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1章
11 過去を訪ねて 4
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――山中の薬局――
ヘイゴー連合シソウ国の元王子モードックを連れて、ガイ達は店に戻った。
「ただいま、マーメイ」
事もなげに挨拶するモードック。
店主の少女はカウンターを回り込んで駆け寄ると、躊躇なくその旨に跳び込んだ。
「お帰りなさい! 遅かったじゃない、心配したわ」
優しく抱き合う二人。
それを呆然と見ていたガイだが、やがて声を絞り出す。
「……婚約者って、まさか」
モードックが振り返って頷いた。
店主の少女は照れてはにかむ。
「マジ!?」
「異種族の婚姻は昔から結構ある事だが」
再び驚くガイに、モードックは事も無げに答えた。
この世界インタセクシルには多数の人間型種族がいる。
それらの大半は異種族間での生殖が可能であり、それゆえに異なる種族での婚姻も古代から行われてきた。
その事はガイも当然知っている。
だがそれも外見の近しい種族同士での話。
人間やそれと同じような顔の種族と、頭部が丸ごと動物というタイプの獣人では、種族を超えた婚姻例は非常に少ない。
だがまぁ無いではない事だ。
そんな関係を生まれて初めて見るガイにとって衝撃ではあるが。
しかし珍しかろうと他人の幸せ、ガイは気を取り直して祝福する。
「そ、それは素敵ですね……おめでとうございます」
モードックは「ゲゲー」と笑った。
少女も恥ずかしそうに微笑み、軽く一礼する。
「ありがとうございます。さっそく薬を調合いたしますね。何をお望みでしょうか?」
ここは薬局、少女は薬師。彼女はガイ達が薬を探しに来たと思っているのだ。
「いえ、薬じゃないんです。セイカ子爵ご夫妻に会いたくて、ここまで訪ねて来ました」
ガイは改めて説明した。
すると少女は目を丸くする。
「え!? 祖父母に御用なのですか」
「祖父母!? では貴女はセイカ子爵のお孫さん?」
今度はガイ達が驚く番だ。
「はい、マーメイ=セイカです」
そう名乗ると、少女は事情を話しだした。
魔王軍との戦で祖父・セイカ子爵が負傷した事。
高齢のためか、それにより病も患った事。
大事をとり、防衛や統治を腹心の部下に任せて療養に専念している事。
マーメイは以前から薬学を学んでいたので、祖父母に同行している事。
良い薬を求めながら安全な奥地へ、奥地へと移り、ここにまで引っ越して来た事。
引っ越しを繰り返す途中でマードックと知り合い、共にいるうちに惹かれあった事。
現在はこの近所に祖父母が住んでおり、マーメイは実技と人助けも兼ねて薬局を経営し、素材の調達をマードックに任せている事……。
「なんと……」
呻くガイ。
ようやく求める人物の側に来たのだ……というより、ミオンの身元を確認するなら、この少女に聞いてもいいのだ。
それに思い至り、ミオンはマーメイに話しかけた。
「あの、ではミオンという名はご存知でしょうか」
マーメイは頷いた。
「私の母ですね。10年ほど前、父が没してすぐに上京して皇族に仕える女官になりました。あまり便りをよこさない人で、今どうしているのかはわかりません」
この少女こそが『ミオン』の娘だったのである。
ガイとミオンはしばらく金縛りになる。
イムがきょろきょろと、二人の顔を交互に見回した。
やがてガイが声を絞り出す。
「……母上のお歳はいくつぐらいになられますかね?」
「35です」
怪訝な顔をしつつもマーメイは答えてくれた。どう考えてもミオンとかけ離れた年齢を。
再びガイが声を絞り出す。
「……種族は人間ですよね?」
「ええ。うちに限らず、ケイト帝国の貴族はほとんどが人間族ですし」
怪訝な顔をしつつもマーメイは答えてくれた。
ガイとミオンは再び金縛りになる。イムがきょろきょろと、二人の顔を交互に見回した。
そんな二人に、怪訝な顔をしつつマーメイが訊いた。
「あの……母がどうかしました?」
今度はガイ達が状況を説明する番だった。
カーチナガ子爵からの招待状も見せて経緯を語る。
話を聞くと、マーメイは言い難そうに告げた。
「……薄々感づかれておられると思いますが、母の持ち物を拾っただけで、そちらの女性は別人です」
「そのよう、ですね……」
頷くミオン。
その横でガイは呆然と突っ立っていた。
別人の可能性がある事も頭では理解していたのだが……子持ちの既婚者という可能性の衝撃と、それへの覚悟を決めているうちに、同一人物だという前提で考えてしまっていたのだ。
ミオンは宝石入りの小袋をマーメイに差し出した。彼女の母親の、ミオンの名前が刺繍された小袋を。ミオンが眠っていた避難機で拾った物を。
「貴女のお母様の物です。すいません、結構使ってしまいました」
「お気になさらず。その状況なら誰でも同じ事をするでしょう。使ったお金はモードックを助けていただいた報酬として前払いした、と考えます」
そう言ってマーメイは小袋を受け取った。
そしてモードックは。
「私からもお礼をしよう。これは我が一族に伝わる回復アイテム【ガマーオイル】だ。量さえあればケイオス・ウォリアーにさえ使える」
そう言って金属の缶をガイに渡した。
感嘆の声をあげるガイ。
「それは凄い! 製法を知りたいぐらいです」
モードックは大きな頭で頷いた。
「ああいいよ」
「え?」
