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2章
17 竜の神 4
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社の裏から奥へ、山中へ。木製の古い階段を上へ上へ。
ハマに案内され、ガイ・ミオン・イムの三人は山を登っていく。
ここに来た理由と目的を、促されるままに話しながら。
「なるほど、事情はわかった。この先にいる竜神に会って助力を請うが良い。まぁ嫌とは言うまい……この村を興した数百年前の聖勇士、ワシの夫があの竜を助けて盟友となった間柄じゃからな」
話を聞き終えたハマは振り向きもせずにガイへ勧める。
それを訊いたガイは驚いた。見た事も無い竜神が簡単に会えそうな所に住んでいるらしい事と、自分の先祖に異界から召喚された者がいた事に。
「そうか……俺は聖勇士の血を引いていたのか」
イムが生まれた実を食べて、己の異界流が上昇した事……それにようやく合点がいった。
しかしハマが言うには――
「まぁだからといってガイの異界流が上がったのは驚くべき事よ。そんな昔の英雄の血で覚醒できるなら、もっとそこらに土着の聖勇士がごろごろいる筈だからの」
そうして否定的な事を言いつつも「ふむ……」と呟き考える。
「だが、神やその力で生まれた秘宝に触れた影響で異界流の上昇が起き始める……という例ならまぁ知ってはいる。しかしな、それにしてもその場で即上がるなどという話は聞いた事がない」
頷くミオン。
「つまり、イムは類を見ない特別な力の持ち主……というわけですね」
一旦足を止め、皆が宙にいるイムを見上げた。
イムはよくわかっておらず「?」と首を傾げる。
イムを見つめていても答えが出ない事はわかっている。
一行は再び階段を登りだした。
「さて、竜神の話に戻すが……とにかくワシの夫はそれを助けた。なにせあの人は真に雄々しく、力強く、正義を愛し、平和を愛し、戦いを恐れず、悪を憎み、それでいて人は憎まない、まさにこのインタセクシルが誕生して以来最も偉大な英雄じゃったからな」
「えらく持ち上げるな……」
ハマの思い出話に微妙に納得しかねるガイ。
「かくいうワシもあの人に助けられた者の一人。心の底から愛し、惚れこみ、あの人の子供をばこばこ産みたいと思って夫婦となった。実際に産んでみると一人産む度に幸せが累乗増ししていくので、結局12児の母になった。夫が没する頃には孫もどっさりできておって、もう森に帰る気など微塵も無くなっておった」
「もうちょっと表現をな……」
ハマが語る村のルーツにどこか納得しかねるガイ。
「そんな愛しい夫にちなみ、男子達はみなガ+一文字で名前をつけた」
「バリエーション限られ過ぎてねぇか」
ハマの説明にいまいち納得しかねるガイ。
「孫からは子供達の意見もとりいれガギグゲゴのどれか+一文字にした」
「あのさあ……」
ハマの説明に大いに納得しかねるガイ。
「女子もワシにあやかって二文字の名前にした。これは孫達も同じ」
「セルフあやからせって、なあ……」
ハマの説明に困惑しながら納得しかねるガイ。
「そしてさらに最も偉大な勇者じゃった我が夫の誇り高き血脈を常に忘れんがため、親や先祖の名から少しずつ貰うようにもした」
「この村の長い本名の風習は大婆ちゃんの思い付きだったのかよ……」
ハマの説明にようやく合点がいったが当然それには納得しかねるガイ|(本名・ガイガガイガイガガイガガイ=ヤデ)。
衝撃の無駄話を聞いているうちに、一行は階段を登りきった。
頂上に近い深い森の中。後ろを見れば村と近隣の山々を一望できる。
そして前にあるのは、途方もなく大きな木。生い茂った枝葉がこんもりと半球状のドームを形成しているが、奇妙な事に家より太い幹が四本、正方形を描くような配置で生えている。となると四本の木が枝葉を絡ませあっているのだろう……という事になるが、絡みが密過ぎてどこからどこまでが一本ずつなのかわからないのだ。
ハマはガイ達三人へと振り向く。
「さあ着いたぞ。偉大な勇者の盟友であり同志だった最も気高き竜王の住居へな」
「こ、これは……近づく事を禁じられた封印の大樹!」
ガイの言葉を聞き、ミオンはその目に警戒の色を浮かべながら大樹を眺めた。
「そう、曰くつきの神木なのね」
頷くガイ。
「ガキの頃に遊び場にするなとよく怒られた」
頷くハマ。
「何度言っても村の子供達はここで秘密基地ごっこをするのだがな」
頷くミオン。
「ああ、そういう意味なのね。なんか思ったのとちょっと違ったわ」
三人の話を他所に、イムがふらふらと大樹へと飛んで近づく。
すると……枝葉の間から巨大な頭がぬうっと現れた。
それはガイも初めて見る、巨大な竜の頭部だった……!
