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1章
8 山中の死闘 5
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魔王軍から与えられた鎧を装備したタリンが両手剣をふるう。ガイはそれを跳び退いて避けた。
しかし……剣筋はかろうじて反応できる速さ、風圧から感じる威力は力強く重い。ぎりぎりで避けたものの、ガイの着ていた革鎧は肩の部分が斬り飛ばされていた。
「クッ!」
ガイの額に嫌な汗が流れる。相手から感じる異界流の強さは、今の自分と遜色無い。
タリンは剣を構え直して笑った。
「へへ、よく避けたな。だがこれでオレの強さはわかっただろう!」
それを後ろで見ながら首を傾げるのは、元同じパーティの女魔術師ララだ。
「どうやってあんな鎧を造ったの……? あんな物ができるなら異界人を召喚する必要なんて無くなるわ」
異界流は全ての能力を底上げする内的パワーだが、この世界の現地人が高く持つ事は基本的に不可能だ。
だからこそ異界人の召喚魔術が発達してきたのである。
笑って勝ち誇るタリン。
「ハハッ! この鎧には聖勇士の脳味噌が使ってあるのさ!」
『バリア持ち機体に乗っていたから今度はお前が防具をやれ、とかちょっと酷い言い分よな』
その声は確かに鎧が発した。
仰天するガイ。
「えっその鎧、生きてんの!?」
『生きていると言えるかどうか。でもワシを装備した奴はワシ生前の異界流が能力に補正される』
「つまりさっき計測した異界流は、装備者じゃなくてその鎧の……」
鎧の言い分を聞いてスティーナは合点がいった。タリンを見る目は見下したような物になるが。
それがタリンには不満のようだ。
「いいだろ別に。能力補正かかる装備なんかいくらでもあるし、みんな喜んで装備してるじゃねーか。オレだけ反則扱いなんて聞けねーぞ」
そして剣を大上段に構える。
「元々攻撃型の戦士だったオレは魔剣ならぬ魔鎧を得て攻守ともに最強となった! 食らえやガイ! オレの新必殺技を!」
タリン……ではなく鎧から異界流が揺らめく燐光となって立ち昇り、大剣に纏わりつく。
「必殺剣! アサルトタイガー!」
『なおパワーの大半はワシ』
タリンが叫び、鎧が注釈するや、剣が先刻以上の速さで見舞われた。燐光が虎のごとき形をとって!
「クッ!」
ガイは身を捻って避けようとするが――
燐光が爆発し大地が裂けた!
もうもうと煙が舞い上がる。
地面には深い裂け目が幾筋も刻まれていた。
「なっ!?」
タリンは驚愕する。
「ギリギリだったぜ」
ガイは呻いた。
タリンの必殺剣は、その威力で大地を穿ち、ガイの革鎧の表面を引き裂いていたものの……木刀で受け止められていたのだ。
イムの案内により、不思議な木から得た木刀で。
「なんでそんなもんで!?」
タリンが驚いたのは、木刀ごときで止められた事と、木刀を持ち歩いている冒険者なんぞ見た事ないという二つの意味だ。
どちらにせよその隙を見逃すガイではなかった。
後ろに飛び退きながら腰の鞄から珠紋石を取り出す。
その電撃属性・大気領域の結晶を頭上に投げると、それは強力な稲妻でタリンを撃った!
