フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
57 / 147
1章

11 過去を訪ねて 5

しおりを挟む
――ケイオス・ウォリアーの運搬機・改造ゾウムシの操縦席――


 ガイ達は帰路についていた。村を旅立ってから二週間以上になるが、それはあちこち寄り道したからであり、真っすぐ帰るなら明後日には到着するだろう。

 人里離れた荒野の街道を行く運搬機。
 その助手席で、は憂い顔で「ふう……」と溜息をついた。
 それを聞きつけてガイは呟く。
「振り出しに戻っちまったな」
 そう言いながら、ガイに沈んだ様子は全く無い。
 むしろ明るく心軽く……といった調子だ。

 しかしは窓枠に頬杖をついて外を眺めていた。
「むしろ後退よね。名前では私の身元がわからない事がはっきりしたわ。顔を知っている人を探さないと、本当はどこの誰かわからないのよ」
 しかしガイは事も無げに――
「ま、いいじゃないか」
「ちょっとぉ……」
 はむくれ、横目でガイを睨む。
 しかしガイは上機嫌で言葉を続けた。
「セイカ家のミオンさんの持ち物が落ちていたのは、同じ場所で働いていたって事だろ。なら宮女だった事はほぼ確実。顔を知っている人を探すなら都へ上京すればいいって事だ。次の目的地がはっきりしたんだから、後退はしてないさ」
「あ……!」
 言われての表情が一変する。


 空振りの衝撃で彼女はそこまで考えが及んでいなかった。
 皇帝は生死不明だが、皇族は全滅したわけではない。その娘は一人残っている。皇帝一族が残ってる以上、以前の関係者もまだ残っているだろう。
 が本当はどこの誰なのか、知る者がいる可能性は高い。

 とはいえケイト帝国内は混乱の極みにあり、今すぐ急行するには危ない。
 行くにしても一旦帰宅して準備を整えてからの話だ。


 それらに気付き、の表情に明るさが戻ってきた。
 しかし「む……」と眉をひそめる。
「でも、お金は無くなっちゃったわね。貴族かどうかもわからないし、ガイに何も出せなくなったわ」
 しかしガイは事もそれにも無げに――
「ま、いいじゃないか」
「それも何か案があるの?」
 が訊くと、ガイは軽く笑って頷く。
「案ていうか、希望的観測か。宮女になれるなら貴族か名家だろ。むしろそれが保証されたようなもんだ」


 元々、実家を見つけて送り届けた時の報酬に期待しての仕事……だった筈である。
 そう考えると状況は別に悪化などしていないのだ。


 だがしかし。
 その顔から陰は薄れたものの、は小首を傾げる。
「本名もわからないから、これから何と名乗ればいいのかしら」
 ガイはやっぱり笑っていた。
「ミオンでいいじゃないか」
「それは別の人の名前よ?」
 がそう言っても、ガイは前方を見て運転しながら「ヘッ」と笑う。
「同名の人ぐらいいくらでもいるさ。ここ最近、セイカ家のミオンさんだと思いこんでいたけど。これからは俺んのミオンてだけのこと」

 ガイにとってはこそミオンなのだ。

 さて、そう言われた……いやミオンは。

「!?」
 驚き、目を見張り、ガイから目を逸らして窓の外へ顔を向けた。
 そして躊躇いがちに、ちょっと小さめの声で訊いてくる。

「俺のミオン……て言った?」

 意表をつかれて慌てふためくガイ。
「ちょ、いやいや、俺んのミオン! 俺のうちの、だよ」
「あ、なんだ」
 そう言ってガイへ振り返った時、彼女はくすくすと悪戯っぽく笑う、いつものミオンに戻っていた。

「つまり……まだ一緒に暮らすわけね?」
 微笑みながら、期待を瞳に籠めて。ミオンはガイにそう訊く。
 本当の意味で質問なのかどうか、それは別の話だが。
 そしてガイは……
「いや、だって、他にないだろ」
 ちょっとぶっきらぼうに、ちょっとつっけんどんに。
 ミオンが予想した通りの答えを返してきた。


 にんまりと微笑んでから、ミオンは芝居がかった考えるふりをした。
「思えば姉弟設定でも良かったかな?」
 ガイは「む……」と唸り、考えてから言う。
「それだとミオンに言い寄る男がいたら追い払えないだろ」
 上機嫌な笑みを浮かべ、ミオンは芝居がかった考えるふりを続けた。
「いっそ本当の事を言っちゃうのもアリかな?」
 ガイは「む……」と唸り、考えてから言う。
「それじゃ身元を知ってるふりした詐欺師が利用しようとするかもしれないぜ」

「これからも夫婦という事にしようと、ガイは思っているわけね?」
 微笑みながら、期待を瞳に籠めて。ミオンはガイにそう訊く。
 本当の意味で質問なのかどうか、それは別の話だが。
 そしてガイは……
「まぁ、その……色々考えたらそうかな、と」

 ミオンは笑った。
 口元に手の甲をあてて隠しながら、くすくすと、とても楽しそうに、嬉しそうに。ガイを横目で見つめて。

「なんだよ」
 口調こそちょっと拗ねたようではあるが、ガイに気分を悪くしたような様子はちっとも無かった。
「別に? 早く帰りましょう」
「ああ、帰ろう」
 機嫌よく促すミオンに機嫌良く応え、ガイは運搬機の速度をあげる。
 その肩でイムが「えへへ」と嬉しそうに笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」 乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。 隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。 「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」 規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。 「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」 ◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。 ◯この話はフィクションです。 ◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...