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2章
20 真の名 3
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――村の集会場――
「けけけケイト帝国の第一皇女ですとぉ!?」
村長コエトールの悲鳴にも似た絶叫が建物の外にまで響き渡った。
彼以外の者も、声こそ出さないが誰も彼もが驚いている。
記憶を取り戻した翌日。
シャンリーはガイと共に主だった面々を集め、真実を告げた。
これまで夫婦を装っていたのは記憶を失っている点を付け込まれないためである事と、己の本当の名と身分を。
驚きのあまりロクに口も利けない一同を見渡し、シャンリーは静かに告げる。
「証拠はありません。信用するかどうかはご自由に」
皆が顔を見合わせる中、スティーナが恐る恐る尋ねる。
「それで、その……帰還より先にボウガスを討つのはなぜです?」
「一つは距離と方角。ここからだと全然別の方向で、ホン侯爵領の方が近いの」
シャンリーが答えると、次にレレンが訊いた。
「先にケイト国へ戻って軍の協力を受けないのか? その方が戦力は充実するが……」
しかしシャンリーは頭を振る。
「今の弱体化したケイト国では、あの怪獣――ジュエラドンと戦うのは難しいわ。被害を抑えきれていないし、ましてやより強力な本体が相手になる。それが二つ目の理由……一早く改造魔竜の脅威を取り除きます」
その説明は、どこか宣言のようにも聞こえた。
そこに何か気に入らない所があったのか。
女魔術師のララがムスッと不機嫌な表情を見せる。
「瓦解した帝国のためにこの村を利用すると? 今は帝国領じゃなくなったのに?」
首都に攻め込まれ、帝王と第一皇女が絶望的な行方不明。その上全土で魔王軍が暴れ、かつて大陸三大国家の一つだったケイト帝国は多くの王や貴族に独立されてしまった。カサカ村のあるカーチナガ子爵領も――元々辺境だった事もあり――支配下から出て、今やカーチナガ公国である。
まぁ都市一つとカサカ村含めた農村いくつかの都市国家だが。
さらに農夫のタゴサックが付け加えてくる。
「言い難いのですが、この村の流通ルートからはもうジュエラドンは退治していますから、当面の危険はありません。村としては協力の意義は薄いかと」
「という事ですが」
鍛冶屋のイアンがじっとシャンリーを窺う。
シャンリーは……顔色一つ変えず、眉一つ動かさずに頷いた。
「無理にとはいいません。ただガイは私個人が雇っている身。彼は連れて行きます」
「行くのか?」
「ああ」
レレンが訊くとガイは当然のように肯定した。
(雇主と傭兵だから、こんな感じで当たり前なのか? なんだか違和感がある。二人とも、芝居で仲良くしているようには見えなかったのに)
他より一早く二人の真の関係を知ったレレンだが、こうして見せられるとどうにも違和感がぬぐえない。
そんな彼女の思いを受けたかのように、ぽつりと女神官のリリが呟く。
「なんか……この人達、雰囲気変わったわね」
だがしかし。
そこに一人の男の声が「フッ」と鼻で笑ってからかかる。
「一人で行かせるわけねぇだろう」
一同が驚いて声の主を見た。
なぜならそれは――
「「「タリン!?」」」
仲間意識などとは到底無縁に思える男だったからだ。
だがタリンは立ち上がった。
そして嬉しそうに、実に活き活きと叫ぶのだ。
「帝国トップの前で手柄だと? そんな事を一人占めさせるか! オレがやってオレがビッグになる! いよいよ来やがったア!」
別に何か気にしたり難しく考えたりしていないだけだった。
というか完全に自分の都合良く事が運ぶと思っているようだ。
その自信と根拠が何なのかは誰も知らない。
それを見て思う所もあったのか、スティーナがシャンリーに訊いた。
「ところでマスターボウガスがなぜ不死怪物なのかはわかりませんか?」
そこで初めてシャンリーの表情が変わった。
浮かぬ顔であれこれ考えていたが、すぐに諦めて小さく溜息をつく。
「さっぱりね。彼は婚約者候補でも有力で、子供の頃はお付き合いも良好にしていたわ。けれど……3年ほど前から全く顔を見せなくなって。再会したらあの通りよ」
それを聞いて集会場の隅から顎を鳴らすガチガチいう音が響いた。
骸骨馬となったシロウが、足を折り曲げて床に座っているのだ。
『単純なこと。魔王軍にやられて不死怪物にされたんだろ。今でも怪獣使って残党として活動しているという事は、奴を操っている死霊術師が領内に潜んでいるんだろうよ』
己の身の上を鑑みての発言であった。
「そういう奴に心当たりはあります?」
ララは隣の席のレレンに訊いた。
なにせ彼女は元魔王軍親衛隊。何かしらの情報は有るかと尋ねたわけだが……
「むう……陸戦大隊にはいなかった。他の大隊まではちょっと……」
彼女は難しい顔で唸るばかり。
ところがそれを見てタリンはなぜかガッツポーズ。
「顔見知りじゃないなら気兼ねなくヤれるな!」
「元パーティーメンバーに襲いかかってたお前が言う事か?」
イアンが睨みながら唸った。
