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2章

22 ホン侯爵家 3

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 他の世界出身の半吸血鬼ヴァンパイアハーフ。その事実を知り、ガイは納得した。
「それで最初に会った昼間と、二度目に戦った夜中じゃ強さが全然違ったわけだ」
吸血鬼ヴァンパイアはこの世界でも上級の不死怪物アンデッドモンスターですからね。その能力に聖勇士パラディン異界流ケイオス。強いわけです。けれど生い立ちも、魔竜をどこで手に入れたかもわかりましたけど……なぜケイト帝国に弓引くのです?」
 スティーナはそこに疑問があった。
 彼女だけではない。ガイ達一行は多かれ少なかれそこを不思議に思っている。
 それは元魔王軍幹部のレレンも同様だ。
「あいつの力が有れば、大概の親衛隊には勝てた気がするな。それでも魔王軍に降ったのが慎重策ゆえとして、潰れた今でもケイト帝国を攻撃する理由がわからない」

「ご両親が思っている以上に、ケイト帝国の皇帝になりたかったのかしら」
 シャンリーが思いついた事を言ってみたが、ガイにはおかしく思えた。
「だったら帝国を攻撃するのは逆じゃないのか。シャンリーさんに婿として選んでもらえるよう、帝国のために戦うアピールするならわかるけどさ」
 しかしポリアンナが、少し躊躇ためらいがちに告げる。
「……ケイトで皇帝になれるのは人間族だけなのです。どんな高位の貴族でも、どれほどの手柄をあげた勇者でも、例え皇帝の実子でも、他種族に即位の権利はありません」

 これは人間族だった初代皇帝が帝国を築いた時から不変の法律である。
 だが帝位に縁のない庶民には知らない者も多かった。

「ふーん。なんでだ?」
「建前上は初代皇帝が人間だったので、あくまで人間の帝国である……という理由です」
 疑問に思うタリン|(平民、どちらかというと下層出身)に説明するポリアンナ|(生まれついての貴族)。
「建前? じゃ本当は?」
「種族ごとに寿命が違うからです。エルフ族のように何百年も生きる物達がいますから、玉座をずっと占領されると、他の種族は何代もチャンスを失ってしまいます。栄えた時代も衰えた時代もありましたが、ケイト帝国は常に帝国として多くの人々を抱えて来ましたから……長きに渡って有力な貴族達の不満を溜めこむと、危険な火種が燻り続けてしまうのです」
 疑問に思うタリン|(平民、どちらかというと下層出身)に説明するポリアンナ|(生まれついての貴族)。


 長く続いた大帝国の歴史には、帝位を巡る争いも無数にあった。誰が帝位につき、子孫へ繋いでゆくか……そこには綺麗事では済まない事件がいくつもあった。
 そこへさらに災いの種を増やす事を避けたい思いと、一種族が握っている権利を手放したくない思いが重なり、帝国創設から今にいたるまで続いている法律なのだ。


 タリンはようやく合点がいった。
「で、マスターボケナスの野郎はダンピール族とやらだから即位の権利は失った……それを恨んで、こんな帝国ブッ壊れちまえ~となったんだな」
 だがシャンリーは昔を思い出し、考える。
「彼が帝位をそこまで望んでいれば、そうなのだけど……彼と会っていた十歳ごろからの数年間、野心のようなものは感じなかったわ。物静かで事を荒立てるのを嫌う、好感の持てる人で、友達としては付き合っていただいたけれど。熱心に求愛されたような覚えもない」
「求愛って、子供の頃ならそりゃあまぁ」
 ガイはそう思うのだが、シャンリーは頭をふって否定する。
「婚約者候補の中には帝位のために熱心なアピールしてきた人も何人かいたわ。でもその中にはユーガンはいなかった」


 シャンリーに選ばれれば次の皇帝である。
 家族か本人か……どちらの想いかはともかく、そこで必死になる者は子供といえど少なくなかった。
 だがユーガンはそうではなかったのだ。


「父上、母上。兄は何を考えているのでしょう?」
 ポリアンナが問うても、侯爵夫妻は悩むのみ。
「わからぬ。あの子にはあの子の思惑があるのだろうが……」

「いや、聞けよ」
 遠慮なくぬかすタリン。
「なんでそんなエラソウなんですか、貴方は」
 ジト目で睨むスティーナ。
 険悪な空気が間に漂う二人を他所に、シャンリーが夫妻に尋ねた。
「なんだかんだで彼に負い目を感じているのですか? 実親を自分達のために死なせてしまったという事で」

「「……」」
 沈黙する侯爵夫妻。
 否定はしない。

 そんな両親を目の当たりに、ポリアンナが歯がゆそうに、けれど決意を籠めて言った。
「父上と母上のお気持ち、わからぬではありません。けれど私には産まれた時から一緒にいた兄です。このままにはできません。次に兄とあった時に私が聞きます。本当ならもっと早くそうすべきでした」
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