上 下
138 / 147
2章

24 人の世に外れた物 10

しおりを挟む
――ケイト帝国の宮殿――


 帰還したガイ達は歓喜をもって迎えられた――のは一瞬の事。
 恐れおののかれていた。帰還途中で合流した【リバーサル】の者達にさえ。

 だが玉座の間で、度肝を抜かれて戸惑う重臣達と【リバーサル】のメンバーを他所に、シャンリーだけはガイ達を丁寧に迎えた。
 かしこまって頭を下げさえして。
「ありがとう。これほどの脅威をよくぞ退けてくれました。貴方達こそ勇者です。魔王を倒した者達にもまさると、私は信じますわ」

「当然じゃな。この世界創生以来最高の勇者の子孫じゃぞい」
 そう言ってふんぞり返る、ガイの生きた先祖・ドライアドのハマ。
 彼女は玉座の間に外から首を突っ込んだ竜神アショーカの頭の上にいた。

 ガイ達が仰天され、恐れられているのは、最上位竜アークドラゴンなんぞと一緒に戻って来たからである。

 ベランダから頭を突っ込む竜神を見て重臣たちは度肝を抜かれたままだった。
「あれは……五行竜のアショーカ!?」
「なんと!? この世界でも最高峰の神格の一つだぞ」
「ヨウファ皇女の魔術の師も最上位竜アークドラゴンだと言うが、人の世に関与する事は避けていたというのに……」
「彼らがいれば、我が帝国の再生は成ったも同然なのでは……」
 まぁ中には早くも欲目を出してガイ達に熱い眼差しを送る者もいたが。

「フゥー……ようやく時代がオレに追いついたようだぜ。やっと世の中が正しくなりやがった」
 思いあがるあまり、タリンは胸をはり過ぎて頭が後ろに仰け反っていた。
 それを横目で睨むスティーナ。
(私達まで同類に思われそう。そのまま頭もげればいいのに)


 シャンリーがガイの眼前へと進み出た。
「ガイ。ケイト帝国の重臣として、来てくれるわね?」
「それは……」
 口ごもるガイ。
 次の言葉を探す。だが、出ない。
(俺はなぜ躊躇ためらっているんだ?)

 迷うガイを見て、シャンリーは一度だけ深呼吸した。
 そして、はっきりと宣言する。
「来てくれるなら……私をあげます。私は貴方に嫁入りし、妻になります」


「「「「「!?」」」」」
 仰天。
 その場のほとんどの者が、一瞬、思考とともに言葉を失った。

「あん? 今さら言う事か?」
 タリンはのほほんと呟いていたが。

「ふざくんなこの女狐がぁー!」
『落ち着くのだ。ガイも子供ではないぞ』
 ハマは激高し、アショーカになだめられていたが。


「あああ姉上? 皇帝になれるのは人間だけ……」
 動揺もあらわなヨウファ皇女。
 重臣達の驚きも同じ理由だ。シャンリー皇女を娶る者が次の皇帝だが、それは人間族でなければならない。
 だがガイが【ウルザルブルン】という特殊な種族である事は、既にこの場の者達は知っていた。

 しかしシャンリーは妹に言い聞かせる。
 周りの者達にも聞こえるように、はっきりと。
「ええ。だから皇帝になるのは、ヨウファ、貴女の将来の夫よ。ガイと私は……そうね、新しい公爵家を作りましょう。世界樹の若木の辺りを領地にすれば、ガイの、世界樹の守護者も兼任できて一石二鳥だわ」

 長いケイト帝国の歴史には前例もある。
 異種族と婚姻するため、上位の継承権を放棄した皇族の存在が。

 だがそれはそれで重臣達はやはりどよめく。
 皆がシャンリーこそ現在のケイト帝国の統治者だと認めていたし、皇帝になる者を夫とすると思い込んでいたからだ。


 そんな中。
 ガイは、シャンリーだけを見つめていた。
「君をくれるのか」
 その顔は、甘く喜んでいる者の表情……では
 まるで観察するかのような目。
「ええ。欲しいでしょう? ずっと欲しかったでしょう?」
 対してそう言うシャンリーは微笑んでいた。
 カサカ村で度々見せていた、茶化すような、面白がっているような、そしてどこか自信のあるような。
 そんな笑みを

「ケイト帝国の、ためにか?」
「ええ。それ有りきなのが私だもの」
 ガイとシャンリー、二人の視線がぶつかる。
 ガイは静かに、シャンリーは笑顔で。
 イムがおろおろと二人の顔を交互に見る。

 シャンリーがガイに近づき、そっと、相手の胸に触れようとした。

「それは受けられない」
 ガイがそう言ったのはシャンリーの掌が触れる直前。
 しかし彼女の手は、ピタリと止まった。

「な、なぜ! これほどの条件の何が不満だと?」
 重臣の一人が取り乱し気味に叫ぶ。
 だがヨウファ皇女が大急ぎで姉とガイの間に割って入り、ガイへ必死に笑いかけた。
「お主は救国の英雄、その意思は無視できんな! 報酬は金で支払うから受け取って帰るが良い」

 ガイも、シャンリーも。
 割り込んだヨウファを止めようとはしない。
 シャンリーの顔から笑顔が消えていた。

「私達の敵にだけは、ならないでね」
「それは、まぁ……そうだな」
 それがこの日、二人の交わした最後の言葉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東
ファンタジー
巨大ゴーレムが戦場の主役となったゴーレム大戦後、各国はゴーレムの増産と武装強化を競っていた。 小国に住む重度のゴーレムオタクのルークスはゴーレムマスターになるのが夢である。 しかしゴーレムを操る土の精霊ノームに嫌われているため、契約を結ぶ事ができないでいた。 「なら、ゴーレムに乗ってしまえば良いんだ」 ルークスはゴーレムの内部に乗り込み、自ら操るゴーレムライダーになった。 侵略してきた敵部隊を向かえ撃ち、幼なじみが考案した新兵器により一撃で敵ゴーレムを倒す。 ゴーレムライダーが戦場で無双する。 ※毎週更新→不定期更新に変更いたします。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...