上 下
75 / 147
2章

16 魔獣咆哮 2

しおりを挟む
――村の警備部詰め所――


 人が増えるにつれ多くなった揉め事や犯罪。それらに対処するべく、村のほぼ中央に警備担当者が駐在する詰め所が造られた。
 主に常駐するのは元魔王軍親衛隊ながら今や村の警備の中心を任せられたレレン。
 そして最近はもう一人……ガイの元パーティメンバー、女魔術師のララもいた。

 その日もララは杖を手に目を瞑り、意識を集中する。
「村の周辺、異常なし。チマラハの方角にも異変は見当たらず」
 彼女は村の上空から地上を見ていた。
 使い魔ファミリア……魔術師が召喚、あるいは作成する魔法生物。最近それを使役できるようになったララは、一羽の青い鳥を己の使い魔ファミリアとしていた。意識を集中すれば感覚を共有し、使い魔ファミリアの目で物を見る事ができるのだ。

「村の中はどうだ?」
 レレンが訊くと、ララは使い魔ファミリアを遠隔操作し村を見下ろす。
「タリンが転倒しました。脇腹を抑えて悶絶してます」
「……ディアに任せよう」
 レレンが決断し、朝の監視は終了となった。


――村郊外の空き地――


 村の尼僧ディアに回復魔法をかけてもらい、タリンは身を起こす。
 そして骨でできた乗り物を苛々と睨みつけた。
「クソッ、本当にちゃんと合わせているんだろうな!?」

 それは骨と金属シャフトで造られた馬。
 不死アンデッドの騎士が乗るような骸骨の馬だ。
 だがその頭部は――

「シロウさんが補助するから普通の馬より乗り易い筈だと、スティーナちゃんは言っていました……」
『補助はしているぞ。乗り手が下手糞だとそれにも限度があるが』
 ディアの言葉に付け加えるシロウ。そう、この骸骨馬の頭部はシロウの髑髏なのだ。
 スティーナとイアンが造った、シロウの新たな体がこの骸骨馬なのである。それに合わせて髑髏を真横に貫通していたハンドルは、馬につかうような手綱に交換されていた。

「チッ……乗馬の技能スキルなんて練習した事ないっての」
 文句を垂れ流しながら、タリンはシロウの搭載された骸骨馬に再び跨る。
 これに乗れれば白銀級機シルバークラスを任せてもらえるいう約束ゆえに。


――村の集会場――


 昼食の時間の後、村の主だった面々が集まり、今後について話し合う。

 まずはガイが発言した。
「こっちは慣らし運転は終わった。いつでも実戦に出られる」
「防衛の準備は概ね問題無し、か」
 レレンは頷き、他のメンバーを見渡した。
「他、気になる事はないか?」

「部屋が狭いっス」
 ウスラが訴える。
 タリンとともに村へ戻った元パーティメンバーは、村の格安木賃宿に放り込まれていた。
「お前がでかいからだ。諦めろ。他には?」
 レレンは他の意見を求める。

「おいおい、四人一部屋に詰め込んでるからじゃねーのか!?」
 タリンがいきり立つ。
 元パーティメンバーは格安木賃宿の一室を四人で使っているのだ。
「なら金出して個室に移れ。他には?」
 レレンは他の意見を求める。

「別荘を用意するからガイ殿に街で暮らして欲しいと、領主から手紙が来たんじゃが」
 村長コエトールが躊躇いがちに皆へ伝えた。
 かつて魔王軍に占領され、残党にも大打撃を受けた街。二度の危機を二回ともガイが救ったとなれば、手元にいて欲しいのは当然であろう。
「燃やせ。他には?」
 レレンは他の意見を求める。

「村で買い付けとる素材がいくつか届いておらんのう」
 農夫のタゴサックが唸るように報告した。
 レレンは首を傾げる。
「いくつか?」
「うむ。だいたい半数ほど」
「多いな? というか深刻じゃないか!? 一体なぜ……」
 思った以上の事態に驚くレレン。
 しかしタゴサックの返答はいまいち要領を得なかった。
「なんか大型の魔物が暴れたとかなんとか」
「え? 半数全部が? そんなにあちこちで一斉に?」
 不自然極まりない事だ。そんな事をしそうな魔王軍は半年も前に壊滅している。
 しかし現に起こっているなら対処の必要がある、のだが……カーチナガ領は帝国崩壊時に領域から外れてしまった。よって領内で起こった面倒事を調査・解決するのは領内の者達でやらねばならない。

 そしてこの領で最も戦力があるのは、間違いなくこの村なのだ。

 腕組みしてガイは考えた。
「俺達が行かないと、埒が明かないんだろうなぁ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...