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2章
24 人の世に外れた物 8
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通路が揺れ、壁に亀裂が走る。崩壊しつつある地中の基地内をガイは走った。一切休まず足を止めず、上り階段でさえも速度を落とさず、全力で駆け抜ける。
イムを肩に掴まらせ、ついに出入り口から飛び出した。そのまま岩陰に隠してあった自機に乗り込む。
その時、地下基地は限界を迎えて――潰れ、埋まった。
だがガイはもう基地など気にしてはいなかった。
仲間達の機体が巨大な怪獣を前に身構えているからだ。
その怪獣こそ、拘束を逃れると土中を掘り進んで地上へ出た改造古竜・ジュエラドンの本体!
基地が崩壊したのはその反動なのである。
ガイのリバイブキマイラを確認したタリンから通信が入った。
「おい、デカイのが出てきたぞ! 影針はどうした?」
「死んだよ」
頭の砕けた獣人幼生蝿捕波尺蛾の体が崩落してきた岩塊に潰されるのを、逃げる時にガイは見ていた。
ガイの返答が聞こえたわけでもあるまいに、怪獣は天に吠える。
身長はケイオス・ウォリアーの2~3倍……50メートルはある。二足歩行の恐竜のような体型。半透明の結晶のような全身の鱗。女王アリのような膨れて伸びた腹部。そこに生える何対もの足。
異形の巨竜を睨みつつレレンが漏らす。
「ではあれは自由を取り戻したから出てきたのだな。このまま地底深くで眠ったりはしてくれないものか」
「それは無い。魔竜ラヴァフロウはいかな理由であろうと目覚めれば地上で破壊の限りを尽くし、己の生息圏を広げ続ける。その習性自体には手を加えていない――だからあのジュエラドン本体の行動も全く同じだ」
嬉しくない情報を教えるユーガン。
「制御できるようになった筈ですよね?」
「兵隊はそれなりの設備があればな。本体は活動を停止させる事止まりだ。目覚めた以上、それももうできん」
後方に退避した運搬機からスティーナが避難めいた声で訊いたが、ユーガンはなおロクでもない報せを告げた。
重苦しい雰囲気の中、各機のモニターに新たな反応が次々と現れた。
身長20メートルほどの、結晶の鱗をもつ二足歩行竜……ジュエラドンの兵隊ども。
ガイが基地内にいる間に仲間達が何匹も倒し、その屍はまだ周囲に斃れているが……それをも上回る数が現れた!
「なんかぞろぞろわいて来たぞ! 兵隊は制御できるって言ったよな?」
「それなりの設備があれば、と言った。今ここでできるなら先刻すでにやっている」
タリンに訊かれてまたも嬉しくない情報を伝えるユーガン。
スティーナが「いまいち役に立たない奴ですね」と零すが、それに本人からの反論は無かった。
兵隊どもとの戦いでは、空中からのオールレンジ攻撃と必殺剣で他の二人以上の戦力になっていたのだが。
「仕方ない! ガイ、できるだけ強力な範囲攻撃を頼む! それまで私が盾になる」
「わかった」
先頭に出るレレンから送られた通信にガイは応え、二つの珠紋石を聖剣に嵌め込んだ。
聖剣が結晶に籠められた呪文を読み込む。
『クリエートライフ。ホーリーレイジ』
【クリエートライフ】地領域第5レベルの召喚呪文。動物や魔獣などを召喚して使役する。
【ホーリーレイジ】聖域第7レベル、最高峰の攻撃呪文。己が信仰する神に願い、神罰で敵を打ち砕く。
「合成発動……サモンディティ!」
聖剣で呪文を融合させるガイ。
同時に兵隊竜どもから熱線の息が放たれた!
だがガイ達の前に光の柱が土中から天へ昇り、熱線を遮る!
