フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
103 / 147
2章

20 真の名 4

しおりを挟む
――村の工場――

 ボウガスの領に行く事が決まった日の午後。
 改造中の機体の最終調整が急ピッチで進められた。

 新たな機体は白銀級機シルバークラス。ケイオス・ウォリアーの分類7タイプのうち、妖虫型に属する機体である。
 これは撃破された機体を改造した物で――

「なるほど。影針えいしんの乗っていた機体がベースか」
 工場の敷地内にて、新型機を遠目に眺めてガイが感心していた。
 しかし機体から通信機ごしに、操縦者……レレンの不満げな声が届く。
「それはわかるが、なぜ蛾がテントウムシになっているんだ?」
 その言葉通り、機体の形状は全く変わってしまっているのだ。


 全体的にずんぐりと丸みを帯びたフォルムである。
 どこもかしこも分厚い装甲で覆われており、さながら板金を着こんでいるとでも言うべきか。そのせいで手足が短く見えてしまう。
 赤みがかったオレンジ色のカラーリングで、全身各所に黒い円が描かれていた。
 どっしりとした外観ではあるが、奇妙な事に武器らしき物は見当たらなかった。


 記録や計算に使う結晶板を手に、スティーナが当然のように言う。
「資材と役割の問題です」
「役割って……私が乗るならキマイラを元通りにして乗せてくれればいいのに」
 実にそうして欲しそうにレレンが漏らすが、スティーナは即「却下です」と告げた。
「師匠用の機能を外して移設するとまた作り直しより気持ちマシ程度の費用が要ります。高熱発生能力はつけておいたんだからそれに乗ってください」

 断られたレレン、不承不承モニターで機体のステータスを確認する。



Sヒートレディバグ
ファイティングアビリティ:130
ウェポンズアビリティ:130
スピードアビリティ:110
パワーアビリティ:130
アーマードアビリティ:160



 機体を歩かせながら、レレンは眉をしかめた。
「完全に装甲重視だな……私は闘争に最も大切なのは攻撃の姿勢だと思うんだが」
「バスタードスカルがデコイとするなら、そのヒートレディバグは盾です。散るまで師匠を守ってください」
「ま、まぁ、ガイのためなら……」
 スティーナの言い分を不承不承ふしょうぶしょう了解するレレン。
 自分がガイに敗れて軍門に降り、彼の下で行動を許されている……そんな今の自分の立場は理解しているつもりだった。
 それに高熱発生能力があるなら、自分の技を使わせて戦う事ができるだろう。決して守り一辺倒しかできないわけではない筈だ。

 試しに高熱発生能力を使うと、燐光を散らしながら炎が両手からあがる。
 これなら自分自身の必殺技をケイオス・ウォリアーで使う事が問題なくできそうだ。
 その具合を確認していると、スティーナの説明が入った。
「高熱発生能力は付けましたが、武器は一つも装備していません。自分の技で戦ってください」
「なんで何もつけないの!?」
「いちいちうるさいですね……どうせキマイラの時もブレイズなんとかしか使ってなかったじゃないですか」
 仰天するレレンへ、高熱発生能力が問題なく働いている事を確認しながら面倒臭そうにスティーナが言った。

 跳躍やショートダッシュをレレンが行っている間に、さらにスティーナの説明が入る。
「高熱発生能力の応用で、火炎噴射を利用して後ろ向きにホバー移動できます。背中が一番分厚いので上手く利用するのです」
「背中!? 脱出装置も背中から出すんだけど!?」
「いちいちうるさいですね……その機体の脱出装置は上に撃ち出す事もできますから大丈夫です」
 仰天するレレンへ、各種移動を確認しながら面倒臭そうにスティーナが言った。

 しかし納得し難いレレン。
「上だって? それはやっていい事なのか!?」
 ケイオス・ウォリアーの脱出装置は、操縦席ごと外へ撃ち出し、浮遊系の魔法を働かせて地面に軟着陸する……という物だ。
 余計な高度を稼いでいいシロモノではない。魔法が切れて滑落死してしまう。
 だがスティーナは眉一つ動かさず告げた。
「貴女の耐久力は人間以上なのでなんとかなります」
「なんでそう断言できるんだ!? なんか大雑把に決めつけてないか?」
「いちいちうるさいですね……この村の道具屋には浮遊系の魔法が発動するアイテムも売っています。心配なら買ってください」
 仰天するレレンへ、異常が起きていないか確認しながら面倒臭そうにスティーナが言った。

 だがまだレレンは納得できない。
「店で緊急避難用のアイテムを買えって……まさか自腹で、か?」
「いちいちうるさいですね……自分の命を小銭で買えるなら安いものでしょう」
 不満なレレンへ面倒臭そうにスティーナが言った。


 だがまだレレンは……何か言おうとはしたのだが、通信に農夫のタゴサックが割り込んできた。
「おいぃ!? 重装甲砲撃機のBカノンピルバグが分解されて装甲がごっそり消えとるぞ!」
 その通信は格納庫から。彼が一番良く使う機体が消滅していたのである。
「ま、まさかこの機体に……」
「あっちはあっちで、後でなんとかしておきます」
 不信を露わにするレレンへ面倒臭そうにスティーナが言った。


 動作試験の結果、新型機に欠陥は見当たらなかった。
 いよいよ旅立つ時が来た……という事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」 乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。 隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。 「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」 規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。 「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」 ◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。 ◯この話はフィクションです。 ◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...