フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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2章

24 人の世に外れた物 6

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 右肩を骨がのぞくほど食い千切られ、ガイは息も絶え絶えになっていた。人間ならショックと失血で絶命もありうる。
 そんなガイを背後から鉤爪で鷲掴みにしながら、大顎から敵の血をだらだらとしたたらせる肉食芋虫の半人半虫……獣人幼生蝿捕波尺蛾ワーハワイアンキャタピラー影針えいしん
「なるほど、貴様も人間ではないな。歯ざわりと味が伝えるぞ。人にはない循環管がある事を……」
 そしてとどめを刺すべく、再び大顎を開いた。
 硬質の牙が首を狙う……!

 だが間一髪!
 顎に木刀の先が突っ込まれ、噛みつきを防いだ。ガイが左腕でなんとか攻撃を防いだのだ。
 器用さを求められる職業柄、両手利きの訓練をある程度していたのだが……それが土壇場でガイの命を救った。

「だがこの体勢ではそれ以上の抵抗はできまい!」
 影針えいしんはそう叫ぶと、ガイの体にますます鉤爪を食い込ませる。右腕が動かせず、左腕で顎を防いでいるガイには為すすべが無い。
 苦しそうに呻きながら、体を左右に揺さぶり身をよじり、なんとか振りほどこうとしていた。
 だがそんな抵抗で鉤爪は抜けない。顎に木刀を突っ込まれながら、影針えいしんあざけり笑っていた。


 そして、無数の閃光がほとばしった!

【スーパーノヴァ】炎領域6レベルの呪文。術者を中心に全方位へ数千発の焦熱光線を放ち、範囲内の全てを焼き貫く。近距離の敵を攻撃するため、接近戦を避けるほとんどの魔術師は好まないが、その威力は同レベルの攻撃魔法の中でも群を抜く。

 密着状態でまともに受けた熱線で全身を穴だらけにされ、さしもの影針えいしんもぐらりと大きく仰け反った。
 ガイは近くの支柱へ飛び移り、敵との間合いを離す。
 その側にイムが飛んできた。
「ガイ、あれでよかったよね?」
「ああ、バッチリだ」
 心配している妖精にガイはほほ笑んで告げる。
 それを聞いた影針えいしんは察した。妖精の少女が珠紋石じゅもんせきをガイに渡した事を。

 事実、その通り。
 激しく身をよじったガイの腰カバンからは、珠紋石じゅもんせきがいくつもこぼれ落ちた。
 イムはその一つ――ガイの求める物を空中で受け止め、右手に握らせたのである。

「その妖精に、こんな判断力があるとはな……」
 呻く影針えいしんへガイは言い放つ。
「世界樹の分身同士だからな。俺の欲しい物を持ってきてくれたのさ」

 その通り、この妖精と意思が通じ合ったのも世界樹の分身な【ウルザルブルン】ならでは。
 また肩をごっそりえぐられた右手を握る事だけはできたのも、世界樹の分身【ウルザルブルン】ならでは。
 ガイもまた人のことわりの外にいる者なのだ。


 ガイは下の支柱へと跳び移った。次々と足場を降りて真っすぐに下を目指す。
 逃すまいと追う影針えいしん
(この期に及んで場所を変えるとは、有利な位置取りを目論んでの事だろう……奴を自由にさせては危険だ)
 だがそう思っても、人なら死ぬほどのダメージを受けた直後だ。それでも強力な再生能力が有るがゆえに動けるが、流石にガイとの距離は縮まらない。

 ガイがいち早く部屋の底に着地した。そこにはガイが落とした珠紋石じゅもんせきがいくつも転がっている。
 目当ての物を素早く見つけ、ガイはそれを拾った。
 その右腕は動いている。再生の魔術でもなければ生涯動かないであろう右腕は、この短時間に動くようになっていた。聖剣の力と【ウルザルブルン】の体質、両方を合わせた高レベル再生によって。

 だがそれでも、右腕は珠紋石じゅもんせきを1個拾うのが限界だった。指は震えて動きも鈍い。完治には到底、時間が足りない。
 それは影針えいしんも見ていた。
(今なら間にあう!)
 獣人幼生蝿捕波尺蛾ワーハワイアンキャタピラーはその大顎を開いた。ガイの頭を狙って跳び下りた。

 だが、妖精がガイの側に舞い降りて、結晶をもう一個拾うのも見えてしまった。

 聖剣が呪文を読み込む。
『サンダー・ボルト。クラック』

【サンダー・ボルト】大気領域第5レベルの攻撃呪文。大気中より集まった雷電を敵に落とす。
【クラック】大地領域第4レベルの攻撃呪文。大地の亀裂が敵を挟んで圧し潰す。

合成発動アマルガム……サンダーヴァイス!」
 ガイの叫びとともに、頭上に迫っていた影針えいしんを落雷が捉える! その威力は影針えいしんを一気に地面へ叩きつけ……その地面が割れて、両側から挟み、押し潰そうとした。
 大地の磁場から電力を集め、帯電した地面が!
 身動きがとれないまま挟み潰されつつ電撃で焼かれ続ける影針えいしん。それでも怪物としか言いようの無い生命力で地面を掴み、脱出しようと体を引き抜きつつあった。

 だが脱出するまでガイが待つ筈もなく――聖剣を左腕で握り、渾身の力で一閃した。
「一文字斬りいぃ!!」
 呪文の力を籠める暇も惜しんでの、至極単純な、基本的な剣技。ただの横一文字。
 だがここまでの戦いを切り抜け、種族さえも変わるほどの激闘を経て身につけた技量での、全力での一撃。
 それは半ば埋まって避ける事のできない影針えいしんの側頭部を捉えた。

 その威力に、奇怪な肉食芋虫の頭が砕ける。

 だがそれでも。
 頭を失ってなお、半人半虫の化け物は身をよじり地面から這い出そうとした。

 そして、腹まで出た所で、動きがにわかに鈍り……やがて止まる。
 そのまま体を折り曲げて、ついに動かなくなった。


 大きな溜息を吐き、ガイは膝をつく。
(後は魔竜ジュエラドンだけだ)
 その魔竜をガイは見上げる。

 ぎょろりと動く魔竜の瞳と、ガイは目が合った……!
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