【サンダー・ボルト】第5レベルの攻撃呪文。大気中より集まった雷電を敵に落とす。
「師匠、あれは?」
スティーナの問いにガイは答える。
「なんか昔、強い魔法鎧を装備した戦士を『でも金属鎧ではあるし』という理屈で電撃魔法叩き込んで追い詰める展開を見た事があってさ」
撃たれたタリンは剣にもたれるように立ってはいたが、その全身から煙をあげていた。
しかし――ニヤリと笑ってみせる。
「ちょっとは効いたぜ。ちょっとは、な。だが【毘沙門鎧】の魔法抵抗力のおかげで大した事はねーぞ」
そう言った途端、鎧が『うおぉ……』と呻きをあげた。そしてボロボロと崩れ落ちる。
「?」
タリンが首を傾げた。
「?」
ガイも首を傾げた。
「「「「?」」」」
マスターキメラも元パーティメンバーも魔王軍の雑兵も村長達も首を傾げた。
ハッと気が付くスティーナ。
「あ……鎧がアースになって、内臓されている聖勇士の脳に電撃が集中しちゃったのでは? それで脳が焼かれて今度こそ『死んでしまった』と……」
シロウの髑髏が歯をガチガチ鳴らして笑った。
「ど……どうしよう?」
困り果ててマスターキメラに訊くタリン。
「こっちに訊くな! 最後までお前が……」
と、そこまで言ってマスターキメラは考え直した。
(今のこいつはただのボンクラ戦士じゃないか……)
しかし負傷しているガイを見て、チャンスではあると気が付く。そこで後ろにいる雑兵どもに叫んだ。
「今だ! ものどもかかれ!」
「なんか汚い……」
「まぁ魔王軍だし」
顔を顰めるスティーナに、ララが淡々と応える。
だがしかし。
雑兵どもが雄叫びをあげて武器を振り上げた、その時。
魔王軍の背後からいくつもの叫び声が上がったではないか。
「あそこじゃ!」
「おお! 余所者が入り込んでおる!」
「生かして帰すな! 殺れえ!」
それはカサカ村の農民達だった。
どの農夫も手に手に鋭い農具を持ち、目は充血して殺気立っている。
隠し田畑は農民達の命綱である。
それは食べていくために必要という意味でもあるし、見つかれば死罪で磔になるという意味でもある。
よって余所者が隠し田畑に近づいた時、農民達は狂戦士化現象を起こし、余所者を全滅させるまで破壊の暴徒と化すのだ。
血の雨が降った! 殺戮の渦の中のこの世の地獄に!
断末魔をあげて次々と頭をかち割られる魔王軍の雑兵ども。儚い抵抗を試みはするが、獣と化した農夫の鍬で喉を貫かれ絶命するのみ。
そこへ骸骨兵達も飛び入り参戦した。農民の増援として。もちろん、スティーナが【骸骨の杖】で召喚した不死の兵である。
魔王軍雑兵が無残な屍となって全滅するまで、ほんの数分であった。
勝利の雄叫びをあげた後、農民は敵から戦利品を剥ぎ取り、躯をどこかへ運んでいく。
隠し田畑に近づいた者の痕跡をこの世に残してはならないのだ。
「勝ちましたね」
「あ、うん……そうなのかな」
スティーナにかろうじて答えるガイ。
タリンとマスターキメラの屍が無い事に気づき、彼らが逃げた事を察したが、まぁ今さらどうしようもないのだ。
しかし……剣筋はかろうじて反応できる速さ、風圧から感じる威力は力強く重い。ぎりぎりで避けたものの、ガイの着ていた革鎧は肩の部分が斬り飛ばされていた。
「クッ!」
ガイの額に嫌な汗が流れる。相手から感じる異界流の強さは、今の自分と遜色無い。
タリンは剣を構え直して笑った。
「へへ、よく避けたな。だがこれでオレの強さはわかっただろう!」
それを後ろで見ながら首を傾げるのは、元同じパーティの女魔術師ララだ。
「どうやってあんな鎧を造ったの……? あんな物ができるなら異界人を召喚する必要なんて無くなるわ」
異界流は全ての能力を底上げする内的パワーだが、この世界の現地人が高く持つ事は基本的に不可能だ。
だからこそ異界人の召喚魔術が発達してきたのである。
笑って勝ち誇るタリン。
「ハハッ! この鎧には聖勇士の脳味噌が使ってあるのさ!」
『バリア持ち機体に乗っていたから今度はお前が防具をやれ、とかちょっと酷い言い分よな』
その声は確かに鎧が発した。
仰天するガイ。
「えっその鎧、生きてんの!?」
『生きていると言えるかどうか。でもワシを装備した奴はワシ生前の異界流が能力に補正される』
「つまりさっき計測した異界流は、装備者じゃなくてその鎧の……」
鎧の言い分を聞いてスティーナは合点がいった。タリンを見る目は見下したような物になるが。
それがタリンには不満のようだ。
「いいだろ別に。能力補正かかる装備なんかいくらでもあるし、みんな喜んで装備してるじゃねーか。オレだけ反則扱いなんて聞けねーぞ」
そして剣を大上段に構える。
「元々攻撃型の戦士だったオレは魔剣ならぬ魔鎧を得て攻守ともに最強となった! 食らえやガイ! オレの新必殺技を!」
タリン……ではなく鎧から異界流が揺らめく燐光となって立ち昇り、大剣に纏わりつく。
「必殺剣! アサルトタイガー!」
『なおパワーの大半はワシ』
タリンが叫び、鎧が注釈するや、剣が先刻以上の速さで見舞われた。燐光が虎のごとき形をとって!