覚悟を決めたか、スティーナがキッと真剣な表情をシャンリーに向けた。
「わかりました。今製作中の新型機ができたらすぐ出発しましょう」
「けけけケイト帝国の第一皇女ですとぉ!?」
村長コエトールの悲鳴にも似た絶叫が建物の外にまで響き渡った。
彼以外の者も、声こそ出さないが誰も彼もが驚いている。
記憶を取り戻した翌日。
シャンリーはガイと共に主だった面々を集め、真実を告げた。
これまで夫婦を装っていたのは記憶を失っている点を付け込まれないためである事と、己の本当の名と身分を。
驚きのあまりロクに口も利けない一同を見渡し、シャンリーは静かに告げる。
「証拠はありません。信用するかどうかはご自由に」
皆が顔を見合わせる中、スティーナが恐る恐る尋ねる。
「それで、その……帰還より先にボウガスを討つのはなぜです?」
「一つは距離と方角。ここからだと全然別の方向で、ホン侯爵領の方が近いの」
シャンリーが答えると、次にレレンが訊いた。
「先にケイト国へ戻って軍の協力を受けないのか? その方が戦力は充実するが……」
しかしシャンリーは頭を振る。
「今の弱体化したケイト国では、あの怪獣――ジュエラドンと戦うのは難しいわ。被害を抑えきれていないし、ましてやより強力な本体が相手になる。それが二つ目の理由……一早く改造魔竜の脅威を取り除きます」
その説明は、どこか宣言のようにも聞こえた。
そこに何か気に入らない所があったのか。
女魔術師のララがムスッと不機嫌な表情を見せる。
「瓦解した帝国のためにこの村を利用すると? 今は帝国領じゃなくなったのに?」
首都に攻め込まれ、帝王と第一皇女が絶望的な行方不明。その上全土で魔王軍が暴れ、かつて大陸三大国家の一つだったケイト帝国は多くの王や貴族に独立されてしまった。カサカ村のあるカーチナガ子爵領も――元々辺境だった事もあり――支配下から出て、今やカーチナガ公国である。
まぁ都市一つとカサカ村含めた農村いくつかの都市国家だが。
さらに農夫のタゴサックが付け加えてくる。
「言い難いのですが、この村の流通ルートからはもうジュエラドンは退治していますから、当面の危険はありません。村としては協力の意義は薄いかと」
「という事ですが」
鍛冶屋のイアンがじっとシャンリーを窺う。
シャンリーは……顔色一つ変えず、眉一つ動かさずに頷いた。
「無理にとはいいません。ただガイは私個人が雇っている身。彼は連れて行きます」
「行くのか?」
「ああ」
レレンが訊くとガイは当然のように肯定した。
(雇主と傭兵だから、こんな感じで当たり前なのか? なんだか違和感がある。二人とも、芝居で仲良くしているようには見えなかったのに)
他より一早く二人の真の関係を知ったレレンだが、こうして見せられるとどうにも違和感がぬぐえない。
そんな彼女の思いを受けたかのように、ぽつりと女神官のリリが呟く。
「なんか……この人達、雰囲気変わったわね」
だがしかし。
そこに一人の男の声が「フッ」と鼻で笑ってからかかる。
「一人で行かせるわけねぇだろう」
一同が驚いて声の主を見た。
なぜならそれは――
「「「タリン!?」」」
仲間意識などとは到底無縁に思える男だったからだ。
だがタリンは立ち上がった。
そして嬉しそうに、実に活き活きと叫ぶのだ。
「帝国トップの前で手柄だと? そんな事を一人占めさせるか! オレがやってオレがビッグになる! いよいよ来やがったア!」
別に何か気にしたり難しく考えたりしていないだけだった。
というか完全に自分の都合良く事が運ぶと思っているようだ。
その自信と根拠が何なのかは誰も知らない。
それを見て思う所もあったのか、スティーナがシャンリーに訊いた。
「ところでマスターボウガスがなぜ不死怪物なのかはわかりませんか?」
そこで初めてシャンリーの表情が変わった。
浮かぬ顔であれこれ考えていたが、すぐに諦めて小さく溜息をつく。
「さっぱりね。彼は婚約者候補でも有力で、子供の頃はお付き合いも良好にしていたわ。けれど……3年ほど前から全く顔を見せなくなって。再会したらあの通りよ」
それを聞いて集会場の隅から顎を鳴らすガチガチいう音が響いた。
骸骨馬となったシロウが、足を折り曲げて床に座っているのだ。
『単純なこと。魔王軍にやられて不死怪物にされたんだろ。今でも怪獣使って残党として活動しているという事は、奴を操っている死霊術師が領内に潜んでいるんだろうよ』
己の身の上を鑑みての発言であった。
「そういう奴に心当たりはあります?」
ララは隣の席のレレンに訊いた。
なにせ彼女は元魔王軍親衛隊。何かしらの情報は有るかと尋ねたわけだが……
「むう……陸戦大隊にはいなかった。他の大隊まではちょっと……」
彼女は難しい顔で唸るばかり。
ところがそれを見てタリンはなぜかガッツポーズ。
「顔見知りじゃないなら気兼ねなくヤれるな!」
「元パーティーメンバーに襲いかかってたお前が言う事か?」
イアンが睨みながら唸った。
覚悟を決めたか、スティーナがキッと真剣な表情をシャンリーに向けた。
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