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2章
23 皇女の帰還 1
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――カサカ村・集会場――
ホン侯爵領から戻って数日後。
今後の事を相談すべく、ガイは村の主だった面々を集会場に集めた。
皆が会議用のテーブルについたのを確認してから話を切り出すガイ。
「これから帝国の首都へ向かう。メンバーは前の、ホン侯爵領に行った時と同じにしようと思うが、いいよな?」
「ガイ殿、村の守りは大丈夫なのですか? もしあの怪獣が出ては……侯爵領に行く時は大丈夫だろうと思いましたが、今回は……」
村長コエトールは心配で仕方がないのだ。
ホン侯爵領に行った時は、敵の本拠地に乗り込む形だった。
だから乗り込むガイ達を無視して村に大きな戦力をぶつけてはこないだろう……と村長は考えたのだ。
しかし今回、敵は本拠地をどこかへ移しており、そこを探れぬままに帝国首都へ向かおうとしている。
ガイ達の留守をこれ幸いと前みたいに襲撃してこないかどうか、それが村長には不安なのだ。
「それについては防衛用の2機をカスタムしておいたわ。青銅級機の中ではかなりの高性能になったはず。強化改造した汎用武器も装備させてある」
自身に満ちた態度でそう言うとスティーナが立ち上がる。
そして身振りでついてくるよう皆へ促した。
――カサカ村の工場――
「あっちがBプレートリザード。そっちがBプレートピルバグです」
建屋の中、スティーナが指差した先には完成して間もない人造巨人がハンガーに持たれて立っている。
どちらも前からこの村にあった量産機を改造した物だ。
一機は厚い鎧を纒うリザードマン。腰の左右には戦鎚と機関銃を下げている。
もう一機は厚い鎧を纒う、ダンゴムシ頭の重装甲巨人。大きな大砲を右肩に担いでおり、左手にはスパイク・シールドを装備している。
「プレートって……板金鎧の事か。よくもまぁ両方ともこんな鈍重そうな機体にしたな」
呆れるタリン。
それをスティーナは大きな目で鋭く睨む。
「防衛用だから移動力は低くてもいいし。村の防壁も活用して立て籠りながら戦う前提だし。計算上は前に村を襲撃した戦力になら勝てるし」
「確かに前より性に合っとるわい。流石はワシの孫だ。これで誰も文句はなかろう」
イワンは納得して頷いた。
「ある」
だが否定の声が一つ。
皆はそちらへ振り向いた。異議があるのは女魔術師の――
「ララ?」
「村にレレン姉さんを残して」
彼女は元魔王軍の女親衛隊の、裾を掴んでそう主張する。
スティーナはムッと眉を顰めた。
「強化した2機では不安だと?」
「うん」
即答。
ララの態度に、スティーナの声が怒りを帯びる。
「私が現状望みうるベストの状態にしたのに、どこに不安があるか理論的に説明してみなさい」
ララは全く躊躇せず言い返した。
「以前の敵になら勝てる←これ蹴散らされるフラグにしか見えない」
あまり理論の話ではなかった。
しかしスティーナ以外の者達の間に、どこか納得したような空気が漂う。
「それで念の為Sヒートレディバグを残せと」
ガイが聞くと、ララは信頼を込めた瞳でレレンを見つめる。
「レレン姉さんなら生身での歩兵戦もできるし」
シャンリーが「うーん」と難しそうに唸った。
「レレンが貴重な戦力というのはわかるわ。だからこそ旅について来て欲しくはあるのよね」
これらの話を聞いて、当のレレンは戸惑っていた。まさか自分が両方から指名されるとは思っていなかったのだ。
「そ、そうか。私はどちらでもいいぞ。自分のベストを尽くすだけだ」
少々考え込んでから、ガイがララに提案してみる。
「元々パーティだったんだし、タリンを村に残すのはどうだ?」
ララは即答した。
「嫌。頼りにならない」
「なんだそりゃあ! ララ、リーダーへの口の利き方があんだろが!」
怒鳴るタリン。驚いた事に、まだパーティリーダーのつもりだったのだ。そもそも元のパーティがまだ残っているのか、かなり疑問の余地がある。
それを受けて、呆れつつもガイが訊いた。
「じゃあ村に残るか?」
するとそれには首をぶんぶんと横にふるタリン。
「嫌だ。オレも姫さんの見ている所で手柄を立てて天下に名を轟かせるんだよ!」
「そうそう。がんばれ。いってらっしゃい。ばんざーいばんざーい」
ララが両手をあげて喝采を送った。その顔は本気でどうでも良さそうであるが。
そんなやりとりを聞きながらスティーナが歯がみする。
「ヒートレディバグは師匠の盾なのに」
多少の迷いは見せていたが、ここに至ってレレンが告げた。
「そうだな。やはり私もガイと行こう。影針が村を狙うならもう何か仕掛けていると思うし、シャンリーを首都に届ける事を優先だ」
こうしてメンバーが決定する中、ララは恨みと憤りの籠った視線をガイに向けて頬を膨らませていた。
困って額を抑えるガイ。
(なんで俺が恨まれてるんだろうな?)
