フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
93 / 147
2章

19 新たな守護者 2

しおりを挟む
――カサカ村近くの山中――


 夕闇の夜に月が浮かび始めた山の中。
 既に薄暗い森の中に、くぐもった断末魔が漏れる。それを漏らしたホブゴブリン兵は、剣を地面に落として2メートル近い巨体をに折って倒れた。ゴボリという不気味な音と共に、牙の生えた口から血が漏れる。
 息絶えた兵を足元に、レレンは油断なく周囲を窺った。彼女はこの山に入った直後から、山羊の角と蛇鱗の鎧をもつ戦闘形態バトルフォームに変身している。
 カサカ村が魔王軍残党に制圧され、周辺には魔物兵士が巡回するようになっている。その一人をレレンは仕留めたのだが、他の兵士に見られていたらそれも始末せねばならない。

 だが周囲は静かで何の気配も無かった。レレンは後ろへ合図する。
 数メートル後方の木陰から、ミオンとイムが顔を出した。

 足音をできるだけ立てないようにしながら、ミオンはレレンの側へ来る。
「ありがとう。貴女がいないともうここで終わっていたわ」
「私がいなければ竜神の方に行っていただけだろう」
 にこりともせずに言うレレン。
 ミオンは静かに頷く。
「そうよ。あっちにね」
 そして山を登る細い道の先へ視線を向けた。
「正しいのはこっち。そう思いながら」


――山中奥・隠し畑のそのさらに向こう――


 どんどん黒くなる空の下、既に大樹と言えそうなほどに成長したトネリコのような木。
 それを見上げてレレンは呟く。
「これが世界樹の若木か。ここにあるのを知っていたのも、ガイとミオンとイムの三人だけか」
「そうよ」
 頷きながら、ミオンもまた木を見上げていた。
 それを横目で見つつ、レレンは微かに「ぬう……」と呻く。その視線にはほんのちょっぴり、妬んでいるかのような色があった。

 しかしすぐに頭をふり、足元の紐を引っ張る。その先にあるのは――棺桶。冒険者達が仲間の遺体を運ぶ時によく使われる物だ。
 レレンはその蓋を開けた。
 中には大きな簀巻きが横たわっている。永遠の眠りについたガイだ……。

「で、ここでどうすればいい?」
 レレンが訊くと、ミオンは困って眉をしかめる。
「何か反応してくれる事を期待したんだけど……」
 木を見上げはするが。
 白む空を背に、木には何も起こる気配が無かった。

 だがしかし。
 イムがふわりと飛ぶと、木の根元を指さす。
「ここ。ここにガイを置いて」

 レレンとミオンは顔を見合わせ――すぐに動いた。
 ガイの遺体を棺から出し、簀巻きのまま木の根元に横たえる。

 だがそうするや、レレンが「!」と何かに気づいた。
「続けてくれ」
 ミオンにそう言うと、一人で麓の方へと足早に歩き去る。
(何かあったみたいね)
 それを察したミオンはレレンを黙って見送った。


――山中、隠し畑への道――


 既に暗い山道を独り降るレレン。
 だがおもむろに足を止めると、その拳に光と熱が宿る。
「そこか!」
 叫びながら一撃! 迸る炎が斜め上へと放たれ、樹上の枝を吹き飛ばした。
 弾ける炎を避け、砕ける枝から別の枝へ跳ぶ影が一つ。

「これは驚いた。マスターキメラ、今さら何をしに来たのだ」
 その影は黒装束の男――暗殺者・影針えいしんだった。

(密かに山中へ入った筈だが、この男はそれでも気づいて様子を見に来たか)
 レレンはそれを察し、大袈裟な声と身振りで相手へ拳を突き付ける。
「言わねばわからんのか。してやられたままでおめおめ引き下がれん! 大局的には完敗であろうと……影針えいしん、せめてお前の首だけはとらねば私の気が済まんのだ!」
 辺りを窺い、近くに誰の気配も無い事を探ってから――影針えいしんは微かに笑う。
「意地という奴か。一銭にもならんのに、くだらん話だ」

「黙れえ! 例え私独りでも、お前だけは……お前ぐらいなら!」
 レレンは大声をあげた。いかにもムキになっている、という風に。

 影針えいしんは別の枝へと跳ぶ。より村に近い、山を降りる方へ。
「笑わせる。ではお前独りでどうなるか、教えてやろうではないか。さあついて来い」
 そう嘲ると、本気でなら容易く追える速度で次々と枝を渡ってゆく。麓の村へと。
 今や己らの手中にある村へと。

 無論、敵の勢力下に誘われている事はレレンにもわかった。だが……
(かかってくれたか!)
 内心では喜んで、顔は怒りに歪めて。レレンは影針えいしんの後を追った。


――山中奥・世界樹の若木の根元――


「次はどうすればいいの?」
 横たえたガイの簀巻きの側で、ミオンはイムを見上げる。
「みすてるていん。ガイのお腹に置いて」
 それがイムの返事だった。

 ミオンは急いで鞄から木の実が嵌った箱を取り出す。
 竜神アショーカからの贈り物、世界樹の力をより引き出せる筈の宝飾品を。
 イムの言葉通り、それをガイの腹部がある筈の所に置くと……

 箱からするすると帯が伸びた。
 簀巻きに使っている御座が裂ける。ガイの衣服も裂ける。
 箱はガイの腹部へ密着し、帯が腰を一周した。

「この実……ベルト!?」
 驚くミオン。
「動かして」
 イムがバックル部分――木の実が嵌った箱を指さす。
 そこで動きそうな物と言えば……
「これ?」
 半信半疑だが、ミオンは小さな刃のような部品に触れた。

 ほとんど力を入れずともそれは動いた。
 さくりと、木の実へと刃が食い込む。

 若木がぼんやりと輝いた。
 光が粒子となり、まるで水のように流れ落ちてくる。
 ガイの腹部にあるバックルへと。
 宝飾品ミステルテインを通して、若木からの光がガイの中へと流れ込んだ。


 不思議な事が起こった……!


 粒子は命を失った体内を循環し、固着し、いきいきと活動を始めたのだ。
 流れて沁み込み、同質となる。
 流れが脈動し、脈動は本来の流れをも動かし始めた。

 ミステルテインが粒子となって霧散する。
 御座がめくれた――内側からのけられたのだ。

 御座をのけたガイは、既に目を覚ましていた――!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...