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1章
9 来訪者達 1
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その日、ガイは先日入手した木刀を鑑定していた。
ガイの知識ではさっぱりわからないので、鑑定アイテムの片メガネに頼る。メガネに表示される能力は――
【聖剣】攻撃力128 属性:生
「聖剣!?」
思わず声をあげるガイ。
何に驚いているのかわからず、イムは首を傾げる。
経緯を聞いていたミオンは、戸惑いながらも彼女なりに考えた。
「まぁ聖なる剣を木材で作ってはいけないという決まりはないわね。神話には、世界樹の枝から作った槍を愛用していた神もいるわ。イムが見つけた木も神聖な霊木なのかも‥‥それにしても大雑把な武器名ね」
ガイ達が木刀を前にあれこれ考えていると、突然、家の戸が慌ただしく開けられた。
村長のコエトールが太った体に汗を浮かべて駆け込んで来たのだ。
「ガイ殿! 大変です、領主が‥‥領主が来ました!」
「え? 突然だな。何しに来たんだ?」
戸惑うガイに、村長は焦りながら伝える。
「戦に敗れてボロクズのように逃げてきました!」
「な、なんだってー!?」
一瞬驚いたものの、ガイはすぐに納得した。
(この村が何度襲われてもちっとも兵士が来ないわけだ)
――村の寺院――
逃亡用の移動寝台――ザトウムシのような足が生えて自立歩行できるベッド――に寝転がったまま、長い髭を生やした初老の男が尼僧のディアに手当を受けていた。
老人‥‥カーチナガ子爵は泣きべそをかきながら呻く。
「負けとらんぞ、ワシはまだ負けとらんぞ‥‥戦線を後方に下げただけじゃ」
子爵の言い分によると、カーチナガ領の都を魔王軍に攻められ、奮闘の末に都市に入られ、郊外に陣をしいて奮闘したがそれも破られ、周囲の山でゲリラ戦にもちこみ抗戦したがそれも破られ、今は山向こうのこの村に立て籠もって抗戦する番なのだという。
「それを負けたというんじゃ! 泣け、喚け、土下座しろ、このヘボ領主め! 今年から年貢は一公九民じゃあ!」
弱った領主へ実に嬉しそうに好き放題叫ぶ農夫のタゴサック。
だが転落した支配者はムシケラにも劣る、と考える者もケイト帝国には珍しくない。竹槍を手に落ち武者狩りをこの領主にかまさないだけ、この農夫はまだ良心的な方なのだ。
――数時間後――
村人達が去ってから、ガイは改めて子爵を訪ねた‥‥ミオンを連れて。
寺院の一室をあてがわれた子爵は、二人の訪問客に「何かな?」と訊ねる。意気消沈してはいるものの、混乱からは立ち直っているように見えた。
「領主さん。聞きたい事があるんだ。この人、知らないか?」
ガイは隣に立つミオンを指さす。
今まで、難民や敗残兵からはミオンの身元について有力な情報は得られなかった。そこで貴族筋からならどうかと、期待してここへ来てみたのだが‥‥
「いや、全然」
子爵はあっさりと否定した。
「そ、そうか。じゃあミオンて名前に聞き覚えは?」
腰砕けになりそうだったが、一応、ガイは食い下がる。
すると子爵は考え込んだ。
「ふむ。親戚の娘に同じ名があったな。確か‥‥宮女となるため都に上った子だった筈」
「本当ですか!?」
驚くガイ。その隣でミオンも息を飲む。
ミオンとともに流されていた荷物の中にあった衣類は、地球でいう中華風の物だ。これはケイト帝国の首都やその付近で特に好まれる意匠である。
子爵の言う通りなら、ミオンの身元として有力な候補になる筈だ。
子爵は腕組みして思い出しながら話した。
「ああ。ワシはその子と会った事は無いが‥‥夫を亡くし、再婚する気にはなれず、何か仕事をしたいという事で、皇帝一族のお世話をするため都に行ったと聞いた」
ガイは脳に最大級の衝撃を受けていた。
(お、お、夫!? き、既婚者だったのか!? いや、そんな、でも‥‥貴族の子女なら、結婚していてもおかしな歳じゃない、よな‥‥)
記憶を失っているので正確な歳はわからないが、ミオンはガイより年上に、二十前後に見える。
激しく動揺しながら、ガイはミオンを横目で見た。
するとミオンも口に手を当てて驚きに目を見開き、ちらちらとガイの方を覗っていた。
二人の視線がぶつかる。
どちらも慌てて目を逸らした。
なぜなのか、本人達にもわからないが。
子爵は思い出しながらの話を続ける。
「両親はセイカ領の領主夫妻で、娘が一人いた筈じゃ。しかしなぁ‥‥この戦火で今はどうなっている事やら‥‥」
ついさっき最大級だと思っていたが、再び同等の衝撃を脳髄に食らうガイ。
(む、む、娘!? 子供まで‥‥?)
