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1章
13 チマラハ攻略戦 3
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門の前に出て来た部隊を撃破し、ガイ達は街の中へ入った。
となると戦場は街中に移る……という物でもない。ケイオス・ウォリアーがほとんど倒された魔王軍に、歩兵だけで抵抗しようなどと考える者などそうはいないからだ。
兵士の大半はいくつかある小さな門から逃げ出してしまった。
それでも少しは抵抗する兵士もいる。
しかしスティーナの運搬機が街中に突入し、そのハッチを開いた。
「さあ汚名返上の時ですよ」
そう言われて出てくるのは冒険者のパーティである。彼らは領主邸への道を走り、邪魔する魔物どもに打ちかかった。
「返上しなくても死なないけどね」
嫌そうに言うのは女魔術師のララ。
逆にやる気満々で先頭で走るのはタリンだ。
「うおお! 俺の時代が来たぜー!」
それに着いて走りながら女神官のリリが悲鳴をあげる。
「先頭に立つのはやめてー! ウスラ、早く前に!」
「うす」
ウスラはタリンが袋叩きにされる前に、パーティの先頭へと急いだ。
敵が軍である以上、歩兵同士の戦いもあるはず。
その考えでガイの元パーティメンバーも駆り出されたのである。
イアンとタゴサックはまだケイオス・ウォリアーに乗っており、逃げる魔王軍を街から追い散らしていた。
なぜ白銀級機に乗っていたタリンだけが元パーティに合流したのかというと――
「一応は補給しときますか」
運搬機に格納されたSバスタードスカルをモニターで眺め、呟くスティーナ。
不死怪獣を召喚する能力はあるものの、消耗が激しく、真っ先にエネルギーが空になってしまったのである。
逃げ回る雑兵を追いかけまわし、タリンは目覚ましく戦っていた。
「オラオラー! 俺の手柄になりやがれ!」
「違うだろ! そんな連中より大将を探せよ!」
機嫌よく剣を振り回すタリンにかかる声。それは機体を降りて走って来たガイだ。
タリンは振り向いて大声をあげた。
「なんだと!? オレに指図するんじゃねー! 大将首はオレのもんじゃー!」
そう怒鳴ると領主邸へまっしぐら。
反抗しながらも目標を大物へ変えるタリンを見て、ガイが納得いかずに呟く。
「……どういう思考であの発言になるんだ」
そんなガイの元にイアンとタゴサックも走って来た。
「ガイ殿。魔王軍のケイオス・ウォリアーはもう残っておらんようです」
「了解……て、ミオン!?」
ガイは彼らの後ろにミオンがいるのを見て驚く。
彼女はちょっぴりの気まずさを滲ませた笑みを浮かべる。
「運搬機にいるよりは皆に同行した方が安全かなって」
一瞬ガイは逡巡したものの、すぐに真面目な顔で頷いた。
「わかった。側を離れるなよ」
「あら、ちょっと嬉しい命令」
パッと明るくなるミオン。
「こんな時にな……」
ガイは頭を掻いた。が、そこへ少女の声が力強く飛ぶ。
「どんな時でも二人の絆は熱いですね!」
握り拳を作ってスティーナが目を輝かせていた。
溜息をつくガイ。
「なんでそこが喜ぶ……」
ともかく一行は無いも同然の抵抗を蹴散らし、領主邸へ駆け込んだ。
すると先行していたタリンの声が聞こえた。
「見つけたぜー!」
「て、テメーかぁ! ふざけんな!」
聞き苦しい怒鳴り声の応酬。
ガイ達は声の方に走った。
広い廊下で、ちょっと良い鎧を着た肥満の兵士がタリン達に追い詰められている。
剣を突きつけて勝ち誇るタリン。
「ははっ、年貢の納め時だな。副隊長さんよぉ!」
魔王軍に囚われていたタリン達は副隊長の顔を知っていたのだ。
それは相手にしても同じ事で、彼は罵声を飛ばす。
「お、お前! 我が軍から新型武器を何個も持って行ったくせに」
「恩を売ろうとしても無駄だ! 悪に容赦はしねぇ!」
実に嬉しそうなタリン。
その後ろでララが呟いた。
「売ろうというか、売ってもらってたよね。実際」
ガイの後ろでスティーナも呟いた。
「悪党って……人の事言える?」
しかしそんな反論を口にはせず、副隊長は己の剣を床に捨てた。
「い、命は助けてくれ! 魔王軍の物でも街の物でも何でも差し出すから」
その必死な懇願を見て呆気にとられるガイ。
「こいつが指揮官って……どんだけ人材がいないんだ」
そんなガイに応える声が、廊下の奥から届く。
「痛い所を突いてくれるな。昨今の勇者は口も立つようだ」
そう言って重々しい足音が、金属の触れる音とともに響いた。
赤い鎧を全身に纏った戦士が堂々と歩いて来たのだ。
「誰だ?」
身構えつつ問うガイ。
戦士は足を止めた。
