フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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1章

12 改造と計画と 1

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 午後の日差しの中、荒野の向こうについにカサカ村が見えた。
 改造ゾウムシの運搬機……その助手席でミオンが嬉しそうに目をこらす。 
「久しぶりの帰宅ね。みんな元気かしら」
「まぁあの村の連中なら、な」
 そう応えるガイの脳裏には村の主だった住人達が浮かぶ。
 長い期間ではないが住んでいた村に、短い期間ではあるが離れていた事で懐かしさを感じるようになっていた。

(俺、あの村を意外と気に入っているのかな)
 ガイがそう思った時。
 村の中で立ち上がる人造の巨人――ケイオス・ウォリアーが見えた。
 だが村の作業で使う量産型機では

「あれは!? 親衛隊の機体!」
 驚くガイ。
 フードとマントを羽織った骸骨のようなその機体は、以前村を襲った魔王軍親衛隊の使っていた物だったのだ。
 部品を使えないかと鹵獲して、村の工場で保管していた操縦者のいない筈の機体。それが動いている!

 しかしすぐに躓いた。
「あ、倒れたわ」
 困惑するミオン。その横でガイも困惑する。
「誰が何をしているんだ……?」


――村の中の工場――


 ケイオス・ウォリアーが気になり、ガイは運搬機を工場に入れた。
 そこには村の主だった者達が集まっており、ガイ達に気付くと駆け寄ってくる。
「ガイ殿!」「師匠!」「お帰りなさい!」
 ガイ達も操縦席から降りた。
「ただいま……それは?」
 ガイは訊く。
 工場の敷地内でうつ伏せに倒れる、魔王軍の白銀級機を眺めながら。

 その機体はもがくように不器用な寝返りをうち、仰向けになると、操縦席のハッチを開けた。
 中から出て来たのは……タリン! その手にはシロウの頭蓋骨が差し込まれた【骸骨の杖】を握っている。
 タリンはガイを見るなり悪態をついた。
「チィ! 帰ったかガイ! だがお前の時代は終わりだ。オレが白銀級機シルバークラスの操縦者になり、この村を支配するからよ!」
『さすが俺』
 その手でシロウの頭蓋骨がガチガチと顎を鳴らす。
 

 ガイは弟子のスティーナから事情を聞いた。
 ガイとの戦いで、死んだパラディンの頭脳を搭載したアイテムをケイオス・ウォリアーに差し込んだタリンは、不完全ながらもパラディンのパワーで機体の能力を起動させる事ができた。
 それを実用化できないか?……と村の捕虜になったタリンがスティーナ達にもちかけ、村の住人で相談して試してみようという事になり、【骸骨の杖】を使ってタリンが白銀級機シルバークラスを動かそうとしていたのである。

「上手くいけば、異界流ケイオスに関する制限をかなり緩和できると思いまして」
 スティーナの説明にガイは難しい顔で唸る。
「だからって聖勇士パラディン不死怪物アンデッドモンスターにして部品に組み込むってのはなぁ……」
 スティーナは頷きはするのだが……
「人類側が使う技術ではありませんね。ただ技術として確立はさせておいて損はないかと」

 その横で村長のコエトールが訴える。
「人口が増えて、いろいろ拡張せねばなりませんからな。配水・排水のための側溝を掘らねばなりません。土木作業に使えるケイオス・ウォリアーが何台用意できるかは重要な問題ですからな」
「うむ。ワシの家に早く厠を設置せねば」
 領主のカーチナガも同意した。

 何を勘違いしたか、タリンが胸をはって勝ち誇る。
「わかったか。今後お前にデカい顔はさせないからよ!」
 しかし鍛冶屋のイアンがその頭を後ろから鷲掴みにした。
「そう言う事は動かせるようになってから言え。な?」
「あ、はい」
 一転、恐縮するタリン。


 こうしてガイは帰還した途端だというのに、ケイオス・ウォリアーに死んだ聖勇士パラディンを直結させる、この世界の道徳的にもちょっと難のある実験に付き合わされる事になった。


――陽が傾いて紅く染まる頃――


 頭を地面にめり込ませた無様な機体を横目にスティーナが呟く。
「やはり規格に無い物を後付けするのは難しいですね。生態部品との接着が上手くいきません」
 その手には今まで施した改造処置と結果を記録した羊皮紙。
 隣でその記録を眺めつつガイは考える。

聖勇士パラディンの脳だか魂だかが籠められてる杖だからって、レバー引っこ抜いて代わりに差し込んでもな。わざと壊して違う部品つっこんでるだけでちゃんとくっ付くわけないし)
 一応、そこらへんの調整を試行錯誤しながらやってはいるのだが、スティーナも言う通りちゃんと接着できる触媒が無い。
 だがガイはふと思い至る。
(壊す……くっ付ける……)
 旅先で外国の元王子、カエル獣人のモードックから貰った缶を鞄から出した。生物にもケイオス・ウォリアーにも使える回復アイテムを。
「こんなもん手に入れたんだけどさ」


 レバーの取り付けに【ガマーオイル】を使い、再起動させてみる。
「これで上手くいくのか?」
「知らねぇよ、ダメモトって奴だ」
 疑わしそうなタリンにそう答え、ガイは機体の操縦席から出た。


 そして白銀級機シルバークラスは……ゆっくりと立ち上がる。
 今までは立つだけで精一杯だったが、今度は一歩踏み出す事ができた。
 さらに一歩。もう一歩。敷地内を歩く白銀級機から、通信機ごしにタリンの声が響く。
「お? おーおー、ちゃんと動くぞ」

「おお! これで土木作業がはかどる!」
 村長、万歳。
「おお! ワシの家に厠ができる!」
 領主、万歳。

『しかしこれ、俺はずっとレバーのままか?』
 シロウの髑髏がレバーの先端で呻いたが、それを全く無視し、スティーナはガイに訊いた。
「師匠、さっきのオイルは残りどれぐらいありますか?」
 親指を立てるガイ。
「缶一つしかない。だけど作り方は教えてもらったぜ」
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