激しく動揺しながら、ガイはミオンを横目で見た。
するとミオンも口に手を当てて驚きに目を見開き、ちらちらとガイの方を覗っていた。
二人の視線がぶつかる。
どちらも慌てて目を逸らした。
なぜなのか、本人達にもわからないが。
ガイの知識ではさっぱりわからないので、鑑定アイテムの片メガネに頼る。メガネに表示される能力は――
【聖剣】攻撃力128 属性:生
「聖剣!?」
思わず声をあげるガイ。
何に驚いているのかわからず、イムは首を傾げる。
経緯を聞いていたミオンは、戸惑いながらも彼女なりに考えた。
「まぁ聖なる剣を木材で作ってはいけないという決まりはないわね。神話には、世界樹の枝から作った槍を愛用していた神もいるわ。イムが見つけた木も神聖な霊木なのかも‥‥それにしても大雑把な武器名ね」
ガイ達が木刀を前にあれこれ考えていると、突然、家の戸が慌ただしく開けられた。
村長のコエトールが太った体に汗を浮かべて駆け込んで来たのだ。
「ガイ殿! 大変です、領主が‥‥領主が来ました!」
「え? 突然だな。何しに来たんだ?」
戸惑うガイに、村長は焦りながら伝える。
「戦に敗れてボロクズのように逃げてきました!」
「な、なんだってー!?」
一瞬驚いたものの、ガイはすぐに納得した。
(この村が何度襲われてもちっとも兵士が来ないわけだ)
――村の寺院――
逃亡用の移動寝台――ザトウムシのような足が生えて自立歩行できるベッド――に寝転がったまま、長い髭を生やした初老の男が尼僧のディアに手当を受けていた。
老人‥‥カーチナガ子爵は泣きべそをかきながら呻く。
「負けとらんぞ、ワシはまだ負けとらんぞ‥‥戦線を後方に下げただけじゃ」
子爵の言い分によると、カーチナガ領の都を魔王軍に攻められ、奮闘の末に都市に入られ、郊外に陣をしいて奮闘したがそれも破られ、周囲の山でゲリラ戦にもちこみ抗戦したがそれも破られ、今は山向こうのこの村に立て籠もって抗戦する番なのだという。
「それを負けたというんじゃ! 泣け、喚け、土下座しろ、このヘボ領主め! 今年から年貢は一公九民じゃあ!」
弱った領主へ実に嬉しそうに好き放題叫ぶ農夫のタゴサック。
だが転落した支配者はムシケラにも劣る、と考える者もケイト帝国には珍しくない。竹槍を手に落ち武者狩りをこの領主にかまさないだけ、この農夫はまだ良心的な方なのだ。
――数時間後――
村人達が去ってから、ガイは改めて子爵を訪ねた‥‥ミオンを連れて。
寺院の一室をあてがわれた子爵は、二人の訪問客に「何かな?」と訊ねる。意気消沈してはいるものの、混乱からは立ち直っているように見えた。
「領主さん。聞きたい事があるんだ。この人、知らないか?」
ガイは隣に立つミオンを指さす。
今まで、難民や敗残兵からはミオンの身元について有力な情報は得られなかった。そこで貴族筋からならどうかと、期待してここへ来てみたのだが‥‥
「いや、全然」
子爵はあっさりと否定した。
「そ、そうか。じゃあミオンて名前に聞き覚えは?」
腰砕けになりそうだったが、一応、ガイは食い下がる。
すると子爵は考え込んだ。
「ふむ。親戚の娘に同じ名があったな。確か‥‥宮女となるため都に上った子だった筈」
「本当ですか!?」
驚くガイ。その隣でミオンも息を飲む。
ミオンとともに流されていた荷物の中にあった衣類は、地球でいう中華風の物だ。これはケイト帝国の首都やその付近で特に好まれる意匠である。
子爵の言う通りなら、ミオンの身元として有力な候補になる筈だ。
子爵は腕組みして思い出しながら話した。
「ああ。ワシはその子と会った事は無いが‥‥夫を亡くし、再婚する気にはなれず、何か仕事をしたいという事で、皇帝一族のお世話をするため都に行ったと聞いた」
ガイは脳に最大級の衝撃を受けていた。
(お、お、夫!? き、既婚者だったのか!? いや、そんな、でも‥‥貴族の子女なら、結婚していてもおかしな歳じゃない、よな‥‥)
記憶を失っているので正確な歳はわからないが、ミオンはガイより年上に、二十前後に見える。
激しく動揺しながら、ガイはミオンを横目で見た。
するとミオンも口に手を当てて驚きに目を見開き、ちらちらとガイの方を覗っていた。
二人の視線がぶつかる。
どちらも慌てて目を逸らした。
なぜなのか、本人達にもわからないが。
子爵は思い出しながらの話を続ける。
「両親はセイカ領の領主夫妻で、娘が一人いた筈じゃ。しかしなぁ‥‥この戦火で今はどうなっている事やら‥‥」
ついさっき最大級だと思っていたが、再び同等の衝撃を脳髄に食らうガイ。
(む、む、娘!? 子供まで‥‥?)
激しく動揺しながら、ガイはミオンを横目で見た。
するとミオンも口に手を当てて驚きに目を見開き、ちらちらとガイの方を覗っていた。
二人の視線がぶつかる。
どちらも慌てて目を逸らした。
なぜなのか、本人達にもわからないが。
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