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2章

23 皇女の帰還 5

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――草原を突き抜ける街道――

 遥か古代には人の力では及ばずと恐れられた魔竜……それを改造して生まれた怪獣が吼えた。夕焼け空に相応しくない狂暴な咆哮が響く。
 それに斬りかかる骸骨武者のような人造巨人・Sバスタードスカル――その操縦席でタリンが苛々と叫ぶ。
「クッソ! いくら兵隊だからって何度も出やがって! これじゃあ埒が明かんぜ」

 ケイト帝国の首都もこの怪獣・ジュエラドンに襲われているとの連絡が入り、ガイ達はレジスタンス【リバーサル】の部隊と協力して先を急ごうとしていた。
 その時に戦っていたジュエラドンを全力で仕留め、休憩もなく街道を進んだ、その日のうちに……もう一度怪獣に襲われている、それがまさに今なのである。

「首都まで後どれぐらいだ?」
 電撃を怪獣に撃ちながらガイは通信機ごしに訊いた。
 ゾウムシ型運搬機で、スティーナが素早く地図を確認する。
「寝ずに走り続ければ丸一日で着きますが……」
「それも足止めされなければ、だろう?」
 Sレディバグの背中で怪獣の吐く熱線を背中で受け止めつつ、操縦席でレレンが焦りの声を漏らした。

「とにかく目の前の敵をなんとかしないと……」
 運搬機の後部座席でシャンリーが呟く。
 その声にも焦燥感が滲んでいた。彼女だけではない……ガイ達一行の誰もが、同行している【リバーサル】の戦士達もが、皆が明白な足止めをなんともできずに焦っているのだ。


 その時である。
 日が沈みゆく昏い空から、赤い影がいくつも飛来した。鳥のように羽ばたく影達は怪獣ジュエラドンの周囲へ降下すると、魔力の波を放つ。
 それが炸裂し、怪獣の結晶のような鱗が割れて弾けた!

『この攻撃、なんだ!?』
 驚く【リバーサル】の戦士達。
 ガイは見た。赤い影は鳥ではない……蝙蝠のような形をしている。
「まさか!」
 モニターに新たな機体が表示された。

 真鍮色に輝く装甲の、蝙蝠の半獣人が鎧を纏ったような機体が、翼を広げて剣を手にしている。
 白銀級機・Sブラスバット。その操縦者もモニターに映る。銀髪碧眼で色白の、赤い鎧を纏った青年が。
「ユーガン!?」
 驚くガイに鋭い目を向けて一瞥すると、彼は怪獣へと視線の先を移した。彼の乗機が夜空で剣を構える。

 真鍮の蝙蝠が急降下をかけた。赤い蝙蝠達は剣へ飛んで来て吸収され、刃が黄金色に光る。
『ブラッド……エンド!!』
 炸裂する必殺剣! 怪獣の巨体が縦に大きく切り裂かれた。
 怪獣は狂乱して身を捩り、凄まじい勢いで爪と尾を振り回す。素早く宙に逃れるブラスバット。
 それにブレスを吐こうとして……叶わず力尽き、ジュエラドンは地響きを立てて倒れた。


――怪獣が息絶えた街道――


「何をしに来たんですか?」
 警戒も露わに通信を送るスティーナ。
 ユーガンは着陸させたブラスバットから返信する。
『己が残した物の後始末だ』
「ジュエラドン退治って事か?」
 ガイは半ば砕けて動かなくなった怪獣ジュエラドンの屍を横目で見つつ訊いた。
『そうだ。あの怪獣はホン侯爵家が管理していた物。それを私が持ち出したのだ。私が勘当された今、あの怪獣を使うわけにも使わせるわけにもいかない。我が身がこれよりどうなろうと、あれだけは始末する』
 答えるユーガンの声には、固い意思が籠められていた。

 それを聞いて割り込む声。
 シャンリーである。
「ならばユーガン、私達に手を貸しなさい。怪獣が首都を襲っているそうよ。一気に向かうわ」
「というと?」
 レレンが訊き返すと、シャンリーはてきぱきと説明する。
「今からは一日中走るの。運搬機の運転は、昼はスティーナが、夜は私がやるわ。そして敵が出たら、昼はガイとレレンが、夜はタリンとユーガンが撃破しなさい。いいわね?」
『あの……我々は……?』
 その指示に疑問を抱く【リバーサル】の部隊。
 彼らにシャンリーははっきりと告げた。
「ここまでありがとう。貴方達の助力があった事は首都で伝えておきます」

(命令を出す事に慣れている人間……か)
 シャンリーの指示からガイはそれを感じとった。

『そこの運搬機に入っていいんだな?』
 戸惑いと躊躇いがありありと出ていたが、ユーガンはそう訊いてきた。
「そういう事になりましたね。ハッチ、開けます」
 やはり戸惑いながらもスティーナは答え……運搬機の背中が開く。

 ユーガン機を含め、4機のケイオス・ウォリアーは格納庫へ入った。それを確認したスティーナはハッチを閉めて、運転をシャンリーと交代する。
 そして運搬機は街道を走り出した。首都へと向けて、全速力で。【リバーサル】の部隊を置き去りにして。


――運搬機の格納庫内――


 機体から降りた操縦者達が顔を合わせる。
 神妙な、強張った顔でユーガンは降りて来たが、彼の赤い鎧を見てガイは訊いてきた。
「まだその鎧着てるのか」
「あ、ああ。魔王軍に降った過去を無かった事にするつもりはない」
 意表をつかれながらも途中から断言するユーガン。彼なりの意思表明を告げた……のだが、ガイにはどうも批難するような様子が無い。

 さらにタリンが期待も露わに尋ねる。
「おう、魔王軍から何か持ち出してねーか? 便利なアイテムがあったら出せよ」
「? いや、この武具含めて私物だが……」
 ますます戸惑い、ユーガンの口調には混乱が混じっていた。

 己が道に外れていた過去を糾弾されるだろうと腹を括っていたのだが、ちっともそんな話が出てこない。

「こいつが持ち逃げされた側だから追いかけると言っていたんだぞ。聞いて無かったのか」
「あ? そんな話だったか? オレにはどうでもいいわ。これから夜勤みたいだからメシにするぜ」
 ガイに教えられてタリンは興味を無くし、格納庫の隅――そこに置いてある箱に食料が入っている――へと去って行った。

「俺は昼間担当だし、早いうちに寝るか」
「うん、ねよねよ」
 肩のイムと話ながらガイもその場を後にする。タリンが向かったのとは別の隅、簡易寝台を並べてカーテンで囲ってある宿泊ブースへ。

「……恨み言の一つも無いのか?」
 呆然と呟くユーガンに、魔王軍時代からの知人・レレンが憮然とした顔で告げる。
「私の時もこんな物だった」

 こうしてガイ一行に新たな味方が加わった。
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