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1章

9 来訪者達 3

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 タリンは宝石のごとく眩く輝く兜を抱えていた。
「聞いて驚け。この兜には戦いに敗れた聖勇士パラディンの魂が封じてある。これを被れば俺の体内にそのパワーが宿るという寸法よ。これが異界流ケイオスを上げる規格外装備第二段【怨魂兜グラッジヘルム】だ!」
 実に楽しそうな声をあげるタリン。

 ガイはちょっと呆気にとられていた。
「その名前でよく被る気になるな……呪われるだろ、それ」
 だがタリンは兜を高々と掲げる。
「魔王軍に在籍してるんだから暗黒系の装備で死にはしないだろ! 死ぬのはお前! 嫁さんは未亡人! 入れ替わりに俺はレレンと毎晩ハッスルだ! 悔しがれ! あの世で吠え面かきな!」

 指名されたレレン――コードネーム・マスターキメラは、タリンの背中を眺めながら一人思う。
(あいつがガイを倒せたら後ろから不意打ちして殺そう)


 そしてついに、タリンは兜を被った。
「装着!」

 一転、兜は輝きを失いドス黒く染まる。暗黒の鬼面……それが兜の正体なのだ。
 タリンの体がビクンと震えた。全身を赤黒いオーラがとりまく。
 そして――
『……フゥー、魔王軍・魔怪大隊のナンバー2がここに復活。この体は今から私の物だ』
 その声はタリンの物に聞こえたが、血の底から反響するようでもあった。

「乗っ取られたのか、タリン。体にそのパワーが宿るって、そういう意味か」
 呆れるガイに、タリンに宿った怨霊が『ククク……』と笑いかける。
『まぁいかにもありそうな話だろう。しかしこの体の望みは叶えてやらんとな。見せてやるぞ、魔王軍の大隊二番手がいかな実力を持っているのかをな……』
 ドス黒いオーラに虹色の煌めきが混ざる。

 それを前に、ガイの額に冷や汗が流れた。
(クッ……確かに凄い異界流ケイオスだ。今までで最強の敵か……)

『マスターハルシネーション改め、蘇った私はマスターアーマー! 生ける呪いの防具として生者ことごとく地獄へ引きずり込む!』
 怨霊――マスターアーマーに応え、その手に波打つ歪んだ剣が現れた。その刃にも本体同様の禍々しいオーラが宿っている。
 鎧が走り、ガイへ斬りかかった。
『地獄剣・奈落転落落とし……!』
 不気味な声と共に剣が振り下ろされた!


 圧倒されながらも木刀で受け止めようとするガイ。
 その儚い抵抗を無慈悲に粉砕する一撃が叩きつけられ、木刀は……


……がっきと食い止め、微動だにしなかった。
『え? 全く効かん?』
 驚くマスターアーマー。
 それどころかその剣に亀裂が走った。
『え? こっちの剣が砕ける?』
 驚くマスターアーマー。
 一瞬後、本当に剣がガラスのように砕け散った。


(あー……属性・Livingだから不死系の技や敵に強いのか?)
 正直ガイも戸惑っていたが、木刀――聖剣を見下ろし、なんとかそれっぽい理由を思いつく。
 マスターアーマーは大慌てで後ろへ跳び退いた。

 それ見たスティーナが叫ぶ。
「今です師匠! 何か必殺技を!」
「え? 俺は専業戦士じゃないし、剣技とか何も……」
 ガイは困るがスティーナはそれでもけしかける。
工兵エンジニアは軽戦士の技能もいくらか含んでいるんだから、レベルが上がれば一つぐらいは習得できる筈です!」
「言われてもな……」
 やっぱりガイは困る。が……

(でもまぁ、武器でも戦えれば珠紋石じゅもんせきの節約はできそうだ)
 そこに考えが至り、駄目元で試してみる事にした。

 聖剣を体の正面で中段に構える。一番基本的な、捻りも何もない構えだ。
 一瞬で全身に力を籠め、そして打ちかかる!
「はっ!」
 気合の声を自然に吐いた。
 狙うは敵の本体であろう兜。聖剣が走る!
「真っ向! 一文字斬り!」
 多数の流派で教える基本剣術の一つ、横一文字。
 幾多の戦いを経たガイの腕により、刀身は速く鋭く閃いた。

 得物を失くしていたマスターアーマーにそれを防ぐ術は無かった。
 一撃を食らい、兜が粉々に砕ける!
『ウギャアァ!』
 断末魔をあげて兜は塵となった。
 その下から白目を剥いたタリンの顔が出てきたが……無言で後ろに倒れる。
 痙攣を繰り返し、そのまま気を失った。


「え? 一発!?」
 本当に何一ついい所なくただ倒された怨霊を見ていたマスターキメラが呆然と呟く。
 多分ちょっとぐらいは戦果を期待していたのだろう。
 頭を抱えて困り、やがてガイに訊いてくる。
「もしやその武器、聖か光の属性でもあるのか……?」
「まぁそんな所だ」
 曖昧にだがガイは肯定してやった。
 自分の手の内を教えてやる義理など全く無いのだが、マスターキメラが少々哀れに過ぎると感じてしまったのだ。
 タリンを見捨てず使う奴の自業自得だ、と考えなくもなかったが……今回の敵にメチャクチャよく効く武器をガイがたまたま入手していたのは彼女の責任ではあるまい。

 だがガイの同情など知るよしも無いマスターキメラはぶんぶんと頭をふると、表情を一変させて引き締め、胸を張ってガイを指さす。
「いいだろう。ならば今日こそ私が相手だ」
「えっ!?」
 ガイは驚いた。正直たまげた。
 てっきり意気消沈して逃げ帰ると思っていたからだ。

 だがマスターキメラは大きく息を吸う。そして――

「変身!」

 かけ声と共にその身を変貌させた。
 女の体が膨れ、衣服が破れる。だが露わになったのは裸体ではない。緑色に輝く爬虫類の鱗と獣毛の皮だ。蛇鱗の鎧を纏ったがごとき獣人の体である。
 顔は人のままではあった。だがその頭には山羊のような捻じれた角が生えている。

 初めて会った日以来の、キマイラ獣人の戦闘形態バトルフォーム――!
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