言い方に少々ひっかかる物を感じたが、ともかく、スティーナは大賛成だった。
愛し合う二人が結ばれる事こそ、この世で最も尊い事なのだから。
そんな中……いつの間にか家の壁に腕組みしてもたれている男が一人。
彼は「フッ……」と静かに笑いながらガイへ告げる。
「決まったようだな。私も同行しよう」
振り向き、驚く一同。ガイが男の名を呼ぶ。
「ユーガン!?」
ガイ達が帰還した日、直前で別れた男がそこにいたのだ。
「お前の考え、薄々想像はつく。お前に挫かれた身としては、ぜひやらかしてもらいたい物だ」
物静かにガイへ告げるユーガンを遠目から見つつスティーナは思う。
(この人、どこでタイミングを窺っていたの?)
こうした騒ぎの輪の外で。
レレンは皆に背を向け、黙々と己が作った弁当を食っていた。
「姉さん……」
寂しさと悲しさの漂う背中に、小さな声をかけるララ。
いったん箸を止め、振り向かず、レレンは沈んだ声を返す。
「行くさ、私も。ガイが好きな人と結ばれるのを手伝うために」
そしてまた黙々と弁当を食べるのだ。
(ちょっと塩が多かったかな)
彼女にそう思わせるのは、舌なのか、心なのか。
まぁ涙のしょっぱい味でメシを食った経験がなければ、人生の本当の味は分からない物なのだ。
「シャンリーの事……好きか?」
「うん! 大好き」
ガイと同じ世界樹の分身である妖精イムは。屈託ない笑顔で。はっきりと言いきった。
それを横目にララが聞えよがしに呟いた。
「未練があるなら今からでも泣きついてヨリを戻してくればいい。さよならバイバイ幸せにね」
それに背を向けたままで。しかしガイは吐露する。
「俺の本当の気持ちは、許されない事かもしれない……」
だがそれを、横からタリンが「はっ!」とせせら笑うのだ。
「どこの誰のどんなルールでだ? 帝国の法律なら別の国に行けばいいだろ。つまんねーコト考えてんなオメーも」
「正しいのか間違っているのか……正当性って物を、考えはしないのか?」
タリンへと険しい視線を向けてガイは問う。
だがしかし。
タリン「はぁ?」と首を傾げる。
「セートーセー? なんだそりゃ食った事ねーな」
そんなタリンを前に、ガイは考える。
(こいつを見習う事は、人間として間違っているから無いとして……俺はもう一度、考える必要があるんじゃないのか?)
ふと、ガイは気づいた。
微かに感じていた、自分への違和感の正体に。
そしてそれを自覚した今――それは薄れて消えつつあった。
自分の正直な気持ちは何だ?
なぜ、自分はシャンリーの要求を断った?
なにが受け入れられなかった?
結局は、どうしたい?
そして今……これから、どう動く?
一つ一つ考えて。
ガイの意思は決まった。
改めて一同を見渡す。
先日までの……いやそれ以上に確固とした意思をもった、ギラつきさえある瞳で。
「もう一度ケイトの首都へ行く。絶対に一悶着あるから……タリン、お前も来い」
「はぁ? お前のオンナ連れ戻すのを手伝えってか。馬鹿じゃネーノ」
一転、呆れて顔をしかめるタリン。他人の色恋のために協力する気なんかさらさら有りはしねぇ。
だがガイは眉一つ動かさない。
こいつがそんな奴だという事は、とうの昔に承知の事実。
だからこう付け加えるのだ。
「わかっている。報酬なら出す」
「ビジネスの話か! OK、オレに任せやがれ」
またまた表情一転、活き活きと叫んでサムズアップ!
銭になるなら話は別だ。夜の店にも金は要る。
まぁそのくせ値段交渉などした事は無く、昔から金銭の契約は他人に投げっぱなしなのだが。
そんなガイに目をキラキラと輝かせ、スティーナが両の拳を握った。
「師匠! 奥さんを取り戻しに行くんですね!」
「ああ。取り戻しにな」
「?」
ガイの言い方に少々ひっかかる物を感じたが、ともかく、スティーナは大賛成だった。
愛し合う二人が結ばれる事こそ、この世で最も尊い事なのだから。
そんな中……いつの間にか家の壁に腕組みしてもたれている男が一人。
彼は「フッ……」と静かに笑いながらガイへ告げる。
「決まったようだな。私も同行しよう」
振り向き、驚く一同。ガイが男の名を呼ぶ。
「ユーガン!?」
ガイ達が帰還した日、直前で別れた男がそこにいたのだ。
「お前の考え、薄々想像はつく。お前に挫かれた身としては、ぜひやらかしてもらいたい物だ」
物静かにガイへ告げるユーガンを遠目から見つつスティーナは思う。
(この人、どこでタイミングを窺っていたの?)
こうした騒ぎの輪の外で。
レレンは皆に背を向け、黙々と己が作った弁当を食っていた。
「姉さん……」
寂しさと悲しさの漂う背中に、小さな声をかけるララ。
いったん箸を止め、振り向かず、レレンは沈んだ声を返す。
「行くさ、私も。ガイが好きな人と結ばれるのを手伝うために」
そしてまた黙々と弁当を食べるのだ。
(ちょっと塩が多かったかな)
彼女にそう思わせるのは、舌なのか、心なのか。
まぁ涙のしょっぱい味でメシを食った経験がなければ、人生の本当の味は分からない物なのだ。
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