ハマに案内され、ガイ・ミオン・イムの三人は山を登っていく。
ここに来た理由と目的を、促されるままに話しながら。
「なるほど、事情はわかった。この先にいる竜神に会って助力を請うが良い。まぁ嫌とは言うまい……この村を興した数百年前の聖勇士、ワシの夫があの竜を助けて盟友となった間柄じゃからな」
話を聞き終えたハマは振り向きもせずにガイへ勧める。
それを訊いたガイは驚いた。見た事も無い竜神が簡単に会えそうな所に住んでいるらしい事と、自分の先祖に異界から召喚された者がいた事に。
「そうか……俺は聖勇士の血を引いていたのか」
イムが生まれた実を食べて、己の異界流が上昇した事……それにようやく合点がいった。
しかしハマが言うには――
「まぁだからといってガイの異界流が上がったのは驚くべき事よ。そんな昔の英雄の血で覚醒できるなら、もっとそこらに土着の聖勇士がごろごろいる筈だからの」
そうして否定的な事を言いつつも「ふむ……」と呟き考える。
「だが、神やその力で生まれた秘宝に触れた影響で異界流の上昇が起き始める……という例ならまぁ知ってはいる。しかしな、それにしてもその場で即上がるなどという話は聞いた事がない」
頷くミオン。
「つまり、イムは類を見ない特別な力の持ち主……というわけですね」
一旦足を止め、皆が宙にいるイムを見上げた。
イムはよくわかっておらず「?」と首を傾げる。
イムを見つめていても答えが出ない事はわかっている。
一行は再び階段を登りだした。
「さて、竜神の話に戻すが……とにかくワシの夫はそれを助けた。なにせあの人は真に雄々しく、力強く、正義を愛し、平和を愛し、戦いを恐れず、悪を憎み、それでいて人は憎まない、まさにこのインタセクシルが誕生して以来最も偉大な英雄じゃったからな」
「えらく持ち上げるな……」
ハマの思い出話に微妙に納得しかねるガイ。
「かくいうワシもあの人に助けられた者の一人。心の底から愛し、惚れこみ、あの人の子供をばこばこ産みたいと思って夫婦となった。実際に産んでみると一人産む度に幸せが累乗増ししていくので、結局12児の母になった。夫が没する頃には孫もどっさりできておって、もう森に帰る気など微塵も無くなっておった」
「もうちょっと表現をな……」
ハマが語る村のルーツにどこか納得しかねるガイ。
「そんな愛しい夫にちなみ、男子達はみなガ+一文字で名前をつけた」
「バリエーション限られ過ぎてねぇか」
ハマの説明にいまいち納得しかねるガイ。
「孫からは子供達の意見もとりいれガギグゲゴのどれか+一文字にした」
「あのさあ……」
ハマの説明に大いに納得しかねるガイ。
「女子もワシにあやかって二文字の名前にした。これは孫達も同じ」
「セルフあやからせって、なあ……」
ハマの説明に困惑しながら納得しかねるガイ。
「そしてさらに最も偉大な勇者じゃった我が夫の誇り高き血脈を常に忘れんがため、親や先祖の名から少しずつ貰うようにもした」
「この村の長い本名の風習は大婆ちゃんの思い付きだったのかよ……」
ハマの説明にようやく合点がいったが当然それには納得しかねるガイ|(本名・ガイガガイガイガガイガガイ=ヤデ)。
衝撃の無駄話を聞いているうちに、一行は階段を登りきった。
頂上に近い深い森の中。後ろを見れば村と近隣の山々を一望できる。
そして前にあるのは、途方もなく大きな木。生い茂った枝葉がこんもりと半球状のドームを形成しているが、奇妙な事に家より太い幹が四本、正方形を描くような配置で生えている。となると四本の木が枝葉を絡ませあっているのだろう……という事になるが、絡みが密過ぎてどこからどこまでが一本ずつなのかわからないのだ。
ハマはガイ達三人へと振り向く。
「さあ着いたぞ。偉大な勇者の盟友であり同志だった最も気高き竜王の住居へな」
「こ、これは……近づく事を禁じられた封印の大樹!」
ガイの言葉を聞き、ミオンはその目に警戒の色を浮かべながら大樹を眺めた。
「そう、曰くつきの神木なのね」
頷くガイ。
「ガキの頃に遊び場にするなとよく怒られた」
頷くハマ。
「何度言っても村の子供達はここで秘密基地ごっこをするのだがな」
頷くミオン。
「ああ、そういう意味なのね。なんか思ったのとちょっと違ったわ」
三人の話を他所に、イムがふらふらと大樹へと飛んで近づく。
すると……枝葉の間から巨大な頭がぬうっと現れた。
それはガイも初めて見る、巨大な竜の頭部だった……!
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