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2章
21 魔の領域 5
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「魔法火力完全燃焼部隊、やれい!」
影針の声が裏庭に轟いた。
命令後即座に、いっせいに。魔王軍残党の魔術師達がいっせいに呪文を飛ばす!
50を超える数がいて、呪文の発射はほとんど同時だった。足並みを揃えた徹底的な重ね掛けでなければ、この戦法の意味は半減してしまうからだ。
それにしても本来なら詠唱を挟むのでここまでの人数でこうもタイミングは合わない……筈なのだが。
もちろん無詠唱などというわけではない。そこまでの腕利きをこれだけの数揃える事は残党程度にはできない。
単に詠唱を終えて発射体勢で待っていたのだ。
暗殺者の影針が長々と話をしていたのはこの布石だったのである。
「汚ねぇ!」
頭を庇いながら必死に叫ぶタリン。
だがしかし。
準備時間がある事に気付いた者がいた――他ならぬガイ自身である。
腰の小鞄から珠紋石を2つ、手の中に握り込んでいつでも使える状態にしてあったのだ。
敵軍から呪文が放たれた瞬間、その珠紋石は聖剣にセットされていた。
『マジックスクリーン。デッドリーカズム』
そして二つの呪文が炸裂する――アイテムの使用に長い詠唱などあろう筈もない。
【マジックスクリーン】魔領域4レベルの防御呪文。呪文全般への抵抗力を上げる。
【デッドリーカズム】大地領域第7ランク、最高位の呪文。地面に無数の裂け目が走り、敵をことごとく呑み込む。いわゆる即死系呪文ではあるが、飛行・浮遊していなければ不死や魔法生物にも有効。
無数の呪文がガイ達に着弾する瞬間、ガイは木刀を地面に突き立てた。
一行を覆う魔力のバリアが全ての呪文の威力をごっそりと軽減した。
逆に木刀が刺さった地点から地面に無数の地割れが走り、次々と敵を呑み込む!
無数の断末魔が地底に消えていった。
地割れが閉じる。
裏庭には何も無くなった。敵も石塔ももはや一つも残っていない。影針の集めた魔術師達は一匹も生き残ってはいなかった。
ダブルヘッドオーガーの村長が凄惨な現場を信じられない思いで見つめ、思わず漏らしていた。
「攻撃と防御の魔法を同時使用だと……!?」
ポリアンナも呆然とガイを見ている。
二人が驚くのは当然である。一度のアクションで2つの呪文を発動させる者など、この世界の常識でも外れた話だ。
様々な世界から召喚される者がいる故、過去に全く例がないわけではない。だが「そういう特別な能力を持っている者も伝説にはいた」程度の話であり、自分達が目の当たりにする等と思った事も無いのだ。
そして魔法戦士でもあるポリアンナが呻く。
「魔法の片方は大地領域最高レベルの呪文……! マスタークラスの魔術師でなければ習得できない物なのに……」
実際、彼女がその目で見るのは初めてだった。
だが今のガイにとっては、そこまで難しい呪文ではないのだ。
なにせ世界樹の分身にして番人・ウルザルブルンの特殊能力を使えば、植物系に限りどんな希少素材でもほぼ無尽蔵に入手できる。
他の素材も金で買える物ならだいたい入手できる。
作成可能なアイテムのレベル上限は極端に上がり、難易度は極端に下がっている状態なのだ。
それでも最高位の呪文発動アイテム、そう数多く作る事はできない――が、逆に言えば少しは造っておく事ができる。だから何個かは腰の鞄に入っていた。
スティーナは自分達を見回して感心する。
「それにしても無傷とは。武具の新調をした成果が出ましたね」
「ちょっと大枚はたいたが、悪い買い物じゃなかったぜ」
言って肩を竦めるガイ。
シャンリーまでも含め、一行が装備している武具や服は優れた性能の一級品だ。ガイは出発前にそれを各人へ支給したのである。
