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1章

9 来訪者達 5

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 ガイはゆっくりと起き上がって来た。
 あちこちに火傷を負い、服も焦げ目と泥で汚したまま、「ふう」と小さく溜息をつく。
「首の皮一枚て所だが……まだギリ、なんとかなってる」

 そう言いながら、ガイは手にした木刀――聖剣から自分に活力が流れ込むのを感じていた。
 装備した者の傷を癒す【自動回復ヒーリング能力】を持つ武具が希少ながら有る……この聖剣もその一つだったのだ。
 おかげでなんとか、致命傷を免れた。

 それを見ぬけたわけではないが、ガイが生きている事は確かなのだ。マスターキメラが叫ぶ。
「クッ……ならば改めてトドメを刺すまで! 剣もアイテムも通じないお前には打つ手はあるまい!」
 そう言われたガイは……聖剣の峰をなにやら眺めていた。
 訝しむマスターキメラ。
「何をしている。今さら木刀に別の能力でもあると言うのではあるまいな」

「このくぼみがちょっと気になってな」
 ガイの言う通り、柄のすぐ上……刀身の付け根あたりに半球状のくぼみがあるのだ。
 遠目にそれを見たスティーナが小首を傾げる。
「何かを入れる穴でしょうか」

(入れる物と言ったって……)
 少し考え、ガイは腰の鞄から珠紋石じゅもんせきを取り出した。これは【アイスボール】の呪文効果がある結晶である。

【アイスボール】水領域第4レベルの攻撃呪文。球状の範囲内に煌めく氷の結晶を大量に含んだ凍気が吹き荒れる。

 しかしガイはそれを投げつけず、聖剣の穴にセットした。
 実になんともピッタリ嵌る。
 すると剣から無機質な声が響くではないか。
『アイスボール』
「何その声!?」
 驚くマスターキメラ。

 その眼前で、聖剣が煌めく氷の結晶を含む白い輝きに包まれた。
 ガイは新たな力を得た聖剣を構えて踏み込む。
「氷球・一文字斬り!」
 凍気を帯びた剣筋が襲いくる中、マスターキメラは慌てて最大の奥義を放った。
「くっ!? ブレイズプラズマー!」


 熱線と凍気の激突!
 それは爆発を起こして互いをかき消しあう。
 しかし威力全てを無にする事はできず――


 ガイは新たな傷を負い、吹き飛ばされていた。
 だが転倒する事なく着地し、なんとか踏み止まる。荒い息を吐きながらも、聖剣の【自動回復ヒーリング能力】で傷が癒えるのを待った。

 マスターキメラも吹き飛ばされていた。
 彼女もたたらを踏みつつ持ち堪えるが、その顔には焦りと驚愕がありありと浮かんでいる。

「二つの威力が一つに……?」
 唸るマスターキメラ。
 ガイの手元では、聖剣にはめ込んだ珠紋石じゅもんせきが粉となって砕けていた。ガイは「ふう」と溜息一つ。
「やっぱ壊れるのか。でも威力が上乗せされるのは助かるな」


 マスターキメラは改めて身構える。その拳に光と熱がまたも宿った。
「クッ……よくぞ互角に達した。ならば後は地力の勝負」
 一方、ガイは。
 聖剣の峰をまた眺めていた。
「穴はな。今度は両方に入れてみるか」
「えっなにそれズルい!」
 思わず叫ぶマスターキメラ。

 もちろん構わず、ガイは珠紋石じゅもんせきを二つ取り出す。さっきと同じ物をもう一度、もう一つは大気領域の呪文が籠められた物を。
 それらをはめ込まれた聖剣からまたも無機質な声が響く。
『アイスボール。ホワールウインド』

【ホワールウインド】大気領域第4レベルの攻撃呪文。激しい旋風が敵を包み、風の刃で切り刻む。

 刀身を包む空気の渦。その中ではダイヤモンドダストが煌めく。
 二重の魔力を帯びた聖剣をガイは構え、走った。
「氷球竜巻・一文字斬り!」
「な、なんの! ブレイズプラズマー!」
 マスターキメラが高熱に燃える拳を打ち出し、無数の熱線が駆け巡る。


 熱線と氷嵐の激突!
 それは爆発を起こして互いをかき消しあう。
 だが今度は明らかに片方へ力が傾いており――

 マスターキメラが吹き飛んだ。踏ん張るも何もない、高々と宙へ。
 凍てつき切り裂かれたその体が、村の側を流れる大河へ落ちた。水柱が大きく上がる。

 ガイは木刀を下ろし、深く大きく息を吐いた。そして一言……
「勝った」


 魔王軍の雑兵どもが我先にと逃げ出した。
 頭を潰された彼らに、戦意も指揮も無かった。
 それを見た村人達が歓声をあげる。
 スティーナがガイの側に駆け寄って来た。
「やりましたね師匠!」

 だがガイは己が握る聖剣をしげしげと眺めていた。
(この聖剣、あつらえたみたいにあまりにも俺に都合のいい能力なんだが……なんでだ?)
 イムが飛んできて肩に着地したので、ガイは彼女に目をやる。
 視線が合うと、イムはにっこりと微笑んだ。
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