フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
111 / 147
2章

21 魔の領域 8

しおりを挟む
 戦いが終わったガイ達は一先ず魔物の居留地へ戻った。
 魔物達がどう出るかと多少警戒はしたが、ダブルヘッドオーガの村長はにこやかに――オーガーなので凶悪なツラだが――出迎えてくれる。
「「いや皆さんお強い、流石です。この居留地を預かる者として頼もしく思いますぞ」」
 そこに敵意はいっさい見られなかった。

「あの影針えいしんという暗殺者について、知っている事を全部教えて欲しい」
 ガイがそう頼んでも、村長は二つの笑顔で頷く。 
「「承知しました。この居留地への被害を顧みなった時点で奴とは敵同士。ぜひ息の根を止めてくだされ」」
 そう前置きしてべらべらと喋り出す村長。

 結局、目新しい情報は無かったが……。

「「機体の修理と補給もやりましょうか」」
 さらにガイ達――というよりポリアンナに、村長は自ら申し出た。
「……それは街で行う事にする」
 そう言ってポリアンナが断わっても腹を立てはしない。
「「それは残念。ならば資金をいくらか包みますので足しにしてください」」
 自ら金目の物を渡しさえしたのだ。


――荒野を行くゾウムシ型運搬機の中――


「あの居留地の奴らは人間社会でやっていくつもりで、残党とは完全に別口になったのか?」
 街への帰路、ガイは疑問を口にする。
 それにあっさり頷くレレン。
「おそらくな。エイシンとは昔の同僚、それ以上ではない。滅んだ魔王軍にも別に未練は無いだろう」

 客人に用事があると言えば会わせてはやるし、戦うのも勝手にすればいいと考える。
 だがポリアンナには手出しをさせないし、居留地にも被害を与えるような戦法をとった今でははっきり敵視している。
 居留地の魔物達にとっては魔王軍残党はその程度の相手なのだ。

 だがそれを聞くとポリアンナは顔を歪めて額を抑えた。
「ならば人間社会に同化してくれればいいのですが……彼ら、街では暴力沙汰や窃盗が日常茶飯事なのです」
「他の社会を尊重しようという気は別に無い奴らばかりだからな。この世界の下級の魔物は、基本、強い奴が大将でそいつに従っているだけだ」
 そう言うレレンもかつて魔王軍でそういう連中を使っていた身なので、ちょっとバツが悪そうだった。


 神話の時代から延々と、魔王を名乗る悪の首領が現れてはそれに付き従って人類種族を攻撃し、魔王が敗れると僻地や地下に潜って次の機会に同じ事をする……下級の魔物はそんな生活を繰り返している種族達である。
 共生共存などという考え自体が存在していないのだ。
 そんな思考が芽生えた「異端児」は、彼らの社会から出て行ってしまう。


「あいつらにそのままでいいと、君の兄さんは認めているという事かい?」
 ガイの質問にポリアンナの顔はますます渋くなった。
「……基本的には。人間の街には人間の掟がある、と口頭では伝えた筈ですが……実際に取り締まろうとはしていません。けれど私が治安維持に乗り出す事は、知っても止めませんでした。留守にする事も多くて、兄が何を考えているのかもう私には……」
 苦悩する彼女に、側の席から呑気な声をかけるタリン。
「まぁ操られているなら何も考えてないんじゃねーか?」
 言っている事は呑気どころではないが。

 ポリアンナの顔はますます沈む一方だ。
「その黒幕を両親が知っている……そんな事、信じられませんが……」
「あの村長が嘘吐いてるのかもしれんぜ。心の中を読む魔法の珠紋石じゅもんせきは作ってねーのかよ?」
 タリンの質問はガイに向けられた。
 腕を組んで「ううむ」と考えるガイ。
「正直、作ろうとは思った。今回は黒幕がどこに潜んでいるかわからないからな。けれど材料の都合がつかなくてさ……」

 特殊な魔法には希少な素材が要る。
 植物由来の物ならほぼ無制限に入手できるようにはなったが、それ以外の、流通する数の少ない物となるとやはり難しい物も有るのだ。


――サイーキの街、治安維持部隊の本部――


 街に戻ると遅い時刻になっていたので、ガイ達はポリアンナの勧めもあって本部に泊めてもらう事にした。
 この国に入っている事を魔王軍残党に知られている以上、街の宿に泊まるのは危険と判断したのだ。

 夕食。食堂ではなく泊まる部屋にテーブルを持ち込み、一同皆で食事をとる。
 そうしながらシャンリーはここに来た経緯をポリアンナに話した。

 自分が魔王軍との戦いで記憶を失った事も、奇妙な縁でガイと行動を共にしている事も。

「そんな事になっていたんですか……」
 話の最中ずっと目を丸くしていたが、ポリアンナは納得したようだった。
 ケイト国の部隊をシャンリーが連れていない事も。
「ええ。ちょっと複雑な状況だけど、滞りなく侯爵夫婦に会えないかしら」
 そのシャンリーの意見にポリアンナは頷く。
「わかりました。一刻を争いますし、なんとかします」


――本部の庭の片隅――


 夕食後。
 ガイはイムを連れて庭の隅……小さな林にいた。
 月光の中、樹木に手を触れる。すると枝が見る間に実をつけた。
 サクランボの実が、いくつか。その樹木はサクラとは無関係な品種なのだが。
 イムはそれをもぐと、嬉しそうに食べ始めた。

 微かな足音を聞きつけて振り返るガイ。
 樹木の陰にスティーナが現れた。

「どうした? シャンリーさんが俺を呼んでるのかい?」
 自分を探しに来たのだろうと判断し、ガイは声をかける。
 だがスティーナはかぶりを振った。
「いいえ。ポリアンナさんと今後の相談をしています」

 それを聞いて、ガイはケイト帝国が壊滅する前に聞いた噂を思い出した。
「帝国のお姫さんは政治にも関わってなさると噂に聞いた事はあるけど、あれなら嘘でもないんだろうな」
 そんなガイをスティーナは大きな瞳で窺う。
「……いいんですか? 前と変わった気がしますけど」
「そりゃ変わるだろ。記憶が戻ったんだから」
 当然の事なので当然のように答えるガイ。

 だがスティーナは、やはりガイを窺っていた。
 一生懸命、何かを見通そうとして。
「師匠もちょっと……その……」

「肉体が変わったら、そりゃ精神も影響を受けるさ」
 ガイはそう答えておいた。
 だがそれはスティーナの求める言葉では無かったようだ。
「夫婦じゃなかった事はわかりました。けれど……不自然に思わないぐらい、二人は仲が良かったように見えました」
 彼女はそう訴える。
 頷くガイ。落ち着いて静かに告げた。
「俺は仲良くさせてもらってたよ。、シャンリーさんの事は好きだな」

 それも恐らくスティーナの求める答えではないだろうと、薄々思ってはいたが。

「変わりましたね、師匠」
 小さく。ぽつりと。そう呟いて。
 スティーナは一礼し、くるりと背をむけ、暗い林の中を静かに歩いて、明かりの灯る本部へ去って行った。


「?」
 スティーナの背を見送りつつイムが首を傾げる。彼女にはスティーナが何を言いたいのかわからないのだ。
 ガイの方は……自分の掌を見つめていた。
(正直、何とも言えない違和感が……少し、無いでもない)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...