「ヘッヘッヘ。俺という精鋭に相応しい武具だな!」
タリンが自分の着ているブレストプレートを軽く叩きながら笑った。
薄手とはいえミスリル銀も使われた合金で、軽く堅く、各種属性防御も満遍なく備えた魔法の鎧を。
そんなタリンを横目で見つつガイは思う。
(すまねぇな、そうじゃない。なんだかんだで村のために働いてもらってるし、追放うんぬんを今さら恨んでいるわけじゃないんだが……)
タリンを同行者に選んだ理由……それは本業が無く、ケイオス・ウォリアーの操縦ができ、万が一倒れても村に悪影響が出ないからだ。
鍛冶屋や農夫を自分の都合で長期間連れまわすのは悪いから、彼らを除外したのである。
別にタリン個人を何か評価したからではないのだ。
なおアイテムや装備に金をかける事ができたのは、最近は金回りが良いからである。
ガイが地主になった事、無税で暮らしている事も理由だが……実はジュエラドンが各地で暴れているせいで流通網に被害が出ている中、カサカ村はガイ達が邪魔な怪獣を倒したのでちゃんと物が届いている事も大きい。
他の地域が入荷や製造が滞っている中、カサカ村は魔法道具を以前とほぼ変わらず販売し続けているのである。それが思わぬ影響を及ぼしていたのだ。
だからといってこのままにするつもりなど、ガイには毛頭無いが。
「む? 影針がいない……」
レレンの声がガイを物思いから呼び戻した。
タリンが「はん!」と鼻を鳴らす。
「ケツまくって逃げやがったか。しょせん暗殺者なんてそんなもんよ」
だがそこに轟く巨大な咆哮!
見れば近くの山中に巨大な怪獣の姿。言わずと知れたジュエラドンである。しかも今回は2匹だ。
「今度は複数かよ。わかり易い戦力をぶつけてくるな……」
ガイは呆れたが、村長はギリギリと歯軋りしていた。
「奴め、適当な事を言いおって! この居留地ごと潰す気か」
「暗殺者が雇い主以外に言った事なんて、信用できるもんじゃないでしょう」
淡々とスティーナが言った、その時。
裏庭に骸骨馬――シロウが駆け込んで来た。
『迎えに来たぞ。早く乗れ』
影針の声が裏庭に轟いた。
命令後即座に、いっせいに。魔王軍残党の魔術師達がいっせいに呪文を飛ばす!
50を超える数がいて、呪文の発射はほとんど同時だった。足並みを揃えた徹底的な重ね掛けでなければ、この戦法の意味は半減してしまうからだ。
それにしても本来なら詠唱を挟むのでここまでの人数でこうもタイミングは合わない……筈なのだが。
もちろん無詠唱などというわけではない。そこまでの腕利きをこれだけの数揃える事は残党程度にはできない。
単に詠唱を終えて発射体勢で待っていたのだ。
暗殺者の影針が長々と話をしていたのはこの布石だったのである。
「汚ねぇ!」
頭を庇いながら必死に叫ぶタリン。
だがしかし。
準備時間がある事に気付いた者がいた――他ならぬガイ自身である。
腰の小鞄から珠紋石を2つ、手の中に握り込んでいつでも使える状態にしてあったのだ。
敵軍から呪文が放たれた瞬間、その珠紋石は聖剣にセットされていた。
『マジックスクリーン。デッドリーカズム』
そして二つの呪文が炸裂する――アイテムの使用に長い詠唱などあろう筈もない。
【マジックスクリーン】魔領域4レベルの防御呪文。呪文全般への抵抗力を上げる。
【デッドリーカズム】大地領域第7ランク、最高位の呪文。地面に無数の裂け目が走り、敵をことごとく呑み込む。いわゆる即死系呪文ではあるが、飛行・浮遊していなければ不死や魔法生物にも有効。
無数の呪文がガイ達に着弾する瞬間、ガイは木刀を地面に突き立てた。
一行を覆う魔力のバリアが全ての呪文の威力をごっそりと軽減した。
逆に木刀が刺さった地点から地面に無数の地割れが走り、次々と敵を呑み込む!
無数の断末魔が地底に消えていった。
地割れが閉じる。
裏庭には何も無くなった。敵も石塔ももはや一つも残っていない。影針の集めた魔術師達は一匹も生き残ってはいなかった。
ダブルヘッドオーガーの村長が凄惨な現場を信じられない思いで見つめ、思わず漏らしていた。
「攻撃と防御の魔法を同時使用だと……!?」
ポリアンナも呆然とガイを見ている。
二人が驚くのは当然である。一度のアクションで2つの呪文を発動させる者など、この世界の常識でも外れた話だ。
様々な世界から召喚される者がいる故、過去に全く例がないわけではない。だが「そういう特別な能力を持っている者も伝説にはいた」程度の話であり、自分達が目の当たりにする等と思った事も無いのだ。
そして魔法戦士でもあるポリアンナが呻く。
「魔法の片方は大地領域最高レベルの呪文……! マスタークラスの魔術師でなければ習得できない物なのに……」
実際、彼女がその目で見るのは初めてだった。
だが今のガイにとっては、そこまで難しい呪文ではないのだ。
なにせ世界樹の分身にして番人・ウルザルブルンの特殊能力を使えば、植物系に限りどんな希少素材でもほぼ無尽蔵に入手できる。
他の素材も金で買える物ならだいたい入手できる。
作成可能なアイテムのレベル上限は極端に上がり、難易度は極端に下がっている状態なのだ。
それでも最高位の呪文発動アイテム、そう数多く作る事はできない――が、逆に言えば少しは造っておく事ができる。だから何個かは腰の鞄に入っていた。
スティーナは自分達を見回して感心する。
「それにしても無傷とは。武具の新調をした成果が出ましたね」
「ちょっと大枚はたいたが、悪い買い物じゃなかったぜ」
言って肩を竦めるガイ。
シャンリーまでも含め、一行が装備している武具や服は優れた性能の一級品だ。ガイは出発前にそれを各人へ支給したのである。
「ヘッヘッヘ。俺という精鋭に相応しい武具だな!」
タリンが自分の着ているブレストプレートを軽く叩きながら笑った。
薄手とはいえミスリル銀も使われた合金で、軽く堅く、各種属性防御も満遍なく備えた魔法の鎧を。
そんなタリンを横目で見つつガイは思う。
(すまねぇな、そうじゃない。なんだかんだで村のために働いてもらってるし、追放うんぬんを今さら恨んでいるわけじゃないんだが……)
タリンを同行者に選んだ理由……それは本業が無く、ケイオス・ウォリアーの操縦ができ、万が一倒れても村に悪影響が出ないからだ。
鍛冶屋や農夫を自分の都合で長期間連れまわすのは悪いから、彼らを除外したのである。
別にタリン個人を何か評価したからではないのだ。
なおアイテムや装備に金をかける事ができたのは、最近は金回りが良いからである。
ガイが地主になった事、無税で暮らしている事も理由だが……実はジュエラドンが各地で暴れているせいで流通網に被害が出ている中、カサカ村はガイ達が邪魔な怪獣を倒したのでちゃんと物が届いている事も大きい。
他の地域が入荷や製造が滞っている中、カサカ村は魔法道具を以前とほぼ変わらず販売し続けているのである。それが思わぬ影響を及ぼしていたのだ。
だからといってこのままにするつもりなど、ガイには毛頭無いが。
「む? 影針がいない……」
レレンの声がガイを物思いから呼び戻した。
タリンが「はん!」と鼻を鳴らす。
「ケツまくって逃げやがったか。しょせん暗殺者なんてそんなもんよ」
だがそこに轟く巨大な咆哮!
見れば近くの山中に巨大な怪獣の姿。言わずと知れたジュエラドンである。しかも今回は2匹だ。
「今度は複数かよ。わかり易い戦力をぶつけてくるな……」
ガイは呆れたが、村長はギリギリと歯軋りしていた。
「奴め、適当な事を言いおって! この居留地ごと潰す気か」
「暗殺者が雇い主以外に言った事なんて、信用できるもんじゃないでしょう」
淡々とスティーナが言った、その時。
裏庭に骸骨馬――シロウが駆け込んで来た。
『迎えに来たぞ。早く乗れ』
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