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1章
10 葛藤 3
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――村の集会場――
ガイは村の要人達を集めた。
緊張した面持ちの面々に、コホンと咳払い一つしてから告げる。
「夕べ、ミオンと話し合ったけど。タリンの奴が何しかけてくるかわからんから、アイツがのさばっている間は様子見で待機する事になった」
驚く者、顔を見合わせる者、「ほう!」と感嘆の声をあげる者。
村長のコエトールが満面の笑みを浮かべて何度も頷く。
「それは素晴らしい! ぜひそうしましょう!」
だが領主のカーチナガ子爵は恐る恐る訊いてきた。
「では都を取り返すのは……?」
申し訳なさそうに軽く頭を下げるガイ。
「それはまた別の話、というより予定なしなんだ」
「そ、そんな!」
領主は頭を抱えて嘆くが、現状ではガイの手に余るのが事実だ。
「タリンを仕留めるまでは師匠はこの村にいるという事ですね……」
『じゃあアイツが出てこなかったらいつまでもここで暮らすのか』
弟子のスティーナが呟くと、その脇にいる杖のシロウがガチガチと髑髏の歯を鳴らす。
そんな二人のやりとりを横目に、鍛冶屋のイアンが腕組みして考えた。
「ふむ。一番いいのはあの男がワシらの知らん所で勝手にくたばってくれる事じゃのう」
確かにその場合、ガイはかなりの長期間、村に滞在する事になるだろう。
しかし……
集会場の戸が「ドン!」と重い音を鳴らした。
皆が何事かと戸を見るが、それきり音も無いし誰も入って来ない。
戸惑いながら農夫のタゴサックが戸に近づき、ゆっくりと開ける。
しばらく外に首を出してきょろきょろと見渡したが、やはり誰もいないと見えて困惑していた。やがて戸の外に出てまで誰かいないかと視界を巡らせる。
そんな彼が驚いて「あっ!?」と声をあげたのは……開けた戸の表側を見た時だった。
「これは……矢文?」
丸めた羊皮紙が二枚くくりつけられた矢を戸から引っこ抜き、タゴサックは戻って来た。
羊皮紙を開けて皆で覗き込む。
一枚は手紙だった。
『果たし状。タリンからガイへ。決着をつけてやるぜコノヤロー。最後の戦いだ、地図の場所に一人で来い。ぜってーブッ殺す』
そしてもう一枚は地図。村から少し離れた所にある山中だった。
「タリンを仕留める時がもう来てしまったようですな……」
イアンが呟く。
ガイが村から去る時が、すぐ目の前に来たという事を。
村長が叫ぶ。
「ガイ殿! この手紙は燃やしましょう」
「来なかったらどうするとも書いていませんしな」
タゴサックも頷き同意する。
「え? 流石にそれは……」
スティーナだけが困惑していた。
ぐしゃり、と羊皮紙を握り潰す音がして、皆がそちらを見る。
ガイがこめかみをピクつかせながら、震える拳に手紙を握り締めていた。
――翌日、指定された山中――
山の中といってもそこは拓けており、森に囲まれた草原のようになっていた。
そこに腕組みして立つのはタリン。新調した武具に身を固め、自信ありげに不敵な笑みを浮かべている。
やがてその視界に、森の間、道のような狭間から歩いてくる男が一人現れた。
それは当然ガイであった。
ガイは大股で黙って近づいてくる。
タリンはまだ距離のあるうちから声をかけた。
「よう、ご苦労。だらだら長引かせても意味ねぇだろ? 今日で終わりにしてやるぜ。田舎村の連中にはさよならして来たんだろうな? まぁお前の首を村に届けてやってもいいけどよ。俺はこう見えて親切な男なんだ。つってもあんな田舎村には風俗もねぇし、届ける役目はゴブリン兵士Aにでもやらせておくかぁ? 配送料は着払いで銅貨三枚といったところか!」
言ってゲラゲラとバカにしたように嗤う。
そんなタリンにガイは歩みを止めず近づいた。
タリンが喋っている間にも足を止めなかった。
笑っている間にも足を止めなかった。
タリンが怪訝な顔をしたが、足を止めなかった。
「近くね?」
適当な所で身構えると思っていたのにすぐ目の前に来たガイを見てタリンは首を傾げる。
途端にタリンは渾身の正拳を顔面に食らった。
痛がって転げまわるタリンを見下ろすガイの表情は憤怒。
「こんなタイミングでしょうもない事しやがって!」
タリンを見下ろして怒鳴るガイ。
その肩でぷうっと頬を膨らまし、イムもうんうんと頷いていた。
せっかく――ちょっと嬉しい方向に――話が纏まったのに梯子が外れて、ガイの苛立ちはかつてない所まで達していた。
