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1章

7 冥界の刺客 3

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 敵が召喚した骸骨聖騎士スカルパラディン……それはかつてガイがパーティから追い出される原因となった、異界から召喚された男・シロウの変わり果てた姿だった。

 その後ろで魔王軍・魔怪大隊の親衛隊マスターボーンがほくそ笑む。
「そいつはこの私が死霊魔術ネクロマンシーの秘術で造り出した、スケルトン種でもかなりの上位にあたる骸骨将軍スカルジェネラルでね。ほとんどの属性耐性が高く、さっきの【フェイアーボール】程度では涼風のようなもの。それに……」

 骸骨将軍スカルジェネラルとなったシロウがガチガチと歯を鳴らした。
 すると床に黒い渦がいくつも現れ、そこから剣を手にしたスケルトンが続々と現れる!

「本体の剣技と魔力もさる事ながら、下位のスケルトン種を次々と召喚する能力もある。さあ、どう対処するのか見せてもらおうか」
 勝ち誇るマスターボーン。
 一方、骸骨将軍スカルジェネラルシロウの髑髏が地の底から響くような声で呻きを漏らす。
『ア、アア……苦シイ……』

「自我が残っているのか!?」
 驚愕するガイ。
 マスターボーンはにやにやと陰湿な笑みを浮かべた。
「命令を理解し柔軟に遂行させるため、知能は残してあるのだ。強制的に私の支配下に置かれてはいるがな」
 他人の苦痛を、苦悶を、明らかに楽しんでいる……。


 死者を冒涜する邪悪な魔術師をガイは鋭い目で睨んだ。
 そして腰の鞄から取り出すのは――白く輝く珠紋石じゅもんせき

「ほう? あれだけ言われてまだ呪文に頼るか」
 嘲るマスターボーン。
 しかし彼の戸惑いを他所に、感情の無い骸骨共が剣を振り上げてガイに迫る。それらをけしかけながら、骸骨将軍スカルジェネラルシロウも両手剣を振り上げて攻め込んできた。

 不死のアンデッド兵達を前に、ガイは珠紋石じゅもんせきを投げる。
「怨霊撃滅!」

 白い光がほとばしった!
 その光は部屋の中を埋め尽くす。そして骸骨共は衝撃を受け、砕け、塵となって消えていく。
 だが光に巻き込まれながら、ガイ本人も、壁際で震える村長も、敵であるマスターボーンも傷一つ負わなかった。
 光は不死者アンデッドだけを滅ぼし、生者には何の影響も与えないのだ。

「なにィ!?」
 驚愕するマスターボーン。その眼前でスケルトンは全滅した。
 骸骨将軍スカルジェネラルシロウも砕け散り、床にゴロリと髑髏だけが転がる。それはもう何も喋ろうとしなかった。
「ほとんどの属性に耐性があるといっても不死者アンデッドだ。聖属性は別だろ」
 落ち着いて告げるガイの手の中で、数珠は砕けて消えていった。


【マイティエクソシスム】聖領域第5レベルの呪文。聖なる光が不浄な敵を粉砕する。不死者アンデッド悪魔デーモンなど一部の種にしか効果が無いが、そのぶん攻撃力はさらに上位レベルの呪文にもひけをとらない。


「聖属性の魔法発動アイテムだと!? 神官系の職業クラスならともかく、お前が!?」
 今度はマスターボーンが驚愕する番だった。
 一方、ガイは怒りの目を向けながらも当然のように言う。
「適した素材があればできるさ」


 ガイが村近くの山中で見つけたジャバラ。それはこの植物が一部の疾患に薬効を発揮する事から、病魔を退ける……「邪」を「祓う」として付けられた名称である。
 それ故に他の素材との組み合わせ次第で、一部の状態異常治療や特定種モンスターへの特効型アイテムを作成する事ができるのだ。
 ガイが作った珠紋石じゅもんせきも、ジャバラの果汁に数種の素材(大蒜にんにくひいらぎいわしの頭等)を混ぜた煮汁を固めて造った物なのだ。

 工兵エンジニアのアイテム作成は、素材の組み合わせで呪文と同じ効果を発動させている。自分が習得した魔法を籠めているわけではない。
 つまり適した素材さえあれば、この世界に存在するあらゆる呪文を行使する事ができるという事になる……!


 前進するガイ。後退するマスターボーン。
 しかし追い詰められながらも、マスターボーンは再び笑い出した。
「フ……ハハハ! まさか勝ったつもりではあるまい!」
「なんだと?」
 疑いの目をガイは向ける。
 しかし直後、大きな振動が道具屋の床を揺るがした!

 ガイも村長もマスターボーンも窓から外を見る。
 そこには鈍い銀色に輝く鎧を纏ったケイオス・ウォリアーが村の中へ踏み込んでくる光景が見えていた!

「魔王軍の親衛隊は全員が白銀級機シルバークラスの操縦者なのだ! なまじ抵抗した事を後悔するがいい!」
 そう言ってマスターボーンは身を翻し、道具屋から駆け出して行く。
 ガイは村長へと振り返った。
「奴の相手をしてくる。村長はここを片付けておいてくれ」
 そして返事も待たずに外へと走って出て行った。
 向かう先は当然村の工場……己もケイオス・ウォリアーで対抗するためだ。

「えー……」
 困った顔で部屋の中を見渡す村長・コエトール。
 あちこちに肉片や骨片が散乱し、酷い有様としか言いようがない。
 途方にくれる村長を見て、シロウの髑髏ががちがちと歯を鳴らして笑った。
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