フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
82 / 147
2章

17 竜の神 2

しおりを挟む
「俺、ミオン、イム……故郷にはこの3人だけで行ってくる。村を空っぽにするわけにはいかないからな」
 ガイは村の主な面々にそう告げると、ゾウムシ型の運搬機で出発した。


――霧深い山間部――


 運搬機一台ぶんの幅しかない山道を進みながら、ガイは助手席のミオンに頼む。
「ミオン。故郷では夫婦設定は無しにしてくれ」
「そうね……流石に親御さんにまで、こんな事で嘘をつくのは良くないか」
 ちょっぴり残念そうではあったが、ミオンは納得してくれた。
 ついでにガイはあらかじめ詫びておく。
「いろいろ我慢してもらうと思うけど、ゴメンな」
「?」
 わけがわからず戸惑うミオンに、ガイは溜息交じりに説明した。
「閉鎖的というか、硬直してるというか……あまり良くない意味で変化しない村なんだ」
 それを聞いて、ミオンにはピンとくる物があった。
「そういう所だから冒険者になったの?」
「うん。地元大好きでしがみつくか、嫌になって出ていくか。村の若いもんはどっちかで真ん中が無いんだよな」
 そう答えるガイは少々憂鬱なようでもあった。


――山奥の集落・シナナ村――


  山肌に沿って大きく弧を描く道をどれほど進んだだろうか。
 村を離れて数日、ついに山間の川の両岸に家屋の立ち並ぶ村が見えた。
 しかし……そこへ向かって道を進むと、段々畑から中年の男が飛び降り、運搬機の前を遮る。
何者なにもんだ?」
 男は露骨に警戒しながら叫んだ。

 ガイは操縦席の窓から顔を出した。
「俺ですよ、ギムおじさん」
「ガ……ガイ! 戻ってきたのか! そうか、都会なんぞは水が合わなんだのだな。よしよし、今日は宴会……い?」
 一転して嬉しそうな満面の笑みを見せた中年男は、しかし助手席のミオンに気づくと言葉を止めた。
 ガイはミオンを紹介する。
「あ、こっちはミオン。今はこの人の護衛をしています」
「初めまして」
 丁寧に頭を下げるミオン。
 ガイは本題に入ろうとした。
「今は仕事の途中で村に立ち寄ったんで……用事が終わったらまたすぐ出ます。大婆ちゃんはやしろですか?」

 だが農夫のギムはわなわなと全身を震わせる。
「その服……ケイトの都の女! ガイ、都会の女と帰ってきよったか!」
 内心|(やっぱりか……)と思いつつ、ガイは話してきかせようとした。
「いや、事情はさっき話した通りで……」
「都会人にコキ使われとんのか!」
 ギムは話を全く聞かずに額を抑えた。
 内心|(やっぱりか……)と思いつつ、ガイは思わずこぼす。
「なんでそうなる……」
「なんてぇこったぁ!」
 ギムは話を全く聞かないまま、村の中へと走っていった。

「あまり歓迎されてないみたいね?」
 戸惑い半分に言うミオンに、ガイは溜息をつきつつ応えた。
「ごめんな。こうなったら急ごう」


――シナナ村奥の社――


 ガイは寄り道せずに村の奥へ向かった。
 最奥にあるのは神社だ。そこそこ大きく、運搬機を境内に入れる事もできた。ガイ達はそこで降りる。
 境内に飾られた竜の石像――大きな球に絡みつく、角のある蛇――をミオンは見た。
「竜神信仰……確かにね。ここで何らかの助力が得られればいんだけど」


 だがそこへ、大勢の村人がどやどやと入ってくる。半分は中年、半分は老人の村人達だ。
「ガイだ! ガイが帰ってきおった!」
「本当に都の女を連れとる」
刺股さすまたじゃ! 刺股さすまたを持ってくるんじゃ!」
 村人の半数は刺股さすまたを手に、ガイ達をぐるりと取り囲んだ。

「なんだか人里に迷い込んだモンスターみたいな扱いね?」
「ごめんな……」
 戸惑うミオンに詫びるガイ。

 だが老人の一人がガイの肩を指さした。
「おいガイ! そ、そこにおるのは……」
「妖精のイムだよ、グオ爺ちゃん」
「こんちはー」
 ガイが紹介するとイムは天真爛漫な笑顔で手をあげ、挨拶する。
 村人達がにわかにどよめいた。
「妖精じゃ! 妖精がおるぞ!」
「ぬう、これは吉兆じゃ!」
「ありがたや、ありがたや……」
 老人の何人かは手を合わせて拝み始めた。
 この村の古い伝承では極めて貴重な縁起物なのだ。

 老人が拝み、中年が刺股さすまたを手にどうした物かと決めかねる。
 そんな中、包囲をかき分けて若い農夫が入ってきた。
「ようガイ」
「ゲンか。久しぶりだな」
 そう、この農夫はガイの同年代、子供の頃の旧友なのだ。
 そのゲンは呑気に話しかけてくる。
「仕事でここに来たって? 都会に出たのに大変だな、お前も」
「知らなかったかもしれないけど、世界中が大変だったんだぜ」
 世間と離れた村の様子に、ガイは今更ながら呆れてしまった。

 だがしかし。
「知っておる。だがこの村はビクともせんわ」
 キツめの女性の声で、ガイは後ろから声をかけられたのだ。
 子供の頃から聞きなれたその声にガイは振り向く。
「大婆ちゃん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...