上 下
80 / 147
2章

16 魔獣咆哮 7

しおりを挟む
――カサカ村、工場――


 帰還したガイ達はミズスマシ型運搬機を格納庫に収納した。
 そこから降りた機体を次々とハンガーに立たせる。

 運搬機から降りたミオンはガイのSサバイブキマイラを見上げた。
「装備のパワーを増幅して再現。そんな事ができるのね」
「各地で研究はされています。実装できた機体がいくつあるのかはわかりませんが。今回は師匠が製法を得てきた【ガマーオイル】のおかげで完成しました」
 スティーナが説明する通り、この技術はまだ確立されているとは言い難い。設備に使う材料でさえ模索中なのである。実戦投入できている機体など、この大陸全土でも五指であまる程度だろう。

 とはいえそれを知らぬレレンが興味深そうに訊いてきた。
「他の武器を差し込んでも再現できるのか?」
「いいえ。師匠の聖剣専用です。他の武器に合わせるなら、ほぼ一からの造り直しになりますね。まだまだ途上の技術なんです」
 スティーナの言う通り、ガイ機が聖剣の機能を取り込めたからといって、他の武器や他の機体でも……というわけにはいかないのだ。

 タリンが機体を降り、機嫌よくをする。
「デカブツ怪獣も倒しちまったし、あの残党どももこれでお終いか。赤い鎧のヤツ、きっと吠え面かいてたに違いねぇ!」
 だがガイは赤い鎧の戦士――マスターボウガスとの戦いを、戦慄と悔しさとともに思い出していた。
(今回は負け同然だった……あいつは何者なんだ)

 そこまで考えて「あ、そうだ」と気づく。
「レレン、ありがとう。あんたがいなかったら全滅もありえたよ」
 ガイに礼を言われ、元魔王軍の親衛隊は「フッ……」とこそばゆそうに笑った。
「まぁ、お役に立てたならなによりだ。これからも私の力を使ってくれ」

 そんな話を横目に、鍛冶屋のイアンが唸る。
「危険な奴でしたな。もう出くわさないと良いのですが」
「ははっ、切り札潰されちゃ出てこれねーよ。今ごろ次の怪獣探してどこかの僻地でもうろついてんじゃねーのw」
 上機嫌で侮りを口にするタリン。
 しかし骸骨馬となったシロウがのろのろと近づいてきた。
『わからんぞ。予備で二匹目をあらかじめ持っているかもしれないだろ』
 レレンが唸る。
「む……ありえる。魔王軍では怪獣を何種類も飼育していたからな」
「マジで!?」
 驚くガイ。

 だがすぐに、自分がこれまで戦ってきた何体もの怪獣を思い出した。

 げんなりするガイに、それを見たレレンが少し慌てて付け加える。
「しかし流石にあそこまで強力な物はいなかった筈。魔王軍が滅んだ今、あれが隠されていた最後の切り札だと思いたいが……」


――翌日。ガイ邸宅――


「朝よ、ガイ。起きて。いつまでも寝てると、私も一緒に寝ちゃうわよ?」
 朝日の中、今日もガイは甘優しい声で起こしてもらった。
「おはよう。すぐ起きるよ」
 そう言って布団を除けて身を起こす。
 ベッドに腰掛けていたミオンは、ガイの背に身を寄せてくすくすと笑った。
「もっと寝たいとか思っちゃった?」
「ぐずぐずしてると飯が冷めちゃうし」
 ちょっぴりぶっきらぼうにガイが言うと、ミオンは笑いながらも「そうね」と言って離れ、部屋から出ていく。

 ガイを起こす前にミオンが朝食を用意しているのはいつもの事だ。
 このやりとりもだいたいいつもの事だ。
 ガイが早く目が覚めた日も、便所に行きたくならない限り布団から出ずに寝たふりをして待っているぐらいには当然の日常なのだ。

 イムも目を覚まし、まぶたを擦りながらふらふらとガイの肩へ飛んできた。
 彼女が停まってからガイは寝間着のまま台所へ向かう。

 豆乳スープと揚げパンがガイとミオンの、果物の切り身がイムの朝食。
 それらをガイ達がとっていると、戸の方に人の気配を感じた。
「入れよ」
 ガイが促すとスティーナが申し訳なさそうに入って来る。
「その、今、いいんですか? 食事の途中ですし、その後も夫婦の時間がナニかとあるのでは……私は戸の向こうで待っていますけど」
「ナニかって何だよ……」
 ガイが眉をしかめて言うと、スティーナは熱く語り出した。
「それはその『今日も美味しかったよ』とか『でも君の方が美味しいよ……』とか『こんな時間から、もう、仕方のない人ね|(はぁと)』とか。そして求め合う二人はじっとりとしっとりとでもとても熱くて……」
「すまん早く要件を頼む」
 どんどん鼻息の荒くなるスティーナにガイは強張った顔で要求した。

 深呼吸して落ち着いてからスティーナが告げる。
「師匠。また隊商が襲われました。村からの輸出も一部ストップです」
「本当に別の怪獣がいたのかよ!」
 思わず額を抑えるガイ。

 だがスティーナの報告は――
「それが……目撃情報によると、私達が戦った物と同じ奴ではないかと」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...