その柱が消えた時、そこにはジュエラドン本体にも負けない巨体が現れていた――。
ドーム状に生い茂る葉。大木そのものの四本の足。葉の間から突き出た竜の頭。
樹木が亀になったかのような姿……木の五行竜・アショーカが現れたのだ。
その頭には一人の女が立っている。白い薄絹を纏い、頭には葛で編んだ冠を被り、金に近い茶色の長い髪に、緑の瞳の切れ長の目。ガイの故郷の開祖・ドライアドのハマが。
『ワシを召喚できる呪文がこの世にあるとは思わなかったよ』
感心する最上位竜の頭上でハマが得意満面に胸をはった。
「今まで無かったのはガイがいなかったからに過ぎん! 流石ガイ! 流石ワシのガイじゃ! さあアショーカ、あのガラス細工の下等な竜どもを一匹残らず粉砕せい! 二次災害なんて小賢しい物を気にせず最大最強の攻撃を連発してな。どうせ落ちぶれ帝国の首都ぐらいしかこの辺りには無いわい。余波で何がブッ壊れてもかまわん!」
「構うよ大婆ちゃん! 一番でかいのは俺達で倒すから、小さいのだけ食い止めてくれ」
ガイの必死の訴えはちゃんとアショーカに届いた。
『ほいきた。任せてな』
アショーカの後方からにょきにょきと尻尾が生えた。
巨大な丸太のような――というよりそのものの尻尾が。アショーカがそれを敵へ叩きつけると、グングンとどこまでも伸び続け、何キロあるのかわからない長さの丸太になって兵隊竜をまとめて何匹も叩き潰した。
次々と現れる兵隊竜ども。熱線を吐いて来る兵隊竜ども。それらをアショーカは潰し続ける。
「……ガイ? あ、あれは一体……」
先頭で盾になったものの一発も攻撃が飛んでこないSレディバグからレレンが呆気にとられた声で通信を送る。
「今はとにかく本体を攻撃だ!」
「おう! 任せろやあ!」
ガイの指示にやる気満々で応えるタリン。
(……私も全く理解できないが、今は合わせておくか)
ユーガンは空気を読んでそう考え、咆哮するジュエラドン本体へ照準を合わせた。
崩壊した時以上の激戦が、今、ケイト帝国の首都の近くで始まる……!
イムを肩に掴まらせ、ついに出入り口から飛び出した。そのまま岩陰に隠してあった自機に乗り込む。
その時、地下基地は限界を迎えて――潰れ、埋まった。
だがガイはもう基地など気にしてはいなかった。
仲間達の機体が巨大な怪獣を前に身構えているからだ。
その怪獣こそ、拘束を逃れると土中を掘り進んで地上へ出た改造古竜・ジュエラドンの本体!
基地が崩壊したのはその反動なのである。
ガイのリバイブキマイラを確認したタリンから通信が入った。
「おい、デカイのが出てきたぞ! 影針はどうした?」
「死んだよ」
頭の砕けた獣人幼生蝿捕波尺蛾の体が崩落してきた岩塊に潰されるのを、逃げる時にガイは見ていた。
ガイの返答が聞こえたわけでもあるまいに、怪獣は天に吠える。
身長はケイオス・ウォリアーの2~3倍……50メートルはある。二足歩行の恐竜のような体型。半透明の結晶のような全身の鱗。女王アリのような膨れて伸びた腹部。そこに生える何対もの足。
異形の巨竜を睨みつつレレンが漏らす。
「ではあれは自由を取り戻したから出てきたのだな。このまま地底深くで眠ったりはしてくれないものか」
「それは無い。魔竜ラヴァフロウはいかな理由であろうと目覚めれば地上で破壊の限りを尽くし、己の生息圏を広げ続ける。その習性自体には手を加えていない――だからあのジュエラドン本体の行動も全く同じだ」
嬉しくない情報を教えるユーガン。
「制御できるようになった筈ですよね?」
「兵隊はそれなりの設備があればな。本体は活動を停止させる事止まりだ。目覚めた以上、それももうできん」
後方に退避した運搬機からスティーナが避難めいた声で訊いたが、ユーガンはなおロクでもない報せを告げた。
重苦しい雰囲気の中、各機のモニターに新たな反応が次々と現れた。
身長20メートルほどの、結晶の鱗をもつ二足歩行竜……ジュエラドンの兵隊ども。
ガイが基地内にいる間に仲間達が何匹も倒し、その屍はまだ周囲に斃れているが……それをも上回る数が現れた!
