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1章

11 過去を訪ねて 2

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 密林の木々の間を高々と跳躍する影……それらは人の形をしていながら、頭部は人ではなかった。

 カエルである。
 黒装束を来たカエル頭の獣人達が、革鎧にマントを羽織ったカエル頭の獣人を追っているのだ。

 彼らもガイ達に気づいて動きを止めた。
 側に着地し、獣人同士で睨み合いながらガイ達を警戒するカエル獣人たち。
 そんな彼らを前にイムが首を傾げる。
「どっちがモードックさん?」

 それを聞いて黒装束の軍団が短刀を抜いた。
「邪魔するならば!」
 そう言って問答無用でガイ達に切りかかって来る!
「危ない!」
 革鎧にマントのカエル獣人が叫んだ。

 しかし直後、黒装束達に不可視の衝撃が炸裂する!
 ガイが珠紋石じゅもんせきで放った【シェリルサウンド】の呪文だ。


【シェリルサウンド】大気領域第2レベルの攻撃呪文。超音波を叩きつけてダメージを与える範囲攻撃魔法。


 空気の打撃を食らい「ゲコォーッ!」と悲鳴をあげる彼らを、ガイが聖剣で次々と打った。
 脳天を打たれた一人が大の字に倒れ、深手を負った残りが「退け、退けぇ!」と叫んで逃げてゆく。

 謎の刺客達は幾多の戦いで鍛えられたガイの敵ではなかった。


 戦いが終わると革鎧のカエル獣人が頭を下げる。
「すまない、助かった」
「貴方がモードックさんですか?」
 ガイが尋ねると、その獣人は大きな頭で頷いた。

 早くも目的の人物を見つけたのだ。

 しかし気になる事をガイは訊く。
「えっと……彼らは一体?」
 当然、黒装束の刺客の事である。
 すると革鎧のカエル獣人――モードックは大きな顎に手をあてて考えた。
「どうしたものか。話せば巻き込まれる事になるが」
 ならばとガイは質問を変える。
「薬局には戻れますか?」
「今はちょっとな……」
 それも渋られた。


 だがしかし。
 倒れていた黒装束が、いつのまに息を吹き返していたのか「フッ……」と笑う。
「愚か者め。我らに手を出した以上、無関係ではいられんぞ。に首を突っ込んだ事を後悔するがいい」

 するとミオンがガイの後ろから黒装束に尋ねた。
「貴方達はシソウ国の方々ですか?」
「なにィ!? なぜ知っている!」
 驚愕してがばりと上体を起こす黒装束カエル。
 モードックもミオンの指摘に驚いている。
 だがミオンは極めて当然のように言った。
「カエル獣人の国と言えば、ヘイゴー連合のシソウ国ぐらいだから」

 その事を知っている者なら、まぁ見当がついても不思議ではないのだ。

「ヘイゴー連合の現帝王がシソウ国のヤードック王なのよね。モードックさんはそのゆかりの人かしら?」
「まぁ、そういう事だ」
 ミオンの質問にモードックは頷いた。
「もしかして貴方が王子で、王位継承問題で揉めたりしてるパターンですか?」
「まぁ、そういう事だ」
 ガイの質問にもモードックは頷いた。
「あそこの王子は二人兄弟だったわね。この刺客さん達は弟さんの手の者?」
「まぁ、そういう事だ」
 ミオンの再度の質問にもモードックは頷いた。


 割と容易に想像できる話だった。


「親父さんにチクッて諫めてもらうしかないか?」
 腕組みして考えるガイ。
 しかしモードックはかぶりを振る。
「実は父は死んでいる。この間、魔王軍に敗れた」
 ガイはびっくり仰天。
「ええっ!? ヘイゴー連合は無事なのか?」
「実は分裂している。現帝王が死んだら連合各国から帝王を決め直さねばならないからな」
 モードックの答えでは、全然無事ではなかった。
 これにより人類の三大国家は全滅した事になる。
 慌てふためくガイ。
「それじゃあ人類は魔王軍に負ける寸前なのか!?」
 ところがこれにもモードックはかぶりを振る。
「実は最終決戦の準備をしている勇者達もいる。それ次第だな」


 人類側最高の勇者達も集結し、最後の戦いに挑もうとしているのだ。
 ガイが何も知らないうちに。


 まさに激しい時代のうねり。
 しかしうねりの外にいる者にとっては驚くしかない事だ。
「い、いつの間にか事態が激変しているんだな……」
 呆然と呟くガイだが、まぁ魔王打倒なんて考えていなかったんだから仕方がない。

 しかしガイにはガイで、やるべき事や越えるべき難題がある。
 そんな難題がまた一つ迫っていた。
 黒装束を纏った新たなカエル獣人が、高い木の枝の上に現れたのだ。
「だからこそさっさと国をまとめ直さないとならんのだ。シソウ国が次も帝王の座を維持するためにな」
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