134 / 147
2章
24 人の世に外れた物 6
しおりを挟む
右肩を骨がのぞくほど食い千切られ、ガイは息も絶え絶えになっていた。人間ならショックと失血で絶命もありうる。
そんなガイを背後から鉤爪で鷲掴みにしながら、大顎から敵の血をだらだらと滴らせる肉食芋虫の半人半虫……獣人幼生蝿捕波尺蛾・影針。
「なるほど、貴様も人間ではないな。歯ざわりと味が伝えるぞ。人にはない循環管がある事を……」
そしてとどめを刺すべく、再び大顎を開いた。
硬質の牙が首を狙う……!
だが間一髪!
顎に木刀の先が突っ込まれ、噛みつきを防いだ。ガイが左腕でなんとか攻撃を防いだのだ。
器用さを求められる職業柄、両手利きの訓練をある程度していたのだが……それが土壇場でガイの命を救った。
「だがこの体勢ではそれ以上の抵抗はできまい!」
影針はそう叫ぶと、ガイの体にますます鉤爪を食い込ませる。右腕が動かせず、左腕で顎を防いでいるガイには為すすべが無い。
苦しそうに呻きながら、体を左右に揺さぶり身をよじり、なんとか振りほどこうとしていた。
だがそんな抵抗で鉤爪は抜けない。顎に木刀を突っ込まれながら、影針は嘲り笑っていた。
そして、無数の閃光が迸った!
【スーパーノヴァ】炎領域6レベルの呪文。術者を中心に全方位へ数千発の焦熱光線を放ち、範囲内の全てを焼き貫く。近距離の敵を攻撃するため、接近戦を避けるほとんどの魔術師は好まないが、その威力は同レベルの攻撃魔法の中でも群を抜く。
密着状態でまともに受けた熱線で全身を穴だらけにされ、さしもの影針もぐらりと大きく仰け反った。
ガイは近くの支柱へ飛び移り、敵との間合いを離す。
その側にイムが飛んできた。
「ガイ、あれでよかったよね?」
「ああ、バッチリだ」
心配している妖精にガイはほほ笑んで告げる。
それを聞いた影針は察した。妖精の少女が珠紋石をガイに渡した事を。
事実、その通り。
激しく身をよじったガイの腰カバンからは、珠紋石がいくつもこぼれ落ちた。
イムはその一つ――ガイの求める物を空中で受け止め、右手に握らせたのである。
「その妖精に、こんな判断力があるとはな……」
呻く影針へガイは言い放つ。
「世界樹の分身同士だからな。俺の欲しい物を持ってきてくれたのさ」
その通り、この妖精と意思が通じ合ったのも世界樹の分身な【ウルザルブルン】ならでは。
また肩をごっそりえぐられた右手を握る事だけはできたのも、世界樹の分身【ウルザルブルン】ならでは。
ガイもまた人の理の外にいる者なのだ。
ガイは下の支柱へと跳び移った。次々と足場を降りて真っすぐに下を目指す。
逃すまいと追う影針。
(この期に及んで場所を変えるとは、有利な位置取りを目論んでの事だろう……奴を自由にさせては危険だ)
だがそう思っても、人なら死ぬほどのダメージを受けた直後だ。それでも強力な再生能力が有るがゆえに動けるが、流石にガイとの距離は縮まらない。
ガイがいち早く部屋の底に着地した。そこにはガイが落とした珠紋石がいくつも転がっている。
目当ての物を素早く見つけ、ガイはそれを拾った。
その右腕は動いている。再生の魔術でもなければ生涯動かないであろう右腕は、この短時間に動くようになっていた。聖剣の力と【ウルザルブルン】の体質、両方を合わせた高レベル再生によって。
だがそれでも、右腕は珠紋石を1個拾うのが限界だった。指は震えて動きも鈍い。完治には到底、時間が足りない。
それは影針も見ていた。
(今なら間にあう!)