「なんかぞろぞろわいて来たぞ! 兵隊は制御できるって言ったよな?」
「それなりの設備があれば、と言った。今ここでできるなら先刻すでにやっている」
タリンに訊かれてまたも嬉しくない情報を伝えるユーガン。
スティーナが「いまいち役に立たない奴ですね」と零すが、それに本人からの反論は無かった。
兵隊どもとの戦いでは、空中からのオールレンジ攻撃と必殺剣で他の二人以上の戦力になっていたのだが。
「仕方ない! ガイ、できるだけ強力な範囲攻撃を頼む! それまで私が盾になる」
「わかった」
先頭に出るレレンから送られた通信にガイは応え、二つの珠紋石を聖剣に嵌め込んだ。
聖剣が結晶に籠められた呪文を読み込む。
『クリエートライフ。ホーリーレイジ』
【クリエートライフ】地領域第5レベルの召喚呪文。動物や魔獣などを召喚して使役する。
【ホーリーレイジ】聖域第7レベル、最高峰の攻撃呪文。己が信仰する神に願い、神罰で敵を打ち砕く。
「合成発動……サモンディティ!」
聖剣で呪文を融合させるガイ。
同時に兵隊竜どもから熱線の息が放たれた!
だがガイ達の前に光の柱が土中から天へ昇り、熱線を遮る!
その柱が消えた時、そこにはジュエラドン本体にも負けない巨体が現れていた――。
ドーム状に生い茂る葉。大木そのものの四本の足。葉の間から突き出た竜の頭。
樹木が亀になったかのような姿……木の五行竜・アショーカが現れたのだ。
その頭には一人の女が立っている。白い薄絹を纏い、頭には葛で編んだ冠を被り、金に近い茶色の長い髪に、緑の瞳の切れ長の目。ガイの故郷の開祖・ドライアドのハマが。
『ワシを召喚できる呪文がこの世にあるとは思わなかったよ』
感心する最上位竜の頭上でハマが得意満面に胸をはった。
「今まで無かったのはガイがいなかったからに過ぎん! 流石ガイ! 流石ワシのガイじゃ! さあアショーカ、あのガラス細工の下等な竜どもを一匹残らず粉砕せい! 二次災害なんて小賢しい物を気にせず最大最強の攻撃を連発してな。どうせ落ちぶれ帝国の首都ぐらいしかこの辺りには無いわい。余波で何がブッ壊れてもかまわん!」
「構うよ大婆ちゃん! 一番でかいのは俺達で倒すから、小さいのだけ食い止めてくれ」
ガイの必死の訴えはちゃんとアショーカに届いた。
『ほいきた。任せてな』
アショーカの後方からにょきにょきと尻尾が生えた。
巨大な丸太のような――というよりそのものの尻尾が。アショーカがそれを敵へ叩きつけると、グングンとどこまでも伸び続け、何キロあるのかわからない長さの丸太になって兵隊竜をまとめて何匹も叩き潰した。
次々と現れる兵隊竜ども。熱線を吐いて来る兵隊竜ども。それらをアショーカは潰し続ける。
「……ガイ? あ、あれは一体……」
先頭で盾になったものの一発も攻撃が飛んでこないSレディバグからレレンが呆気にとられた声で通信を送る。
「今はとにかく本体を攻撃だ!」
「おう! 任せろやあ!」
ガイの指示にやる気満々で応えるタリン。
(……私も全く理解できないが、今は合わせておくか)
ユーガンは空気を読んでそう考え、咆哮するジュエラドン本体へ照準を合わせた。
崩壊した時以上の激戦が、今、ケイト帝国の首都の近くで始まる……!
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