121 / 147
2章
23 皇女の帰還 1
しおりを挟む
――カサカ村・集会場――
ホン侯爵領から戻って数日後。
今後の事を相談すべく、ガイは村の主だった面々を集会場に集めた。
皆が会議用のテーブルについたのを確認してから話を切り出すガイ。
「これから帝国の首都へ向かう。メンバーは前の、ホン侯爵領に行った時と同じにしようと思うが、いいよな?」
「ガイ殿、村の守りは大丈夫なのですか? もしあの怪獣が出ては……侯爵領に行く時は大丈夫だろうと思いましたが、今回は……」
村長コエトールは心配で仕方がないのだ。
ホン侯爵領に行った時は、敵の本拠地に乗り込む形だった。
だから乗り込むガイ達を無視して村に大きな戦力をぶつけてはこないだろう……と村長は考えたのだ。
しかし今回、敵は本拠地をどこかへ移しており、そこを探れぬままに帝国首都へ向かおうとしている。
ガイ達の留守をこれ幸いと前みたいに襲撃してこないかどうか、それが村長には不安なのだ。
「それについては防衛用の2機をカスタムしておいたわ。青銅級機の中ではかなりの高性能になったはず。強化改造した汎用武器も装備させてある」
自身に満ちた態度でそう言うとスティーナが立ち上がる。
そして身振りでついてくるよう皆へ促した。
――カサカ村の工場――
「あっちがBプレートリザード。そっちがBプレートピルバグです」
建屋の中、スティーナが指差した先には完成して間もない人造巨人がハンガーに持たれて立っている。
どちらも前からこの村にあった量産機を改造した物だ。
一機は厚い鎧を纒うリザードマン。腰の左右には戦鎚と機関銃を下げている。
もう一機は厚い鎧を纒う、ダンゴムシ頭の重装甲巨人。大きな大砲を右肩に担いでおり、左手にはスパイク・シールドを装備している。
「プレートって……板金鎧の事か。よくもまぁ両方ともこんな鈍重そうな機体にしたな」
呆れるタリン。
それをスティーナは大きな目で鋭く睨む。
「防衛用だから移動力は低くてもいいし。村の防壁も活用して立て籠りながら戦う前提だし。計算上は前に村を襲撃した戦力になら勝てるし」
「確かに前より性に合っとるわい。流石はワシの孫だ。これで誰も文句はなかろう」
イワンは納得して頷いた。
「ある」
だが否定の声が一つ。
皆はそちらへ振り向いた。異議があるのは女魔術師の――
「ララ?」
「村にレレン姉さんを残して」
彼女は元魔王軍の女親衛隊の、裾を掴んでそう主張する。
スティーナはムッと眉を顰めた。
「強化した2機では不安だと?」
「うん」
即答。
ララの態度に、スティーナの声が怒りを帯びる。
「私が現状望みうるベストの状態にしたのに、どこに不安があるか理論的に説明してみなさい」
ララは全く躊躇せず言い返した。
「以前の敵になら勝てる←これ蹴散らされるフラグにしか見えない」
あまり理論の話ではなかった。
しかしスティーナ以外の者達の間に、どこか納得したような空気が漂う。
「それで念の為Sヒートレディバグを残せと」
ガイが聞くと、ララは信頼を込めた瞳でレレンを見つめる。
「レレン姉さんなら生身での歩兵戦もできるし」
シャンリーが「うーん」と難しそうに唸った。
「レレンが貴重な戦力というのはわかるわ。だからこそ旅について来て欲しくはあるのよね」
これらの話を聞いて、当のレレンは戸惑っていた。まさか自分が両方から指名されるとは思っていなかったのだ。
「そ、そうか。私はどちらでもいいぞ。自分のベストを尽くすだけだ」
少々考え込んでから、ガイがララに提案してみる。
「元々パーティだったんだし、タリンを村に残すのはどうだ?」
ララは即答した。
「嫌。頼りにならない」
「なんだそりゃあ! ララ、リーダーへの口の利き方があんだろが!」
怒鳴るタリン。驚いた事に、まだパーティリーダーのつもりだったのだ。そもそも元のパーティがまだ残っているのか、かなり疑問の余地がある。
それを受けて、呆れつつもガイが訊いた。
「じゃあ村に残るか?」
するとそれには首をぶんぶんと横にふるタリン。
「嫌だ。オレも姫さんの見ている所で手柄を立てて天下に名を轟かせるんだよ!」
「そうそう。がんばれ。いってらっしゃい。ばんざーいばんざーい」
ララが両手をあげて喝采を送った。その顔は本気でどうでも良さそうであるが。
そんなやりとりを聞きながらスティーナが歯がみする。
「ヒートレディバグは師匠の盾なのに」
多少の迷いは見せていたが、ここに至ってレレンが告げた。
「そうだな。やはり私もガイと行こう。影針が村を狙うならもう何か仕掛けていると思うし、シャンリーを首都に届ける事を優先だ」
こうしてメンバーが決定する中、ララは恨みと憤りの籠った視線をガイに向けて頬を膨らませていた。
困って額を抑えるガイ。
(なんで俺が恨まれてるんだろうな?)