フルヘフェイスの兜の奥から射抜くような鋭い視線を向けてくる。
「魔王軍で連絡係をやっているケチな男だ。一応は親衛隊で……マスターボウガスと名乗る事にしている」
となると戦場は街中に移る……という物でもない。ケイオス・ウォリアーがほとんど倒された魔王軍に、歩兵だけで抵抗しようなどと考える者などそうはいないからだ。
兵士の大半はいくつかある小さな門から逃げ出してしまった。
それでも少しは抵抗する兵士もいる。
しかしスティーナの運搬機が街中に突入し、そのハッチを開いた。
「さあ汚名返上の時ですよ」
そう言われて出てくるのは冒険者のパーティである。彼らは領主邸への道を走り、邪魔する魔物どもに打ちかかった。
「返上しなくても死なないけどね」
嫌そうに言うのは女魔術師のララ。
逆にやる気満々で先頭で走るのはタリンだ。
「うおお! 俺の時代が来たぜー!」
それに着いて走りながら女神官のリリが悲鳴をあげる。
「先頭に立つのはやめてー! ウスラ、早く前に!」
「うす」
ウスラはタリンが袋叩きにされる前に、パーティの先頭へと急いだ。
敵が軍である以上、歩兵同士の戦いもあるはず。
その考えでガイの元パーティメンバーも駆り出されたのである。
イアンとタゴサックはまだケイオス・ウォリアーに乗っており、逃げる魔王軍を街から追い散らしていた。
なぜ白銀級機に乗っていたタリンだけが元パーティに合流したのかというと――
「一応は補給しときますか」
運搬機に格納されたSバスタードスカルをモニターで眺め、呟くスティーナ。
不死怪獣を召喚する能力はあるものの、消耗が激しく、真っ先にエネルギーが空になってしまったのである。
逃げ回る雑兵を追いかけまわし、タリンは目覚ましく戦っていた。
「オラオラー! 俺の手柄になりやがれ!」
「違うだろ! そんな連中より大将を探せよ!」
機嫌よく剣を振り回すタリンにかかる声。それは機体を降りて走って来たガイだ。
タリンは振り向いて大声をあげた。
「なんだと!? オレに指図するんじゃねー! 大将首はオレのもんじゃー!」
そう怒鳴ると領主邸へまっしぐら。
反抗しながらも目標を大物へ変えるタリンを見て、ガイが納得いかずに呟く。
「……どういう思考であの発言になるんだ」
そんなガイの元にイアンとタゴサックも走って来た。
「ガイ殿。魔王軍のケイオス・ウォリアーはもう残っておらんようです」
「了解……て、ミオン!?」
ガイは彼らの後ろにミオンがいるのを見て驚く。
彼女はちょっぴりの気まずさを滲ませた笑みを浮かべる。
「運搬機にいるよりは皆に同行した方が安全かなって」
一瞬ガイは逡巡したものの、すぐに真面目な顔で頷いた。
「わかった。側を離れるなよ」
「あら、ちょっと嬉しい命令」
パッと明るくなるミオン。
「こんな時にな……」
ガイは頭を掻いた。が、そこへ少女の声が力強く飛ぶ。
「どんな時でも二人の絆は熱いですね!」
握り拳を作ってスティーナが目を輝かせていた。
溜息をつくガイ。
「なんでそこが喜ぶ……」
ともかく一行は無いも同然の抵抗を蹴散らし、領主邸へ駆け込んだ。
すると先行していたタリンの声が聞こえた。
「見つけたぜー!」
「て、テメーかぁ! ふざけんな!」
聞き苦しい怒鳴り声の応酬。
ガイ達は声の方に走った。
広い廊下で、ちょっと良い鎧を着た肥満の兵士がタリン達に追い詰められている。
剣を突きつけて勝ち誇るタリン。
「ははっ、年貢の納め時だな。副隊長さんよぉ!」
魔王軍に囚われていたタリン達は副隊長の顔を知っていたのだ。
それは相手にしても同じ事で、彼は罵声を飛ばす。
「お、お前! 我が軍から新型武器を何個も持って行ったくせに」
「恩を売ろうとしても無駄だ! 悪に容赦はしねぇ!」
実に嬉しそうなタリン。
その後ろでララが呟いた。
「売ろうというか、売ってもらってたよね。実際」
ガイの後ろでスティーナも呟いた。
「悪党って……人の事言える?」
しかしそんな反論を口にはせず、副隊長は己の剣を床に捨てた。
「い、命は助けてくれ! 魔王軍の物でも街の物でも何でも差し出すから」
その必死な懇願を見て呆気にとられるガイ。
「こいつが指揮官って……どんだけ人材がいないんだ」
そんなガイに応える声が、廊下の奥から届く。
「痛い所を突いてくれるな。昨今の勇者は口も立つようだ」
そう言って重々しい足音が、金属の触れる音とともに響いた。
赤い鎧を全身に纏った戦士が堂々と歩いて来たのだ。
「誰だ?」
身構えつつ問うガイ。
戦士は足を止めた。
フルヘフェイスの兜の奥から射抜くような鋭い視線を向けてくる。
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