「クッ!」
ガイは身を捻って避けようとするが――
燐光が爆発し大地が裂けた!
もうもうと煙が舞い上がる。
地面には深い裂け目が幾筋も刻まれていた。
「なっ!?」
タリンは驚愕する。
「ギリギリだったぜ」
ガイは呻いた。
タリンの必殺剣は、その威力で大地を穿ち、ガイの革鎧の表面を引き裂いていたものの……木刀で受け止められていたのだ。
イムの案内により、不思議な木から得た木刀で。
「なんでそんなもんで!?」
タリンが驚いたのは、木刀ごときで止められた事と、木刀を持ち歩いている冒険者なんぞ見た事ないという二つの意味だ。
どちらにせよその隙を見逃すガイではなかった。
後ろに飛び退きながら腰の鞄から珠紋石を取り出す。
その電撃属性・大気領域の結晶を頭上に投げると、それは強力な稲妻でタリンを撃った!
【サンダー・ボルト】第5レベルの攻撃呪文。大気中より集まった雷電を敵に落とす。
「師匠、あれは?」
スティーナの問いにガイは答える。
「なんか昔、強い魔法鎧を装備した戦士を『でも金属鎧ではあるし』という理屈で電撃魔法叩き込んで追い詰める展開を見た事があってさ」
撃たれたタリンは剣にもたれるように立ってはいたが、その全身から煙をあげていた。
しかし――ニヤリと笑ってみせる。
「ちょっとは効いたぜ。ちょっとは、な。だが【毘沙門鎧】の魔法抵抗力のおかげで大した事はねーぞ」
そう言った途端、鎧が『うおぉ……』と呻きをあげた。そしてボロボロと崩れ落ちる。
「?」
タリンが首を傾げた。
「?」
ガイも首を傾げた。
「「「「?」」」」
マスターキメラも元パーティメンバーも魔王軍の雑兵も村長達も首を傾げた。
ハッと気が付くスティーナ。
「あ……鎧がアースになって、内臓されている聖勇士の脳に電撃が集中しちゃったのでは? それで脳が焼かれて今度こそ『死んでしまった』と……」
シロウの髑髏が歯をガチガチ鳴らして笑った。
「ど……どうしよう?」
困り果ててマスターキメラに訊くタリン。
「こっちに訊くな! 最後までお前が……」
と、そこまで言ってマスターキメラは考え直した。
(今のこいつはただのボンクラ戦士じゃないか……)
しかし負傷しているガイを見て、チャンスではあると気が付く。そこで後ろにいる雑兵どもに叫んだ。
「今だ! ものどもかかれ!」
「なんか汚い……」
「まぁ魔王軍だし」
顔を顰めるスティーナに、ララが淡々と応える。
だがしかし。
雑兵どもが雄叫びをあげて武器を振り上げた、その時。
魔王軍の背後からいくつもの叫び声が上がったではないか。
「あそこじゃ!」
「おお! 余所者が入り込んでおる!」
「生かして帰すな! 殺れえ!」
それはカサカ村の農民達だった。
どの農夫も手に手に鋭い農具を持ち、目は充血して殺気立っている。
隠し田畑は農民達の命綱である。
それは食べていくために必要という意味でもあるし、見つかれば死罪で磔になるという意味でもある。
よって余所者が隠し田畑に近づいた時、農民達は狂戦士化現象を起こし、余所者を全滅させるまで破壊の暴徒と化すのだ。
血の雨が降った! 殺戮の渦の中のこの世の地獄に!
断末魔をあげて次々と頭をかち割られる魔王軍の雑兵ども。儚い抵抗を試みはするが、獣と化した農夫の鍬で喉を貫かれ絶命するのみ。
そこへ骸骨兵達も飛び入り参戦した。農民の増援として。もちろん、スティーナが【骸骨の杖】で召喚した不死の兵である。
魔王軍雑兵が無残な屍となって全滅するまで、ほんの数分であった。
勝利の雄叫びをあげた後、農民は敵から戦利品を剥ぎ取り、躯をどこかへ運んでいく。
隠し田畑に近づいた者の痕跡をこの世に残してはならないのだ。
「勝ちましたね」
「あ、うん……そうなのかな」
スティーナにかろうじて答えるガイ。
タリンとマスターキメラの屍が無い事に気づき、彼らが逃げた事を察したが、まぁ今さらどうしようもないのだ。
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