ガイは驚いた……が、一族に伝わる物ではあっても秘伝の類ではなかったという、ただそれだけなのだ。
ヘイゴー連合シソウ国の元王子モードックを連れて、ガイ達は店に戻った。
「ただいま、マーメイ」
事もなげに挨拶するモードック。
店主の少女はカウンターを回り込んで駆け寄ると、躊躇なくその旨に跳び込んだ。
「お帰りなさい! 遅かったじゃない、心配したわ」
優しく抱き合う二人。
それを呆然と見ていたガイだが、やがて声を絞り出す。
「……婚約者って、まさか」
モードックが振り返って頷いた。
店主の少女は照れてはにかむ。
「マジ!?」
「異種族の婚姻は昔から結構ある事だが」
再び驚くガイに、モードックは事も無げに答えた。
この世界インタセクシルには多数の人間型種族がいる。
それらの大半は異種族間での生殖が可能であり、それゆえに異なる種族での婚姻も古代から行われてきた。
その事はガイも当然知っている。
だがそれも外見の近しい種族同士での話。
人間やそれと同じような顔の種族と、頭部が丸ごと動物というタイプの獣人では、種族を超えた婚姻例は非常に少ない。
だがまぁ無いではない事だ。
そんな関係を生まれて初めて見るガイにとって衝撃ではあるが。
しかし珍しかろうと他人の幸せ、ガイは気を取り直して祝福する。
「そ、それは素敵ですね……おめでとうございます」
モードックは「ゲゲー」と笑った。
少女も恥ずかしそうに微笑み、軽く一礼する。
「ありがとうございます。さっそく薬を調合いたしますね。何をお望みでしょうか?」
ここは薬局、少女は薬師。彼女はガイ達が薬を探しに来たと思っているのだ。
「いえ、薬じゃないんです。セイカ子爵ご夫妻に会いたくて、ここまで訪ねて来ました」
ガイは改めて説明した。
すると少女は目を丸くする。
「え!? 祖父母に御用なのですか」
「祖父母!? では貴女はセイカ子爵のお孫さん?」
今度はガイ達が驚く番だ。
「はい、マーメイ=セイカです」
そう名乗ると、少女は事情を話しだした。
魔王軍との戦で祖父・セイカ子爵が負傷した事。
高齢のためか、それにより病も患った事。
大事をとり、防衛や統治を腹心の部下に任せて療養に専念している事。
マーメイは以前から薬学を学んでいたので、祖父母に同行している事。
良い薬を求めながら安全な奥地へ、奥地へと移り、ここにまで引っ越して来た事。
引っ越しを繰り返す途中でマードックと知り合い、共にいるうちに惹かれあった事。
現在はこの近所に祖父母が住んでおり、マーメイは実技と人助けも兼ねて薬局を経営し、素材の調達をマードックに任せている事……。
「なんと……」
呻くガイ。
ようやく求める人物の側に来たのだ……というより、ミオンの身元を確認するなら、この少女に聞いてもいいのだ。
それに思い至り、ミオンはマーメイに話しかけた。
「あの、ではミオンという名はご存知でしょうか」
マーメイは頷いた。
「私の母ですね。10年ほど前、父が没してすぐに上京して皇族に仕える女官になりました。あまり便りをよこさない人で、今どうしているのかはわかりません」
この少女こそが『ミオン』の娘だったのである。
ガイとミオンはしばらく金縛りになる。
イムがきょろきょろと、二人の顔を交互に見回した。
やがてガイが声を絞り出す。
「……母上のお歳はいくつぐらいになられますかね?」
「35です」
怪訝な顔をしつつもマーメイは答えてくれた。どう考えてもミオンとかけ離れた年齢を。
再びガイが声を絞り出す。
「……種族は人間ですよね?」
「ええ。うちに限らず、ケイト帝国の貴族はほとんどが人間族ですし」
怪訝な顔をしつつもマーメイは答えてくれた。
ガイとミオンは再び金縛りになる。イムがきょろきょろと、二人の顔を交互に見回した。
そんな二人に、怪訝な顔をしつつマーメイが訊いた。
「あの……母がどうかしました?」
今度はガイ達が状況を説明する番だった。
カーチナガ子爵からの招待状も見せて経緯を語る。
話を聞くと、マーメイは言い難そうに告げた。
「……薄々感づかれておられると思いますが、母の持ち物を拾っただけで、そちらの女性は別人です」
「そのよう、ですね……」
頷くミオン。
その横でガイは呆然と突っ立っていた。
別人の可能性がある事も頭では理解していたのだが……子持ちの既婚者という可能性の衝撃と、それへの覚悟を決めているうちに、同一人物だという前提で考えてしまっていたのだ。
ミオンは宝石入りの小袋をマーメイに差し出した。彼女の母親の、ミオンの名前が刺繍された小袋を。ミオンが眠っていた避難機で拾った物を。
「貴女のお母様の物です。すいません、結構使ってしまいました」
「お気になさらず。その状況なら誰でも同じ事をするでしょう。使ったお金はモードックを助けていただいた報酬として前払いした、と考えます」
そう言ってマーメイは小袋を受け取った。
そしてモードックは。
「私からもお礼をしよう。これは我が一族に伝わる回復アイテム【ガマーオイル】だ。量さえあればケイオス・ウォリアーにさえ使える」
そう言って金属の缶をガイに渡した。
感嘆の声をあげるガイ。
「それは凄い! 製法を知りたいぐらいです」
モードックは大きな頭で頷いた。
「ああいいよ」
「え?」
ガイは驚いた……が、一族に伝わる物ではあっても秘伝の類ではなかったという、ただそれだけなのだ。
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