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1章

14 勝利、凱旋、その後 2

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――カサカ村郊外――


 街道から外れた荒野を、三機の量産型ケイオス・ウォリアーが前進していた。その周囲には馬や騎乗用の昆虫等に乗った男が十数人。誰も彼も武装しており、モヒカンやトゲヘルムなど、荒くれ者が好む格好をしている。
 彼らは無所属の野盗。魔王軍では無いが、人類の人里や行商人を襲って略奪を働く悪漢どもだ。

 先頭の巨人兵士・Bソードアーミーから他の機体へ通信が入った。
『見えたぜ、あの村だ。最近たいそう羽振りがいいそうじゃねーか』
珠紋石じゅもんせきを始め、魔法道具の生産に手を付けて成功してるってな。あんな田舎でどうやったのか知らねーが、オレらが貰ってやろうぜえ』
 その返事は外部へもスピーカーを通して流れていた。
 騎乗している野盗達が「ヒャッハー!」と歓声をあげる。

 だがしかし。
 村から複数の機影が現れた。その数、六体――野党側の倍である。
 さらに武装した歩兵も姿を見せた。こちらは野党の三倍はいそうだ。
『なにィ!?』
 先頭の機体に乗る野盗が驚いていると、通信機から鍛冶屋のイアンが怒鳴る太い声が届く。
「やれい!」
 号令と同時に、村から現れた部隊が突撃してきた。

 戦いは一方的に終わった。

 爆発する機体から脱出装置で放り出された野盗が地面に転がる。周囲には彼の仲間達が既に倒れていた。
「な、なんでこんな田舎にこれだけの部隊が‥‥」
 そう呟くと、彼の意識は闇の中に引きずり込まれていった。


――カサカ村近くの山中、隠し畑――


 ジャバラ畑で大勢の村人が働いている中、木々の健康状態を調べているスティーナとタゴサックの耳に爆発音が届く。
 溜息をつくタゴサック。
「また村の方でひと騒ぎあったようだの」
「まだまだ治安は悪いままですね。それも徐々に良くなっていくでしょうけど。のですから」
 スティーナはさして事もなげにそう言うと、次の木の状態を調べ始めた。


 地上最強の勇者達が一大軍団を集め、魔王軍に挑んだ最終決戦。
 勝利した勇者達が帰還したという戦勝報告が大陸全土に知れ渡ってから、既に一週間以上になる。


――隠し畑の近く、山中の森――


 イムを肩に乗せ、ミオンとともに。ガイは一本の木を見上げていた。
 ガイが聖剣を得た木は、短期間で家の屋根より背が高くなり、青々と葉を茂らせている。

「話に聞いたより、ずいぶん大きいわね」
 感心するミオン。
 ガイは手の届く枝を軽く引っ張ってみたが、外れたり変形したりするような事は無かった。
「木刀が増えたりはしないか。何なんだろうな、これ」
「もっとおっきくなるよ」
 イムがにこにこして応える。
「もうちょっと詳しくわからないかしら?」
 ミオンがイムに訊いてはみたが――
「?」
 イムは首を傾げるばかり。
「ダメか」
 そう呟くも、ガイには予想できた反応だった。


 ガイは木にもたれ、ミオンへ話しかけた。
「もうちょっと安全に旅ができそうになったらケイトの都へ行こうぜ」
「そうね‥‥」
 頷きつつミオンも木にもたれる。
 しかしその顔は何かを考え、憂いを含んでいるようにも見えた。
「どうしたんだ?」
 気になって訊いてみるガイ。

 ミオンが横目でガイを見る。
「魔法道具の工房ができたわね」
「ああ。チマラハの奪還が大きかったな」
 頷くガイ。

 流通ルートの上にある地方都市である。街の外にもガイ達の活躍は知れ渡った。
 カサカ村で魔法道具の職人が求められている事も以前より広まり、職を失った者も少なくない状況もあって、技術者が何人か流れて来たのである。
 そして免除された税を回してついに本格的な工房が完成した。

「お仕事の規模も大きくなったわね」
「新しく入ってきた連中も安心して食えるようになってきた」
 ミオンの言葉に頷くガイ。

 街の恩人となった事で、いくつかの商会やギルドが接触してきた。
 彼らのおかげで流通路が村まで伸び、原材料の調達や商品の販売が容易に行えるようになっている。
 魔法道具の素材は、今では畑や山中からより村の外から購入する量の方が多い。
 そして製品は街に送られ、そこで商店に並ぶのだ。

「新しい建物が増えたわね」
「大半はガタのきてる家が新調されてるんだけどな」
 ミオンの言葉に頷くガイ。

 村全体の景気が良くなっているので施設や設備も揃ってきている。
 駅馬車の停留所もできた。桟橋も増えた。倉庫も増えた。学校も建設中である。
 ケイオス・ウォリアーの数を増やし、戦後の火事場泥棒どもを粉砕する程度ならガイが出るまでもない。

「ガイ様々よね。実際、村のほとんどはガイの持ち物になっちゃったし」
「税金対策でほとんど名義上の話だけどな‥‥」
 ミオンの言葉に肩を竦めるガイ。

 書類の上でガイの持ち物なので、そこで発生する利益はまずガイに行く‥‥事になっている。
 そしてガイから税を取らない事は領主と約束済みだ。既に書類にして写しを三つ造り、役所とガイと村長が各自保管している。
 法の上では、ガイは村のほぼ全ての土地を所有しており、ほぼ全ての産業の元締めという事になっているのだ。

「ガイはもうこの村に必要不可欠な人なのよ。それはわかっているわね?」
「あ、ああ」
 ミオンの言葉に頷くガイ。

 しかしなぜミオンはこんな事を念押ししているのだろうか?
 それがわからずガイは戸惑うばかり。

 そんなガイをミオンは探るような目で見つめた。
「もし私の実家が本当に貴族で、戦火に耐えてまだ残っていたら‥‥私はそこへ帰る事になると思う」
「だろうな」
 ガイの表情が沈む。
 わかってはいる事なのだ。わかっては。
 そこでミオンが新たな質問を投げかけた。
「その時に、仕官するよう言われたら。どうする?」

 手柄を立てた冒険者が貴族に召し抱えられるのは、成功ルートの一つである。
 それを目指して手柄を立てるのに必死な者も多い。

 しかしガイの答えは――
「この村に‥‥戻ると思う。その貴族家さんが、俺がいないとどうしても困るなんて事もないだろうし」

 ミオンは視線を落した。
 微かな溜息をつく。
「でしょうね」
 そう呟いたのは、ミオンにも十分想像できる返事だったからだ。

 でもガイの返事は続きがあって――
「家の人じゃなくて。ミオンが言うなら話は別だ」
「え?」
 驚き顔をあげるミオン。
 ガイは真正面を向いて、目をあわせようとしなかった。
 けれど話は続ける。
「マスターボウガスとか言ったか、あの赤い騎士。貴族の家なら何かしら因縁みたいな物があるんだろう。他にも何かあるかもしれないな。そして俺は、そんな事がありえるとわかった上で、ミオンの護衛を請け負ったわけで‥‥」
 あくまで前を向いたままだが——
「俺がミオンを守るって事を、終わらせていいのは‥‥ミオンだけだ」
 ガイはすっと手を伸ばし、ミオンの手を握った。

 ミオンは驚き、動揺してしまう。
 ミオンがガイの動揺を見たくてわざとべたべたする事はあった。
 だがガイの方から触れてくる事は無かった。

 ミオンも恥ずかしくなり、ガイから目を逸らしてしまう。

 繋がれた手は、彼女からも握った。
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