上 下
105 / 147
2章

21 魔の領域 2

しおりを挟む
 ならず者どもを震え上がらせ逃走させた騎士達。その隊長は赤毛を後ろで束ねた、ガイと歳の変わらない少女。
 彼らを遠巻きに見る地元民の目にも薄っすらと恐怖があった。
 ガイはゾウムシ型の運搬機から降り、すぐ側にいた地元民に訊いてみる。
「ポリ公だって? あの騎士は一体……?」

 操縦席の中から女騎士を見ていたシャンリーが窓を開けて身を乗り出す。
 そして小さく呟いた。
「彼女は、ポリアンナ……?」

 それを聞いた地元民が頷く。
「ああそうじゃ。領主の一人娘、ポリアンア様じゃ。子供の頃から文武両道の才媛じゃったが……領が魔王軍の配下になってから、あの緋色の鎧を纏って公安維持部隊を結成なされた」
 そう言うと、地面に転がる三つの生首を見て震えあがった。
「その裁きは即座かつ絶対にして弁解無用。強制両成敗を掲げ、揉めた連中から一人ずつを必ず血祭にあげる。あまりに問答無用で必ず死者が出るがゆえ、領内のならず者どもはポリアンナ公安維持隊を『ポリ公』と呼んで恐れておるのじゃ」


 地元民の言葉が聞こえる筈もないが、赤い女魔法戦士ポリアンナがガイ達の方を振り向いた。
 その目が大きく見開かれる。と、彼女の顔色が蒼白になった。

 ポリアンナが大股でガイ達へ迫る。
 地元民が、潮が引くかのように道を開けた。
 付き従っていた騎士達は戸惑っている――彼らにも女隊長の行動が理解できないのだ。
 ガイ達の側へ来たポリアンナは、話しかけてくる。
「……お前達。我らが本部に来い」

 目の前に来られて、ガイはポリアンナがどこを見ているのか察した。
 運搬機にいるシャンリーだ。

 シャンリーもポリアンナを見つめて頷く。
「ええ、行きましょう」


――ポリアンナ公安維持部隊本部――


 街の警備兵の詰め所の一つを丸ごと使っている、公安維持部隊本部。
 その一室で人払いをし、ポリアンナはシャンリーに片膝をついて頭を下げた。
「ついにこの時が来てしまったのですね……何も弁解はいたしません。シャンリー様、我が領は魔王軍に従う事で安全を得ました。今となっては討伐されて当然というもの」
 そして強い眼差しでシャンリーを見上げる。
「しかし両親に情けをかけ、お取り潰しだけはご容赦願えませんか。私のこの首なら差し出します」

 そんな彼女に――冷たささえある眼差しで見つめながら――シャンリーは言った。
貴女あなたが死んでもユーガンを放っておいたら意味がありません」

 ポリアンナは視線を落した。床についた手をぎゅっと握り締める。
「あ、兄としても苦渋の決断だったのだと思います。あの理知的で優しかった兄の事、領民の犠牲を最小限にするために仕方なく……」
 だが途中でタリンが「ハァ?」と口を挟む。
「いやいや、アンタの兄貴を吸血鬼にした奴を探して倒さないと意味ないだろ」
 するとポリアンナが仰天し、跳ねるような勢いで顔を上げた。
「ええ!? い、今なんと!?」
「……知らなかったのか」
 ガイは思わず呟いた。


 ガイ一同はマスターボウガス……ユーガン=ホンについて、わかっている事を全て話す。
 人払いがされていたのは幸いだった。
 ポリアンナは愕然としていたが、ケイト帝国第一皇女がいるガイ達一行の言葉を疑いはしなかった。


 呆けたように「そんな、そんな……」と呟くポリアンナを前に、タリンが「はーあ」と気の抜けた声をあげる。
「家族でさえ知らないなら黒幕がどこに潜んでいるかわかんねーな」
 少し考えスティーナが訊く。
「あなたの兄さんが変わる前後に家に入り込んだ者はいませんか?」
「いません」
 即答するポリアンナ。
 少し考えスティーナがさらに訊く。
「……使用人とかメイドとかも含めて」
「いません」
 即答するポリアンナ。

 ここまでの事を思い出し、ガイは首を捻りながらなんとか考えを絞り出した。
「魔物の居留地……この領にあるんだよな? そこが一番怪しいのかもしれないぜ」
「ならば私が案内します!」
 即答しながらポリアンナがア立ち上がった。


――サイーキの街から運搬機で離れる事、数時間――


 埃っぽい風が吹きすさぶ荒野をガイ達の運搬機が進む。
 ホン侯爵家領にある、魔王軍残党の居留地へ向かって。

 ポリアンナも同行を願い出て、運搬機の操縦席にいた。
 公安維持部隊の隊員は他には一人もいない。
「すいません。あそこに黒幕がいるという証拠を何も掴んでいない状況では、部隊を率いて乗り込む事はできません。あくまで私個人の視察という形になります……」
 詫びる彼女にタリンが肩をすくめる。
「立場って奴か。面倒くせーな」
「そこが適当よりはいいだろ」
 ガイはそう言いながら前方に注意を向けた。

 遠くに町並みが見えたからだ。
 岩山の裾にある、あばら家の並ぶ雑然とした街並みが。

 ポリアンナが嫌悪感を見せて呟く。
「あれが魔物達の居留地、バイオレントヴィレッジです」



(魔剣士ポリアンナ)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

千年生きた伝説の魔女は生まれ変わる〜今世の目標は孤独死しないことなのじゃっ!〜

君影 ルナ
ファンタジー
伝説の魔女は孤独だった。魔法の才能がありすぎたからだ。 「次の人生は……人に囲まれたいのぅ……」 そう言って死んでいった伝説の魔女が次に目覚めた時には赤ちゃんになっていた!? これは転生なのだと気がついた伝説の魔女の生まれ変わり、レタアちゃんは決めた。今度こそ孤独死しない!と。 魔法の才能がありすぎて孤独になったのだから、今度は出来損ないを演じる必要があると考えたレタアちゃん。しかし、出来損ないを演じすぎて家を追い出されてしまう。 「あれ、またワシひとりぼっちなのか!? それは不味い! どうにかせねば!」 これは魔法の天才が出来損ないを演じながら今世の目標「孤独死しない」を達成するために奮闘するお話。 ── ※なろう、ノベプラ、カクヨムにも重複投稿し始めました。 ※書き溜めているわけでもないので、不定期且つのんびりペースで投稿します。

転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
***11話まで改稿した影響で、その後の番号がずれています。 小さな村に住むリィカは、大量の魔物に村が襲われた時、恐怖から魔力を暴走させた。だが、その瞬間に前世の記憶が戻り、奇跡的に暴走を制御することに成功する。 魔力をしっかり扱えるように、と国立アルカライズ学園に入学して、なぜか王子やら貴族の子息やらと遭遇しながらも、無事に一年が経過。だがその修了式の日に、魔王が誕生した。 召喚された勇者が前世の夫と息子である事に驚愕しながらも、魔王討伐への旅に同行することを決意したリィカ。 「魔国をその目で見て欲しい。魔王様が誕生する意味を知って欲しい」。そう遺言を遺す魔族の意図は何なのか。 様々な戦いを経験し、謎を抱えながら、リィカたちは魔国へ向けて進んでいく。 他サイト様にも投稿しています。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

処理中です...