ホン侯爵領から戻って数日後。
今後の事を相談すべく、ガイは村の主だった面々を集会場に集めた。
皆が会議用のテーブルについたのを確認してから話を切り出すガイ。
「これから帝国の首都へ向かう。メンバーは前の、ホン侯爵領に行った時と同じにしようと思うが、いいよな?」
「ガイ殿、村の守りは大丈夫なのですか? もしあの怪獣が出ては……侯爵領に行く時は大丈夫だろうと思いましたが、今回は……」
村長コエトールは心配で仕方がないのだ。
ホン侯爵領に行った時は、敵の本拠地に乗り込む形だった。
だから乗り込むガイ達を無視して村に大きな戦力をぶつけてはこないだろう……と村長は考えたのだ。
しかし今回、敵は本拠地をどこかへ移しており、そこを探れぬままに帝国首都へ向かおうとしている。
ガイ達の留守をこれ幸いと前みたいに襲撃してこないかどうか、それが村長には不安なのだ。
「それについては防衛用の2機をカスタムしておいたわ。青銅級機の中ではかなりの高性能になったはず。強化改造した汎用武器も装備させてある」
自身に満ちた態度でそう言うとスティーナが立ち上がる。
そして身振りでついてくるよう皆へ促した。
――カサカ村の工場――
「あっちがBプレートリザード。そっちがBプレートピルバグです」
建屋の中、スティーナが指差した先には完成して間もない人造巨人がハンガーに持たれて立っている。
どちらも前からこの村にあった量産機を改造した物だ。
一機は厚い鎧を纒うリザードマン。腰の左右には戦鎚と機関銃を下げている。
もう一機は厚い鎧を纒う、ダンゴムシ頭の重装甲巨人。大きな大砲を右肩に担いでおり、左手にはスパイク・シールドを装備している。
「プレートって……板金鎧の事か。よくもまぁ両方ともこんな鈍重そうな機体にしたな」
呆れるタリン。
それをスティーナは大きな目で鋭く睨む。
「防衛用だから移動力は低くてもいいし。村の防壁も活用して立て籠りながら戦う前提だし。計算上は前に村を襲撃した戦力になら勝てるし」
「確かに前より性に合っとるわい。流石はワシの孫だ。これで誰も文句はなかろう」
イワンは納得して頷いた。
「ある」
だが否定の声が一つ。
皆はそちらへ振り向いた。異議があるのは女魔術師の――
「ララ?」
「村にレレン姉さんを残して」
彼女は元魔王軍の女親衛隊の、裾を掴んでそう主張する。
スティーナはムッと眉を顰めた。
「強化した2機では不安だと?」
「うん」
即答。
ララの態度に、スティーナの声が怒りを帯びる。
「私が現状望みうるベストの状態にしたのに、どこに不安があるか理論的に説明してみなさい」
ララは全く躊躇せず言い返した。
「以前の敵になら勝てる←これ蹴散らされるフラグにしか見えない」
あまり理論の話ではなかった。
しかしスティーナ以外の者達の間に、どこか納得したような空気が漂う。
「それで念の為Sヒートレディバグを残せと」
ガイが聞くと、ララは信頼を込めた瞳でレレンを見つめる。
「レレン姉さんなら生身での歩兵戦もできるし」
シャンリーが「うーん」と難しそうに唸った。
「レレンが貴重な戦力というのはわかるわ。だからこそ旅について来て欲しくはあるのよね」
これらの話を聞いて、当のレレンは戸惑っていた。まさか自分が両方から指名されるとは思っていなかったのだ。
「そ、そうか。私はどちらでもいいぞ。自分のベストを尽くすだけだ」
少々考え込んでから、ガイがララに提案してみる。
「元々パーティだったんだし、タリンを村に残すのはどうだ?」
ララは即答した。
「嫌。頼りにならない」
「なんだそりゃあ! ララ、リーダーへの口の利き方があんだろが!」
怒鳴るタリン。驚いた事に、まだパーティリーダーのつもりだったのだ。そもそも元のパーティがまだ残っているのか、かなり疑問の余地がある。
それを受けて、呆れつつもガイが訊いた。
「じゃあ村に残るか?」
するとそれには首をぶんぶんと横にふるタリン。
「嫌だ。オレも姫さんの見ている所で手柄を立てて天下に名を轟かせるんだよ!」
「そうそう。がんばれ。いってらっしゃい。ばんざーいばんざーい」
ララが両手をあげて喝采を送った。その顔は本気でどうでも良さそうであるが。
そんなやりとりを聞きながらスティーナが歯がみする。
「ヒートレディバグは師匠の盾なのに」
多少の迷いは見せていたが、ここに至ってレレンが告げた。
「そうだな。やはり私もガイと行こう。影針が村を狙うならもう何か仕掛けていると思うし、シャンリーを首都に届ける事を優先だ」
こうしてメンバーが決定する中、ララは恨みと憤りの籠った視線をガイに向けて頬を膨らませていた。
困って額を抑えるガイ。
(なんで俺が恨まれてるんだろうな?)
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