まぁそれをタリンに察しろというのは無茶どころではないのだが。
ガイは村の要人達を集めた。
緊張した面持ちの面々に、コホンと咳払い一つしてから告げる。
「夕べ、ミオンと話し合ったけど。タリンの奴が何しかけてくるかわからんから、アイツがのさばっている間は様子見で待機する事になった」
驚く者、顔を見合わせる者、「ほう!」と感嘆の声をあげる者。
村長のコエトールが満面の笑みを浮かべて何度も頷く。
「それは素晴らしい! ぜひそうしましょう!」
だが領主のカーチナガ子爵は恐る恐る訊いてきた。
「では都を取り返すのは……?」
申し訳なさそうに軽く頭を下げるガイ。
「それはまた別の話、というより予定なしなんだ」
「そ、そんな!」
領主は頭を抱えて嘆くが、現状ではガイの手に余るのが事実だ。
「タリンを仕留めるまでは師匠はこの村にいるという事ですね……」
『じゃあアイツが出てこなかったらいつまでもここで暮らすのか』
弟子のスティーナが呟くと、その脇にいる杖のシロウがガチガチと髑髏の歯を鳴らす。
そんな二人のやりとりを横目に、鍛冶屋のイアンが腕組みして考えた。
「ふむ。一番いいのはあの男がワシらの知らん所で勝手にくたばってくれる事じゃのう」
確かにその場合、ガイはかなりの長期間、村に滞在する事になるだろう。
しかし……
集会場の戸が「ドン!」と重い音を鳴らした。
皆が何事かと戸を見るが、それきり音も無いし誰も入って来ない。
戸惑いながら農夫のタゴサックが戸に近づき、ゆっくりと開ける。
しばらく外に首を出してきょろきょろと見渡したが、やはり誰もいないと見えて困惑していた。やがて戸の外に出てまで誰かいないかと視界を巡らせる。
そんな彼が驚いて「あっ!?」と声をあげたのは……開けた戸の表側を見た時だった。
「これは……矢文?」
丸めた羊皮紙が二枚くくりつけられた矢を戸から引っこ抜き、タゴサックは戻って来た。
羊皮紙を開けて皆で覗き込む。
一枚は手紙だった。
『果たし状。タリンからガイへ。決着をつけてやるぜコノヤロー。最後の戦いだ、地図の場所に一人で来い。ぜってーブッ殺す』
そしてもう一枚は地図。村から少し離れた所にある山中だった。
「タリンを仕留める時がもう来てしまったようですな……」
イアンが呟く。
ガイが村から去る時が、すぐ目の前に来たという事を。
村長が叫ぶ。
「ガイ殿! この手紙は燃やしましょう」
「来なかったらどうするとも書いていませんしな」
タゴサックも頷き同意する。
「え? 流石にそれは……」
スティーナだけが困惑していた。
ぐしゃり、と羊皮紙を握り潰す音がして、皆がそちらを見る。
ガイがこめかみをピクつかせながら、震える拳に手紙を握り締めていた。
――翌日、指定された山中――
山の中といってもそこは拓けており、森に囲まれた草原のようになっていた。
そこに腕組みして立つのはタリン。新調した武具に身を固め、自信ありげに不敵な笑みを浮かべている。
やがてその視界に、森の間、道のような狭間から歩いてくる男が一人現れた。
それは当然ガイであった。
ガイは大股で黙って近づいてくる。
タリンはまだ距離のあるうちから声をかけた。
「よう、ご苦労。だらだら長引かせても意味ねぇだろ? 今日で終わりにしてやるぜ。田舎村の連中にはさよならして来たんだろうな? まぁお前の首を村に届けてやってもいいけどよ。俺はこう見えて親切な男なんだ。つってもあんな田舎村には風俗もねぇし、届ける役目はゴブリン兵士Aにでもやらせておくかぁ? 配送料は着払いで銅貨三枚といったところか!」
言ってゲラゲラとバカにしたように嗤う。
そんなタリンにガイは歩みを止めず近づいた。
タリンが喋っている間にも足を止めなかった。
笑っている間にも足を止めなかった。
タリンが怪訝な顔をしたが、足を止めなかった。
「近くね?」
適当な所で身構えると思っていたのにすぐ目の前に来たガイを見てタリンは首を傾げる。
途端にタリンは渾身の正拳を顔面に食らった。
痛がって転げまわるタリンを見下ろすガイの表情は憤怒。
「こんなタイミングでしょうもない事しやがって!」
タリンを見下ろして怒鳴るガイ。
その肩でぷうっと頬を膨らまし、イムもうんうんと頷いていた。
せっかく――ちょっと嬉しい方向に――話が纏まったのに梯子が外れて、ガイの苛立ちはかつてない所まで達していた。
まぁそれをタリンに察しろというのは無茶どころではないのだが。
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