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2章

15 動乱再び 1

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 インタセクシルという世界で最も大きな大陸に、カサカという村がある。
 魔王軍が人類と戦っていた戦乱の時代がついこの間終わった、ようやくの平和を取り戻した世界。
 カサカ村は今日も平和だった。


――マナ・エネルギー発生施設――


 様々な魔法道具マジックアイテムや人造巨人ケイオス・ウォリアーを作成するために使える魔法のパワー。それを生み出す施設がこの村にもつい最近建てられた。
 頑丈な石壁でできた方形の建物。明り取りの窓から射しこむ光が頼りの薄暗い室内には、家ほどもある石臼のような装置があり、そこからは放射状にたくさんの棒が突き出している。
 そしてその棒を、鎖で足を繋がれた大勢の労働者達が延々とぐるぐる回しているのだ。

 労働者を見張るのは大柄で屈強な中年農夫……タゴサック。
 彼は鞭で地面を叩きながら労働者達を怒鳴りつける。
「働けェ! 働けェ! お前らが飢えても地主様は飢えぬ! お前らが死んでも地主様は死なぬ!」

「そういう言い方やめろよ」
 心底嫌そうな声がタゴサックの背後からかけられた。
 この村の大半を所有する地主、ガイである。

 タゴサックは「へへぇ」と畏まって頭を下げた。
 彼を黙らせたガイに、労働者達も頭を下げる。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 そんな彼らにガイは溜息一つ。
「礼はいいから働け」

 この施設に放り込まれた労働者達は、酒・異性・博打等で借金を作った上に返さなかった連中ばかりである。鎖で捕らえられて鞭を振り回されているのは、そうしないと言い訳ばかりで働かないからだ。
 一見は悲惨に見えるが、同情に値するかどうかは別の話であろう。


――ガイの家――


 村の端の方にある、増築されて無理矢理広がった平屋。そこがガイの家だ。
 三頭いれば熊でも噛み殺すマーダードーベルマン種の番犬が十頭以上うろつく庭を通り、最初から変わらぬ粗末な戸を開けて家に入る。

「ただいま」
 ガイの声を聞き、台所の戸からひょいとミオンが顔を出した。
「おかえりなさい。今日もおつかれさま」

 そんなミオンの後ろから妖精の少女が宙に舞い上がった。
 イムが飛んできてガイの肩に腰掛け、にっこりと笑顔を見せる。
「おつかれー」

「いやマジ疲れる」
 溜息混じりにそう言うと、ガイは台所へ入っていった。


 領主の住む都を魔王軍から解放した事で地元の英雄となったガイは村の地主にもなり、もう冒険者を引退して当然の成功を修めたと言える。
 さらに魔王軍がどこかの勇者達に討伐され、この世界には平和が戻った。その解放ムードと、ガイ自身の地元の英雄といえる名声のおかげで、人も物もこの村に流れてくるようになっている。
 ガイが発端で始まった魔法道具マジックアイテム作成・販売も好調。
 村の衆の知恵でほぼ税金をとられない村になったので景気も良い。
 そんな状況になって、早くもしていた。

 と、何も問題なく思えるが……


 広くなった台所のテーブルに座るガイ。
 するとミオンがその後ろに回り、ガイの肩を掴む。
「うーん、凝ってるわね。これはじっくり揉む必要があるかも?」
 そう言ってガイの首に手を回し、後ろから抱きついてきた。
「やわらかーく、やわらかーく……ね」

 耳元に囁くようなその声に、ガイは「ふん」と言い返す。
「柔らかさならミオンにゃ負けるよ」
「へー、ほー、ふーん。それはどこの事を言ってるのかなー?」
 ミオンはにんまりと笑った。
 ガイは怒ったような拗ねたような顔をいるが、照れ隠しでしかなく全然嫌がっていない事などミオンは百も承知だ。
 現に……ミオンの手に、ガイはそっと自分の手を重ねて……


 急に台所の戸が勢い良く開けられた。
「ガイ! また飲み屋通りと色通りの境目で昼間から乱闘が……おうっ!?」
「ノックをしろよ!」
 大慌てで立ち上がり怒鳴るガイ。ミオンがおんぶされたような恰好になってしまったが咄嗟だったので仕方がない。
 怒られた女性はこっ恥ずかしい光景を前に、両手で顔を隠した。指の隙間から乳繰り合ってる男女をしっかり見てはいるが。

 この女性はレレン。
 かつて魔王軍で幹部職にいた女戦士で、異界から召喚されたキマイラ獣人である。今は獣化形態に変身していないので、村の女性にしか見えないが。


 ガイに敗れた後、彼女は村の捕虜になった。正直村の衆も本人も扱いに困り、村の独房に軟禁されてとりあえず置いておかれた。
 その後、村が急に発展すると……当然だが揉め事や事件、さらには犯罪も多くなる。
 そこで腕っぷしを見込まれ、レレンも治安維持のために駆り出されるようになったのだ。
 彼女が報告していた飲み屋通りとは酒場が並んでいる道の事。色通りとはその隣の風俗店が並んでいる道の事である。人が増えるとどうしても娯楽産業は進出してくるのだ。


 レレンの後ろから溜息混じりにスティーナが顔を出す。
「いい所なのに……邪魔せず眺めていられないんですか、アンタは」
「覗きもやめろ……」
 ガイが額を抑えて呻く。
 ミオンはまだ背中にくっついていたが。

 地主になれば家の中でごろごろしていればいいのでは……というガイの期待は、世の中に美味い話は無いという教訓で帰って来た。
 そしてさらに台所の戸が開く。
「ガイ殿。ちょっとお話がありまする」
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