ホン侯爵領から戻って数日後。
今後の事を相談すべく、ガイは村の主だった面々を集会場に集めた。
皆が会議用のテーブルについたのを確認してから話を切り出すガイ。
「これから帝国の首都へ向かう。メンバーは前の、ホン侯爵領に行った時と同じにしようと思うが、いいよな?」
「ガイ殿、村の守りは大丈夫なのですか? もしあの怪獣が出ては……侯爵領に行く時は大丈夫だろうと思いましたが、今回は……」
村長コエトールは心配で仕方がないのだ。
ホン侯爵領に行った時は、敵の本拠地に乗り込む形だった。
だから乗り込むガイ達を無視して村に大きな戦力をぶつけてはこないだろう……と村長は考えたのだ。
しかし今回、敵は本拠地をどこかへ移しており、そこを探れぬままに帝国首都へ向かおうとしている。
ガイ達の留守をこれ幸いと前みたいに襲撃してこないかどうか、それが村長には不安なのだ。
「それについては防衛用の2機をカスタムしておいたわ。青銅級機の中ではかなりの高性能になったはず。強化改造した汎用武器も装備させてある」
自身に満ちた態度でそう言うとスティーナが立ち上がる。
そして身振りでついてくるよう皆へ促した。
――カサカ村の工場――
「あっちがBプレートリザード。そっちがBプレートピルバグです」
建屋の中、スティーナが指差した先には完成して間もない人造巨人がハンガーに持たれて立っている。
どちらも前からこの村にあった量産機を改造した物だ。
一機は厚い鎧を纒うリザードマン。腰の左右には戦鎚と機関銃を下げている。
もう一機は厚い鎧を纒う、ダンゴムシ頭の重装甲巨人。大きな大砲を右肩に担いでおり、左手にはスパイク・シールドを装備している。
「プレートって……板金鎧の事か。よくもまぁ両方ともこんな鈍重そうな機体にしたな」
呆れるタリン。
それをスティーナは大きな目で鋭く睨む。
「防衛用だから移動力は低くてもいいし。村の防壁も活用して立て籠りながら戦う前提だし。計算上は前に村を襲撃した戦力になら勝てるし」
「確かに前より性に合っとるわい。流石はワシの孫だ。これで誰も文句はなかろう」
イワンは納得して頷いた。
「ある」
だが否定の声が一つ。
皆はそちらへ振り向いた。異議があるのは女魔術師の――
「ララ?」
「村にレレン姉さんを残して」
彼女は元魔王軍の女親衛隊の、裾を掴んでそう主張する。
スティーナはムッと眉を顰めた。
「強化した2機では不安だと?」
「うん」
即答。
ララの態度に、スティーナの声が怒りを帯びる。
「私が現状望みうるベストの状態にしたのに、どこに不安があるか理論的に説明してみなさい」
ララは全く躊躇せず言い返した。
「以前の敵になら勝てる←これ蹴散らされるフラグにしか見えない」
あまり理論の話ではなかった。
しかしスティーナ以外の者達の間に、どこか納得したような空気が漂う。
「それで念の為Sヒートレディバグを残せと」
ガイが聞くと、ララは信頼を込めた瞳でレレンを見つめる。
「レレン姉さんなら生身での歩兵戦もできるし」
シャンリーが「うーん」と難しそうに唸った。
「レレンが貴重な戦力というのはわかるわ。だからこそ旅について来て欲しくはあるのよね」
これらの話を聞いて、当のレレンは戸惑っていた。まさか自分が両方から指名されるとは思っていなかったのだ。
「そ、そうか。私はどちらでもいいぞ。自分のベストを尽くすだけだ」
少々考え込んでから、ガイがララに提案してみる。
「元々パーティだったんだし、タリンを村に残すのはどうだ?」
ララは即答した。
「嫌。頼りにならない」
「なんだそりゃあ! ララ、リーダーへの口の利き方があんだろが!」
怒鳴るタリン。驚いた事に、まだパーティリーダーのつもりだったのだ。そもそも元のパーティがまだ残っているのか、かなり疑問の余地がある。
それを受けて、呆れつつもガイが訊いた。
「じゃあ村に残るか?」
するとそれには首をぶんぶんと横にふるタリン。
「嫌だ。オレも姫さんの見ている所で手柄を立てて天下に名を轟かせるんだよ!」
「そうそう。がんばれ。いってらっしゃい。ばんざーいばんざーい」
ララが両手をあげて喝采を送った。その顔は本気でどうでも良さそうであるが。
そんなやりとりを聞きながらスティーナが歯がみする。
「ヒートレディバグは師匠の盾なのに」
多少の迷いは見せていたが、ここに至ってレレンが告げた。
「そうだな。やはり私もガイと行こう。影針が村を狙うならもう何か仕掛けていると思うし、シャンリーを首都に届ける事を優先だ」
こうしてメンバーが決定する中、ララは恨みと憤りの籠った視線をガイに向けて頬を膨らませていた。
困って額を抑えるガイ。
(なんで俺が恨まれてるんだろうな?)
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる