フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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2章

15 動乱再び 4

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 領主邸前の市街地に魔王軍残党の一部隊がいた。ケイオス・ウォリアーも、歩兵も。
「いくぜいくぜいくぜー!」
 タリンが威勢よく叫んで突撃する。他のメンバーもその後に続いた。


――戦闘終了後――


 戦いはガイ達の一方的な勝利に終わった。
(雑兵ばかりだ。大将はどこに?)
 疑問を覚えつつも領主邸の庭に機体を入れるガイ。他のメンバーもそれに続く。特に農夫タゴサックは敵影も無いのに館へ照準を合わせていた。
 だが庭の一画にあるうまやから、泣きべそをかいた領主・カーチナガ子爵が飛び出してきた。
「た、助かったー!」
「チッ。そっちに隠れておったのか」
 タゴサックの舌打が通信機ごしに漏れる。


 ガイ達は機体や運搬機を降りた。
 実に半年ぶりの対面……なのだが、領主は村の面々よりも先にタリンへ怒鳴る。
「おのれー! あっさり負けおって!」
「う、うるせー! オレに助けられて文句言うな! 後ろから不意打ちするヤツさえいなければやられてなかったんだよ!」
 怒鳴り返すタリンの後ろで鍛冶屋のイアンが呆れていた。
「乱戦なら後ろから攻撃が来ても仕方なかろうが」

 その直後。
「そこか!」
 ガイはナイフを近くの茂みへ投げつける。
 だが茂みからも針のような棒手裏剣が飛び出し、甲高い金属音とともに宙でぶつかった。ナイフと手裏剣が弾き合う。
 しかしナイフは地に落ちたが、手裏剣はくるくると回転しながら茂みへと戻る。ガイの目はかろうじて見た――手裏剣の柄から極細の鋼線が伸びている事を。
「ほう、気づいたか。なかなかの腕前」
 含み笑いとともにそう言いつつ、鋼線を操って回収した手裏剣を手に、黒装束の男が茂みから出てくる。

(後ろ……か。なるほど)
 ガイはタリンの言い分があながち言い訳でもないと感じた。
 この黒装束の男は物陰からの不意打ちを狙っていた。それを防げる者など滅多にいないだろう。この男はかなりの腕利きであり……姿を見せるや強烈な異界流ケイオスを感じさせる聖勇士パラディンだ。
 ガイが気づく事ができたのは、盗賊系技能スキルにも長けた冒険者クラスであり、数々の修羅場を潜って一級線の実力を身につけていたからである。

 黒装束の男へタリンが叫んだ。
「さてはお前がオレを不意打ちした奴だな!」
「いかにも。元魔王軍魔怪大隊最強の親衛隊……マスタールーパー。今は影針えいしんと名乗っている」
 微かな笑いを声に含んで男は名乗った。
 レレンが「ふん」と面白くもなさそうに鼻を鳴らす。
「相変わらずだな。そいつは我々が機体から降りる事を期待し、わざと領主を見逃していたのだろう。不意打ちで仕留めるためにな」
 影針えいしんはレレンの方へこうべを巡らせた。
「マスターキメラ……まだ生きていたのか。この乱世が己の性に合う――などと言っておきながらこんな田舎も落とせず消えたお前が、おめおめと敵の軍門に降ってまで。恥知らずな事よ」

 元魔王軍のレレンはこの暗殺者アサシンと知人同士だったのだ。
 指摘されたレレンが露骨にたじろぐ。
「うううう、うるさいうるさい! 不意打ちと罠が大好きなお前が、恥がどうとか言うな!」

暗殺者アサシンの俺にそんな事を言われてもな。付け加えるなら、奇襲失敗の時も考え、こうして次の手も用意してある」
 影針えいしんは茂みからを引っ張り出す。
 それは両手を後ろに縛られた女性だった。
 ガイが思わず声をあげる。
「ララ!」
「た、助けて……お願い……」
 哀れに懇願する女魔術師は、元ガイのパーティーメンバーだった。
 タリンとともに街にいた彼女もまた魔王軍残党に敗れ、こうして捕らわれたのだ。
 それを盾にし影針えいしんわらう。
「さあ、攻撃できるかな?」
 その手には先程の針のような手裏剣が握られていた。


「仕方ねぇ」
 ガイは腰の鞄から珠紋石じゅもんせきを取り出そうとした。
 同時にタリンが剣を振り上げて影針えいしんへ跳びかかる。
「受けろ! アサルトタイガー!」
「脳味噌ブチ撒けい!」
 タゴサックも両手の鉈を振り上げ、イアンも無言で大型のモールを叩きつけようとした。

「チッ、役に立たん!」
 咄嗟にララを突き飛ばす影針えいしん
 三人の攻撃が容赦なく降り注ぐ!
「うぎゃああ!」
 涙と鼻水を垂らしながら絶叫するララ!
「ま、待たんかー!」
 レレンが叫んだ。

 叫ぶだけでなく、彼女は頭から突っ込むようにしてララに飛びつき、抱き締めて庇った。
 野郎ども三人の渾身の攻撃はレレンの背に直撃する!
 獣人ワーキマイラの、竜鱗が覆う背中をしこたま叩きのめされ、レレンは派手に吹っ飛んで地面に叩きつけられた。

「ぐおぉ……人間だったら死んでいたぞ……」
 突っ伏した体勢のまま、実に痛そうな呻きを漏らすレレン。
 その体の下で、ララが半ば呆然と呟いた。
「え? あなたが助けてくれたの……?」

「え? なんかそんなにおかしいか?」
 苦痛に顔を歪めながら聞き返すレレン。
 間近でその顔を見つめるララが、頬を紅潮させてふるふると首を横にふった。

 なおタリンは顔を真っ赤にして誰も聞いていない言い訳を叫んでいた。
「オレはララを外して敵を狙ってたし! 飛び出されたから変な当たり方しただけだし! オレは悪くねぇ! オレは悪くねぇ!」
 それを聞きながらガイは投げようとしていた珠紋石じゅもんせきを鞄の奥に押し込む。
(麻痺の呪文をぶつけようとしていたから巻き添えにしても大丈夫だった……とか言っても許されそうな雰囲気じゃないな……)

 そんな男どもは他所に、スティーナが【ライトニング】の呪文を敵へ唱える。

【ライトニング】大気領域第3レベルの攻撃呪文。電撃が敵を貫通する。

 だがその呪文は、目標――樹上へと跳んでいた影針えいしん――に片手で弾かれた。
 相手をキッと睨むスティーナ。
「逃げるの?」
「逃げるとも。暗殺者アサシンが正々堂々と戦う必要はないからな」
 そう言うと影針えいしんこうべを巡らせ……一番後ろにいたミオンに視線を向けた。
「いずれお前を仕留めるよう依頼が来るかもしれん。怯えているがいい」
 そう言って身を翻し、別の木へと跳ぶ。
 生い茂った枝葉の中にその姿が消え、気配も消え失せた。


 ぱちくりとまばたきするミオン。
「え? 私に言っていた?」
 一同は戸惑って顔を見合わせる。
「そう見えたけど……まさかなあ」
 タリンのその言葉が皆の思いを表していた。

 ただ一人、ガイを覗いて。
(あの暗殺者アサシン、ミオンの過去を何か知っているのか?)
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