フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
72 / 147
2章

15 動乱再び 3

しおりを挟む
 チマラハの街の中から煙が上がっていた。
 二機のミズスマシ型運搬機で川を下りながらそれを遠目に見るガイ達。

「敵がもう街の中に……」
 スティーナの言葉に鍛冶屋のイアンが呻く。
「いかん、運送ギルドは守らねば」
「領主はくたばっておるといいんじゃが」
 不謹慎な事を願う農夫のタゴサック。

 もう一機の運搬機ではミオンが街の周囲を確認していた。
「正面入り口の辺りで戦いが続いているみたいね」
「そっちへ向かってくれ」
 ガイの指示に頷くミオン。
 二機の運搬機は川面を進み、街の最も大きな出入り口を目指す。


 二機の姿を、正門前で戦っている二つの集団が見つけた。人造の巨人、ケイオス・ウォリアーに乗って戦う者達が。
 その片方の一機に乗るゴブリン兵士がゲラゲラと笑った。
『敵の増援が来やがったぜぇ!』
 彼の所属する魔王軍の残党は圧倒的優勢で街の防衛部隊を叩いていた。それが故の奢り、駆け付けたガイ達を完全に見くびっていたのだ。

 二機のミズスマシの背が開き、三機の人造巨人が立ちあがる。
 魚人型の機体に花吹雪が吹き付けると装甲が追加されて変身した。その機体が川に飛び込む。
 次に水面へ魚人型機が顔を出したかと思うと、その頭部左右にあるエラがアンテナのように開き……恐るべき破壊の波動が岸辺で待つ魔王軍残党の機体に炸裂した!
 その隙に運搬機の一機が接岸し、その背にいた二機――巨人兵士と甲虫人型の砲撃機――が残る敵機へ攻撃を仕掛ける。


――一時間も経たないうちに――


 正門前の状況は一変していた。魔王軍残党の機体は大半が撃破され、地面に残骸を晒している。
 残り少ない機体は及び腰となり、ある機体は逃亡し、別の機体は弱々しい抵抗も虚しくガイ達に討ち取られていた。

 残党側の過半数を撃破したガイ達は、戦場を見守りながら一息つく。
 そこへ通信が入った。
「おいガイ! 俺の乗れる機体はねーのか!」

 見れば地面に落ちた座席――脱出機構によって射出されたのだろう――に附属する通信機へタリンが怒鳴っている。
 その側には女神官リリの姿もあった。

「まだ生きてたんですか」
 スティーナがうんざりして言うと、リリが泣きそうな声を漏らす。
「正直、危なかったよ。脱出に失敗して首が変な方に曲がって……」
「回復魔法が無いと何回死んでるのかわからん奴だな……」
 呆れるガイにタリンが怒鳴る。
「神官が来れる場所に出れたんだから脱出自体は成功だろ! 敵が後ろから卑怯な攻撃しなきゃあオレだって……」
「乱戦中に前も後ろもなかろうが」
 イアンのその呟きは聞こえなかったのか、タリンは煙のあがる街を指さした。
「とにかく中に入った敵をブチのめすぜ!」


――チマラハの街中――


 街に入り込んだ敵は多くは無かった。
 そこへ突撃する、タリンが乗り込んだ白銀級機シルバークラス・Sバスタードスカル!
 大きな剣を振り回し、不死アンデッド怪獣をお供に連れて、骸骨武者型機が敵を斬る。
「オラオラァ! オレの力を見やがれ!」
『大半は俺の力じゃねーか』
 操縦席で高揚した声をあげるタリンに、レバーの部品となったシロウの髑髏が呟いた。亀裂は残っているものの、既に以前の破損から修復されている。

 敵の歩兵も入り込んでいたが、そちらと戦うのは――戦闘形態に変身した獣人ワーキマイラのレレンだった。
 敗れた命を救われた彼女が、今回はガイ達の側で戦うと自分から申し出たのだ。
 殺到する敵兵士を炎の拳で容赦なく吹き飛ばす!

 次々と路上に転がる魔王軍残党兵士を見下ろし、彼女は「フッ……」と自虐の笑みを浮かべた。
「かつて自分が攻めた地を、今この手で守ろうとはな……」

 そんな彼女に後ろから一言。
「浸ってないでどんどんやっちゃってください」
 運搬機から降りたスティーナである。
 感傷に横やりを入れられ「ぐぬ……」と呻くレレン。
「の……残る敵は領主邸へ向かったようだな」
 すると頭上から声が響いた。
「ならば一気に片付けるぞ! この砲弾をブチ込んでやるわ!」
 甲虫頭の重装甲砲撃機Bカノンピルパグに乗った農夫のタゴサックが吠えている。やる気は満々だ。

 そんな彼を運搬機の操縦席で眺めて「ふう」と溜息をつくミオン。
「領主さんを見つけても弾を撃ち込みかねないわね」
「別の意味でも急ごう」
 魚人機パンドラグンザリの操縦席で頷くガイ。
 ミオンと全く同じ事を感じたからだ。

 領主邸へと機体を進めながらガイは思う。
(敵の大将格がまだ出てこない。領主邸にいるのか?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...