獣人幼生蝿捕波尺蛾はその大顎を開いた。ガイの頭を狙って跳び下りた。
だが、妖精がガイの側に舞い降りて、結晶をもう一個拾うのも見えてしまった。
聖剣が呪文を読み込む。
『サンダー・ボルト。クラック』
【サンダー・ボルト】大気領域第5レベルの攻撃呪文。大気中より集まった雷電を敵に落とす。
【クラック】大地領域第4レベルの攻撃呪文。大地の亀裂が敵を挟んで圧し潰す。
「合成発動……サンダーヴァイス!」
ガイの叫びとともに、頭上に迫っていた影針を落雷が捉える! その威力は影針を一気に地面へ叩きつけ……その地面が割れて、両側から挟み、押し潰そうとした。
大地の磁場から電力を集め、帯電した地面が!
身動きがとれないまま挟み潰されつつ電撃で焼かれ続ける影針。それでも怪物としか言いようの無い生命力で地面を掴み、脱出しようと体を引き抜きつつあった。
だが脱出するまでガイが待つ筈もなく――聖剣を左腕で握り、渾身の力で一閃した。
「一文字斬りいぃ!!」
呪文の力を籠める暇も惜しんでの、至極単純な、基本的な剣技。ただの横一文字。
だがここまでの戦いを切り抜け、種族さえも変わるほどの激闘を経て身につけた技量での、全力での一撃。
それは半ば埋まって避ける事のできない影針の側頭部を捉えた。
その威力に、奇怪な肉食芋虫の頭が砕ける。
だがそれでも。
頭を失ってなお、半人半虫の化け物は身をよじり地面から這い出そうとした。
そして、腹まで出た所で、動きがにわかに鈍り……やがて止まる。
そのまま体を折り曲げて、ついに動かなくなった。
大きな溜息を吐き、ガイは膝をつく。
(後は魔竜ジュエラドンだけだ)
その魔竜をガイは見上げる。
ぎょろりと動く魔竜の瞳と、ガイは目が合った……!
そんなガイを背後から鉤爪で鷲掴みにしながら、大顎から敵の血をだらだらと滴らせる肉食芋虫の半人半虫……獣人幼生蝿捕波尺蛾・影針。
「なるほど、貴様も人間ではないな。歯ざわりと味が伝えるぞ。人にはない循環管がある事を……」
そしてとどめを刺すべく、再び大顎を開いた。
硬質の牙が首を狙う……!
だが間一髪!
顎に木刀の先が突っ込まれ、噛みつきを防いだ。ガイが左腕でなんとか攻撃を防いだのだ。
器用さを求められる職業柄、両手利きの訓練をある程度していたのだが……それが土壇場でガイの命を救った。
「だがこの体勢ではそれ以上の抵抗はできまい!」
影針はそう叫ぶと、ガイの体にますます鉤爪を食い込ませる。右腕が動かせず、左腕で顎を防いでいるガイには為すすべが無い。
苦しそうに呻きながら、体を左右に揺さぶり身をよじり、なんとか振りほどこうとしていた。
だがそんな抵抗で鉤爪は抜けない。顎に木刀を突っ込まれながら、影針は嘲り笑っていた。
そして、無数の閃光が迸った!
