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2章

23 皇女の帰還 2

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――チマラハの街――


 その日、ガイは街の領主邸を訪問した。
 突然来たにも関わらず、領主は満面の笑顔で出迎えてくれた。

「これはこれはガイ殿! ようこそおいでくださいました。首都に引っ越す気になられましたかな? なにせ周辺国がいつも殺気立っておりまして……」
「いや、当分この領を離れるから。一応その事を伝えようと思って」
 ガイが言うと領主は眉をひそめる。
「はて? 先日までホン侯爵領へ出かけておられたとの事でしたが、また忙しい事ですな」
「ああ。皇族の人をケイト帝国の首都まで送るんだ。領主さんも今後はあの国と仲良くしてくれよ」
 そうは言いつつ、ガイはシャンリーの名は出さずにおいた。
 しかし衝撃は大きかったようで、領主は露骨に動揺を見せる。
「皇族う!? いいい一体誰を? しかも仲良くって、この領はもう独立してしまって……」

 帝国が大打撃を受けたどさくさに独立した領が、帝国に快く思われているわけがない。
 またチハラマ周辺の領はことごとく帝国から独立しており、帝国に良い感情を持っていない。
 となれば……この領は味方のいない孤立無援の状態になりかねない。

 だがガイは気にする様子もなく、用事は済んだとばかりに手を振る。
「まぁ政治の事は任せるけどさ。じゃあ」
「ガイ殿おお!?」
 領主が何やら叫んでいたが、ガイは背を向けて部屋から出た。


――街道――


 大きな街道をのし歩くゾウムシ型の運搬機。その中にガイはいた。
 もちろんシャンリーも、カサカ村の主だった面々も乗っている。
 彼らはいよいよケイト帝国の首都へ向かう旅に出るのだ。

 操縦はスティーナ。
 彼女は運転しながらも街で聞いた情報をガイに伝える。
「ジュエラドンの行動が活発になっています。元ケイトの領域内を我が物顔で荒らしているようですね」
 レレンがそれに相槌をうった。
「滅びた町や村がいくつもあるようだ。流通路もズタズタにされていて、遠からずカサカ村にも悪影響が出るぞ」
 後部座席にもたれてそれを聞いていたタリンが「はっ!」と笑った。
「まー潰れちまった所なんか知ったこっちゃねーわ。さっさと首都へ乗り込んで名乗りをあげようぜ。そして魔竜討伐の命令を出された勇者として、見事それを果たしたオレは英雄になるんだよ!」


――その日の夕方。辿り着いた宿場町――


「ようこそ宿屋【野原の花停】へ。お好きな所で寝てください」
 宿屋の親父が丁寧な物腰で背後を指し示す。
 タリンが青筋を立てて怒鳴った。
「どこにも部屋がねーだろ!」

 宿屋があった所には、無残な残骸が山と積まれているのみ。
 建物が巨大な力で叩き潰されていたのだ。
 けなげにも宿屋の親父は受付カウンターとそこの屋根だけ修復し、営業を続けていた。
 潰れているが元は宿屋だったので、瓦礫や丸太をどかせば寝床は確保できるかもしれない。

 涙ながらに告げる宿屋の親父。
「でかい怪獣に踏み潰されました……」
「じゃあなんで料金だけ取るんだよ!」
 タリンが青筋を立てて怒鳴った。

 カウンターの横には壊れかけた椅子があり、そこに金を入れる箱があるのだ。

 涙ながらに告げる宿屋の親父。
「よく御覧ください。あれは復興費用をお願いする募金箱です」
 確かに箱には「募金にご協力ください」と書いてある。
 タリンが青筋を立てて怒鳴った。
「チクショウめ! メシはどこで食うんだよ?」
「あっちの難民キャンプで野菜屑のスープが買えます」
 涙ながらに村の奥を指し示す宿屋の親父。
 遠くに寄り添いあったテントがあり、そこで焚火の光が見ていた。


 肉の入っていないスープをすすりながら、ガイ達は手持ちの食料からもいくらか出して夕食を村はずれでとる。
 重い溜息をつくガイ。
「やっぱり色々と影響するもんだな。被害が大きくなると」
「じゃあどうすんだ? 兵隊怪獣をいちいち退治して回ってから首都入りすんのか!?」
 タリンが青筋を立てて怒鳴った。
 重い溜息をつくシャンリー。 
「それでは到着がいつになるのかわからないわね」


 非常に空気の悪い夕食。各人が「これ食べたらさっさと寝よう」と考えていると――

 突如、大地を揺する振動!
 巨大な咆哮が響いた。これまで何度も聞いた咆哮が。
 土煙をあげ、地面の下から巨大な怪獣が村の反対側に姿を現したのだ。
 怪獣ジュエラドンが再び現れたのである。

 悲鳴をあげて逃げ惑う村人。抵抗を考える者など一人もいない。
 その様子と、怪獣が単体なのを確認して、スティーナが食事をやめて立ち上がる。
「迷う必要が無くなりましたね」
「本当にどこにでもわいてるのかコイツ!」
 タリンが青筋を立てて怒鳴り、運搬機の格納庫へ向かって走り出した。
 無論、他の面々も同様に。
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