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2章
21 魔の領域 3
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――魔物の居留地・バイオレントヴィレッジ――
大通りを行くゾウムシの運搬機を、ゴブリンやオーク等の下級の魔物どもが警戒心を露わに窺う。
しかし助手席にポリアンナがいるのを見て、そいつらは何も仕掛けてはこなかった。
一方、ポリアンナは苦悩に満ちた顔でガイ達に過去を話していた。
「魔王軍に降ったのは兄の判断です。父がそんな事を承知したのは今でも信じ難いのですが、私の前で、確かに兄へ許可を出しました。おかげで我が領は戦火を免れたのですが……魔王軍が滅んだというのに、今でも魔物達が住み着いています」
「貴女が公安部隊を結成したのは、領内の秩序を守るためですね?」
操縦しながらスティーナが訊くと、ポリアンナは頷く。
「はい。地元民と魔物達、両方を抑えるには両方に苛烈な態度をとるしかない……私の頭では他に思いつきませんでした」
後部座席からシャンリーが口を挟む。
「両方から恐れ、嫌われるわよ?」
「承知の上です」
動じる事なく、はっきりと。ポリアンナはそれにも頷いた。
タリンは話にあまり興味が無いようで、往来の魔物どもを眺めていた。
「どいつもこいつも不細工なツラしてんな」
共に外を窺っていたレレンがポリアンナへ訊く。
「しかしどうやって黒幕を探すのだ?」
「下っ端ではなくそれなりの地位がある相手でないと、話にならないと思います。村長の所へ行こうかと」
そう答えながらポリアンナはモニターを指さす。
示した点は……現在向かっている場所だ。彼女は始めからそこへ運搬機を誘導していたのだ。
――村長宅――
村長はポリアンナと「そのお付きの一行」を快く迎え入れてくれた。
砦のような無骨な石造りの建物の奥で待っていたのは一体のオーガーロード。赤銅色の肌に身長2メートルを超える屈強な巨体。畳の上にあぐらをかき、傍らには人間並みの大きさの棘つき金棒。
そして何より奇怪なのは、頭が二つ有る事……ツインヘッドオーガーロードなのだ。
「「ようこそおいで下さった、ポリアンナ様」」
二つの口が同時に喋る。口調は丁寧だが畏まった様子はない。だが敵意も感じられない。
ポリアンナは頷き、自らも畳の上に座った。
「うむ、突然の訪問ですまないな。調べたい事がある。協力してもらえるな?」
「「それはもちろん! お付きの方々もどうぞそちらへ」」
言って近くのテーブルを指さす村長。
ミカンの入った笊と茶瓶、複数の湯飲みが置いてある。自分らで勝手に飲み食いしてろという事だろう。
ガイ達がテーブルにつくと、ポリアンナは兄の事を話した。
その周辺でおかしな事をしている者、何か吹き込んでいる者はいないか……と。
(そんな正直に聞いて、話してくれるかなぁ?)
ガイはそう思ったが、口は挟まない事にした。
だが行動する時を誤らないよう、何か怪しい兆候がないか観察だけはしておく。
しかし……意外にも。
「「はぁ、困りましたな」」
村長ははっきりとそう言った。
「どういう意味だ」
当然、ポリアンナは問いただす。
それに対して村長は――
「「貴女の兄上について、詳しい事は口止めされていますゆえ」」
己が何か知っている事を、堂々と口にしたのだ。
その上で誰かに喋らないよう言われている事さえ。
「貴様、何を知っている!」
いきり立つポリアンナ。その手を腰の剣にかけさえしている。
しかし村長は動じない。そしてポリアンナに告げたのだ。
「「口止めしたのはマスターボウガス……貴女の兄上自身ですぞ」」
「なっ!?」
目を丸くするポリアンナ。
そんな彼女を前に、村長は神妙に頭を振った。
「まぁご両親にお聞き為さればどうか」
「ど、どういう意味だ!」
思いがけなく両親の事が出てきて、ポリアンナは動揺する一方だ。
問い詰めている側でありながら、彼女は会話の主導権を完全に失っていた。
ミカンを食いながらタリンが肩を竦める。
「どうもあんただけ蚊帳の外みたいだぜ」
そう言われて「ハッ」と気を取り直し、ポリアンナは少しの間逡巡した。
だがやがてスッと立ち上がる。
「……いいだろう、両親に確かめる。もし私を謀っていれば相応の処分があると思え!」
そう言われても村長には全く恐れる気配も敵意の欠片も無い。平気な顔で頷くだけだ。
「「わかりました。あ……そうそう。お付きの方々はもしやガイ殿ご一行ですか?」」
「知っているのか」
嫌な予感がしながらも聞き返すガイ。
村長は畳を踏みしめて立ち上がる。
「「別の客人が先に来られておりましてな。あなた方がもしこの村に来られたら報せよとの事でした。その方はこちらで待っていますぞ」」
――村長宅・裏庭――
屋敷の裏庭には沢山の石塔が立っていた。雑に切り出した石を崩れないよう積んだ無骨な物だ。
しかし……見渡しても誰もいない。
「どこにいるんだ?」
タリンが村長へ振り返るが、ガイは石塔の一つを指さした。
「あちこちにいる。あそこにも」
すると石塔の陰から黒装束の男が音も無く現れる。
魔王軍残党の暗殺者・影針が。
「流石に貴様は気づくか。ここに潜む者達の事も……な」
敵の登場に驚きながらも、レレンは急いでガイに訊いた。
「どういう事だ?」
「待ち構えていやがったという事だ」
ガイが答えるや、石塔や他の物陰から敵が姿を現した。
大通りを行くゾウムシの運搬機を、ゴブリンやオーク等の下級の魔物どもが警戒心を露わに窺う。
しかし助手席にポリアンナがいるのを見て、そいつらは何も仕掛けてはこなかった。
一方、ポリアンナは苦悩に満ちた顔でガイ達に過去を話していた。
「魔王軍に降ったのは兄の判断です。父がそんな事を承知したのは今でも信じ難いのですが、私の前で、確かに兄へ許可を出しました。おかげで我が領は戦火を免れたのですが……魔王軍が滅んだというのに、今でも魔物達が住み着いています」
「貴女が公安部隊を結成したのは、領内の秩序を守るためですね?」
操縦しながらスティーナが訊くと、ポリアンナは頷く。
「はい。地元民と魔物達、両方を抑えるには両方に苛烈な態度をとるしかない……私の頭では他に思いつきませんでした」
後部座席からシャンリーが口を挟む。
「両方から恐れ、嫌われるわよ?」
「承知の上です」
動じる事なく、はっきりと。ポリアンナはそれにも頷いた。
タリンは話にあまり興味が無いようで、往来の魔物どもを眺めていた。
「どいつもこいつも不細工なツラしてんな」
共に外を窺っていたレレンがポリアンナへ訊く。
「しかしどうやって黒幕を探すのだ?」
「下っ端ではなくそれなりの地位がある相手でないと、話にならないと思います。村長の所へ行こうかと」
そう答えながらポリアンナはモニターを指さす。
示した点は……現在向かっている場所だ。彼女は始めからそこへ運搬機を誘導していたのだ。
――村長宅――
村長はポリアンナと「そのお付きの一行」を快く迎え入れてくれた。
砦のような無骨な石造りの建物の奥で待っていたのは一体のオーガーロード。赤銅色の肌に身長2メートルを超える屈強な巨体。畳の上にあぐらをかき、傍らには人間並みの大きさの棘つき金棒。
そして何より奇怪なのは、頭が二つ有る事……ツインヘッドオーガーロードなのだ。
「「ようこそおいで下さった、ポリアンナ様」」
二つの口が同時に喋る。口調は丁寧だが畏まった様子はない。だが敵意も感じられない。
ポリアンナは頷き、自らも畳の上に座った。
「うむ、突然の訪問ですまないな。調べたい事がある。協力してもらえるな?」
「「それはもちろん! お付きの方々もどうぞそちらへ」」
言って近くのテーブルを指さす村長。
ミカンの入った笊と茶瓶、複数の湯飲みが置いてある。自分らで勝手に飲み食いしてろという事だろう。
ガイ達がテーブルにつくと、ポリアンナは兄の事を話した。
その周辺でおかしな事をしている者、何か吹き込んでいる者はいないか……と。
(そんな正直に聞いて、話してくれるかなぁ?)
ガイはそう思ったが、口は挟まない事にした。
だが行動する時を誤らないよう、何か怪しい兆候がないか観察だけはしておく。
しかし……意外にも。
「「はぁ、困りましたな」」
村長ははっきりとそう言った。
「どういう意味だ」
当然、ポリアンナは問いただす。
それに対して村長は――
「「貴女の兄上について、詳しい事は口止めされていますゆえ」」
己が何か知っている事を、堂々と口にしたのだ。
その上で誰かに喋らないよう言われている事さえ。
「貴様、何を知っている!」
いきり立つポリアンナ。その手を腰の剣にかけさえしている。
しかし村長は動じない。そしてポリアンナに告げたのだ。
「「口止めしたのはマスターボウガス……貴女の兄上自身ですぞ」」
「なっ!?」
目を丸くするポリアンナ。
そんな彼女を前に、村長は神妙に頭を振った。
「まぁご両親にお聞き為さればどうか」
「ど、どういう意味だ!」
思いがけなく両親の事が出てきて、ポリアンナは動揺する一方だ。
問い詰めている側でありながら、彼女は会話の主導権を完全に失っていた。
ミカンを食いながらタリンが肩を竦める。
「どうもあんただけ蚊帳の外みたいだぜ」
そう言われて「ハッ」と気を取り直し、ポリアンナは少しの間逡巡した。
だがやがてスッと立ち上がる。
「……いいだろう、両親に確かめる。もし私を謀っていれば相応の処分があると思え!」
そう言われても村長には全く恐れる気配も敵意の欠片も無い。平気な顔で頷くだけだ。
「「わかりました。あ……そうそう。お付きの方々はもしやガイ殿ご一行ですか?」」
「知っているのか」
嫌な予感がしながらも聞き返すガイ。
村長は畳を踏みしめて立ち上がる。
「「別の客人が先に来られておりましてな。あなた方がもしこの村に来られたら報せよとの事でした。その方はこちらで待っていますぞ」」
――村長宅・裏庭――
屋敷の裏庭には沢山の石塔が立っていた。雑に切り出した石を崩れないよう積んだ無骨な物だ。
しかし……見渡しても誰もいない。
「どこにいるんだ?」
タリンが村長へ振り返るが、ガイは石塔の一つを指さした。
「あちこちにいる。あそこにも」
すると石塔の陰から黒装束の男が音も無く現れる。
魔王軍残党の暗殺者・影針が。
「流石に貴様は気づくか。ここに潜む者達の事も……な」
敵の登場に驚きながらも、レレンは急いでガイに訊いた。
「どういう事だ?」
「待ち構えていやがったという事だ」
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