【スーパーノヴァ】炎領域6レベルの呪文。術者を中心に全方位へ数千発の焦熱光線を放ち、範囲内の全てを焼き貫く。近距離の敵を攻撃するため、接近戦を避けるほとんどの魔術師は好まないが、その威力は同レベルの攻撃魔法の中でも群を抜く。
密着状態でまともに受けた熱線で全身を穴だらけにされ、さしもの影針もぐらりと大きく仰け反った。
ガイは近くの支柱へ飛び移り、敵との間合いを離す。
その側にイムが飛んできた。
「ガイ、あれでよかったよね?」
「ああ、バッチリだ」
心配している妖精にガイはほほ笑んで告げる。
それを聞いた影針は察した。妖精の少女が珠紋石をガイに渡した事を。
事実、その通り。
激しく身をよじったガイの腰カバンからは、珠紋石がいくつもこぼれ落ちた。
イムはその一つ――ガイの求める物を空中で受け止め、右手に握らせたのである。
「その妖精に、こんな判断力があるとはな……」
呻く影針へガイは言い放つ。
「世界樹の分身同士だからな。俺の欲しい物を持ってきてくれたのさ」
その通り、この妖精と意思が通じ合ったのも世界樹の分身な【ウルザルブルン】ならでは。
また肩をごっそりえぐられた右手を握る事だけはできたのも、世界樹の分身【ウルザルブルン】ならでは。
ガイもまた人の理の外にいる者なのだ。
ガイは下の支柱へと跳び移った。次々と足場を降りて真っすぐに下を目指す。
逃すまいと追う影針。
(この期に及んで場所を変えるとは、有利な位置取りを目論んでの事だろう……奴を自由にさせては危険だ)
だがそう思っても、人なら死ぬほどのダメージを受けた直後だ。それでも強力な再生能力が有るがゆえに動けるが、流石にガイとの距離は縮まらない。
ガイがいち早く部屋の底に着地した。そこにはガイが落とした珠紋石がいくつも転がっている。
目当ての物を素早く見つけ、ガイはそれを拾った。
その右腕は動いている。再生の魔術でもなければ生涯動かないであろう右腕は、この短時間に動くようになっていた。聖剣の力と【ウルザルブルン】の体質、両方を合わせた高レベル再生によって。
だがそれでも、右腕は珠紋石を1個拾うのが限界だった。指は震えて動きも鈍い。完治には到底、時間が足りない。
それは影針も見ていた。
(今なら間にあう!)
獣人幼生蝿捕波尺蛾はその大顎を開いた。ガイの頭を狙って跳び下りた。
だが、妖精がガイの側に舞い降りて、結晶をもう一個拾うのも見えてしまった。
聖剣が呪文を読み込む。
『サンダー・ボルト。クラック』
【サンダー・ボルト】大気領域第5レベルの攻撃呪文。大気中より集まった雷電を敵に落とす。
【クラック】大地領域第4レベルの攻撃呪文。大地の亀裂が敵を挟んで圧し潰す。
「合成発動……サンダーヴァイス!」
ガイの叫びとともに、頭上に迫っていた影針を落雷が捉える! その威力は影針を一気に地面へ叩きつけ……その地面が割れて、両側から挟み、押し潰そうとした。
大地の磁場から電力を集め、帯電した地面が!
身動きがとれないまま挟み潰されつつ電撃で焼かれ続ける影針。それでも怪物としか言いようの無い生命力で地面を掴み、脱出しようと体を引き抜きつつあった。
だが脱出するまでガイが待つ筈もなく――聖剣を左腕で握り、渾身の力で一閃した。
「一文字斬りいぃ!!」
呪文の力を籠める暇も惜しんでの、至極単純な、基本的な剣技。ただの横一文字。
だがここまでの戦いを切り抜け、種族さえも変わるほどの激闘を経て身につけた技量での、全力での一撃。
それは半ば埋まって避ける事のできない影針の側頭部を捉えた。
その威力に、奇怪な肉食芋虫の頭が砕ける。
だがそれでも。
頭を失ってなお、半人半虫の化け物は身をよじり地面から這い出そうとした。
そして、腹まで出た所で、動きがにわかに鈍り……やがて止まる。
そのまま体を折り曲げて、ついに動かなくなった。
大きな溜息を吐き、ガイは膝をつく。
(後は魔竜ジュエラドンだけだ)
その魔竜をガイは見上げる。
ぎょろりと動く魔竜の瞳と、ガイは目が合った……!
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。


最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる