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1章
7 冥界の刺客 1
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大帝国を崩壊させた大規模な侵攻……それ自体が終わっても混乱と戦いはまだまだ収まらない。
大河の辺にある田舎のカサカ村でも、今日もまた難題が持ち上がっていた。
――早朝・開店前の道具屋裏手――
「ガイ殿。元難民と敗残兵ですが、少々困っておりましてな」
「そうなのか」
腕組みしながら難しい顔をする村長コエトールに、ガイは素っ気なく応えた。
店番の中年農夫タゴサックに昨日造った品物を納品しながら。
「ええ。住居の問題です。ここは田舎村ですでな、一度に人口が増える事など想定しておらんのです。今は寺院と村の集会場とその裏のテント群に押し込んでおりますが、プライバシーがなんやかんやと連日訴えられておりましてな……」
「そうなのか。じゃあまた明日」
腕組みしながら難しい顔をする村長に、ガイは素っ気なく応えた。
納品が終わったので愛想なく背を向けて。
「ガイ殿!?」
大慌ての村長に、ガイは初めて顔を向けて大声を出す。
「だって俺もいっぱいいっぱいだし!」
「なぜです!? アイテム作成については前回話をつけましたぞ?」
「ギャラはな! 納期と納品の問題は未解決だしよ!」
何個あたりいくらで買いとる、という話は確かに済んだ。
だが各地で魔王軍が暴れている現状、珠紋石とポーションを売り続けるため、ガイは今でも毎日夜遅くまで内職して製造し続けているのである。
「ガイ殿しかアイテム作成ができない事がこうも問題になるとは……」
呟いたのは品物を店に運び込んでいる最中のタゴサックだ。
村長は太った体をぺこぺこと何度も折り曲げてガイへ必死に頼み込む。
「しかしそこをなんとか」
「どうしろってんだ……誰かに作成スキルを教えろとでもいうのかよ」
溜息をつくガイ。
タゴサックが呟いた。
「かなりマジでその通りでは?」
「……そうだな」
自分で出した案に呆然と呟くガイ。
「……確かに」
呆然と呟く村長。だが再び腕を組む。
「しかし村人にはそんなスキルを習得できる者はいませんな。一体どうやって探せばいいのやら」
「張り紙でもするか……」
かなり苦し紛れに思いつきを口にするガイ。放浪者の増えている今なら、該当者がこの村を通りかかる事もあるかもしれない。
村長がハッと顔を上げた。
「流石ガイ殿! 流石ガイ殿!」
「そこ本当に流石なのか?」
納得のいかないガイ。
まぁでもダメモトで張り紙はしようと言う事になった。
――数日後の夕方。ガイの家――
今日もガイはテーブルに道具と材料を広げて延々と商品の製造に取り組んでいた。【ファイアウェポン】の珠紋石を明日までに30個造らないといけないのだ。
そんなガイに、鍋を火にかけたミオンが一息つくついでに話しかけて来た。
「まだ応募者はいないのね。誰でも習得できる技能じゃないから仕方ないけど」
特殊な技能は対応する職業でなければ習得できない。これは地球でもこのインタセクシルでも似たような物だ。
魔法の効果を発動するアイテムを農夫や漁師に身に付けろといっても大概はできない。
ガイが就いている工兵は元々軍隊の製造部門担当職だから可能な事であり、他にアイテム製造系の技能を習得できるのは、ほとんどは魔術師や司祭などの魔法関係職ばかりだ。
「どこかの町から焼け出された工房の職員でも通りかからないかと、ちょっと期待してるんだけどな……」
溜息をつくガイ。
道具屋の壁に貼られた道具製造工員の募集は、虚しくも無反応のままだった。
今日は火属性の珠紋石を99個買っていった冒険者パーティがいたので在庫も一気に減っており、それも合わせてガイの心労はなかなかに深刻だ。
そんなガイにミオンが微笑みかける。
「元気だして。今夜はガイの好きな物な牛鍋だから」
「はは、サンキュ」
疲れた顔ながらガイも笑い返した。
自分を労わってくれる者がいる事の安心感と心地よさが胸に沁みてくる――若くして飛び込んだ冒険者生活の日々では無かった事だ。
なんだかんだでこの偽装結婚生活に楽しさと安らぎを覚えている事を、ガイ自身が自覚しているのかどうか。
そんなガイにミオンが微笑みかける。
「口移しとあーんするのとどっちがいい?」
「何その二択!」
疲れもどこへやら、ガイは目を剥いた。
だが軽やかにイムが飛んできて、テーブルに着地するや口をあける。
「あーん」
「あら、決まっちゃったわ」
くすくす笑いながらミオンは手元にあったリンゴの皮を剥きだした。
切り身にする前に小皿を二つ用意する……妖精と夫(設定)のぶんを。
「はい、あーん」
「俺は自分で食えるって」
爪楊枝に刺したリンゴの切り身を差し出すミオンにガイは仰け反って拒否。
イムは先に同じ事をされており、喜んでリンゴに齧りついていた。
照れくささにむすっとしながら、ミオンの手から爪楊枝ごと取ろうとして……
家の戸を村長が勢い良く開けた。
「なんだよ!?」
驚き半分・邪魔者を疎む半分で振り向くガイ。
家の中で乳繰り合っている夫婦|(設定)へ、空気など全く読まずに村長は叫んだ。
「ガイ殿! やっと希望者が来ましたぞ!」
「やったぜ!」
喜色満面、勢いよく立ち上がるガイ。
ミオンが「お邪魔虫……」と口を尖らせていたが、まぁ仕方がない事だ。
大河の辺にある田舎のカサカ村でも、今日もまた難題が持ち上がっていた。
――早朝・開店前の道具屋裏手――
「ガイ殿。元難民と敗残兵ですが、少々困っておりましてな」
「そうなのか」
腕組みしながら難しい顔をする村長コエトールに、ガイは素っ気なく応えた。
店番の中年農夫タゴサックに昨日造った品物を納品しながら。
「ええ。住居の問題です。ここは田舎村ですでな、一度に人口が増える事など想定しておらんのです。今は寺院と村の集会場とその裏のテント群に押し込んでおりますが、プライバシーがなんやかんやと連日訴えられておりましてな……」
「そうなのか。じゃあまた明日」
腕組みしながら難しい顔をする村長に、ガイは素っ気なく応えた。
納品が終わったので愛想なく背を向けて。
「ガイ殿!?」
大慌ての村長に、ガイは初めて顔を向けて大声を出す。
「だって俺もいっぱいいっぱいだし!」
「なぜです!? アイテム作成については前回話をつけましたぞ?」
「ギャラはな! 納期と納品の問題は未解決だしよ!」
何個あたりいくらで買いとる、という話は確かに済んだ。
だが各地で魔王軍が暴れている現状、珠紋石とポーションを売り続けるため、ガイは今でも毎日夜遅くまで内職して製造し続けているのである。
「ガイ殿しかアイテム作成ができない事がこうも問題になるとは……」
呟いたのは品物を店に運び込んでいる最中のタゴサックだ。
村長は太った体をぺこぺこと何度も折り曲げてガイへ必死に頼み込む。
「しかしそこをなんとか」
「どうしろってんだ……誰かに作成スキルを教えろとでもいうのかよ」
溜息をつくガイ。
タゴサックが呟いた。
「かなりマジでその通りでは?」
「……そうだな」
自分で出した案に呆然と呟くガイ。
「……確かに」
呆然と呟く村長。だが再び腕を組む。
「しかし村人にはそんなスキルを習得できる者はいませんな。一体どうやって探せばいいのやら」
「張り紙でもするか……」
かなり苦し紛れに思いつきを口にするガイ。放浪者の増えている今なら、該当者がこの村を通りかかる事もあるかもしれない。
村長がハッと顔を上げた。
「流石ガイ殿! 流石ガイ殿!」
「そこ本当に流石なのか?」
納得のいかないガイ。
まぁでもダメモトで張り紙はしようと言う事になった。
――数日後の夕方。ガイの家――
今日もガイはテーブルに道具と材料を広げて延々と商品の製造に取り組んでいた。【ファイアウェポン】の珠紋石を明日までに30個造らないといけないのだ。
そんなガイに、鍋を火にかけたミオンが一息つくついでに話しかけて来た。
「まだ応募者はいないのね。誰でも習得できる技能じゃないから仕方ないけど」
特殊な技能は対応する職業でなければ習得できない。これは地球でもこのインタセクシルでも似たような物だ。
魔法の効果を発動するアイテムを農夫や漁師に身に付けろといっても大概はできない。
ガイが就いている工兵は元々軍隊の製造部門担当職だから可能な事であり、他にアイテム製造系の技能を習得できるのは、ほとんどは魔術師や司祭などの魔法関係職ばかりだ。
「どこかの町から焼け出された工房の職員でも通りかからないかと、ちょっと期待してるんだけどな……」
溜息をつくガイ。
道具屋の壁に貼られた道具製造工員の募集は、虚しくも無反応のままだった。
今日は火属性の珠紋石を99個買っていった冒険者パーティがいたので在庫も一気に減っており、それも合わせてガイの心労はなかなかに深刻だ。
そんなガイにミオンが微笑みかける。
「元気だして。今夜はガイの好きな物な牛鍋だから」
「はは、サンキュ」
疲れた顔ながらガイも笑い返した。
自分を労わってくれる者がいる事の安心感と心地よさが胸に沁みてくる――若くして飛び込んだ冒険者生活の日々では無かった事だ。
なんだかんだでこの偽装結婚生活に楽しさと安らぎを覚えている事を、ガイ自身が自覚しているのかどうか。
そんなガイにミオンが微笑みかける。
「口移しとあーんするのとどっちがいい?」
「何その二択!」
疲れもどこへやら、ガイは目を剥いた。
だが軽やかにイムが飛んできて、テーブルに着地するや口をあける。
「あーん」
「あら、決まっちゃったわ」
くすくす笑いながらミオンは手元にあったリンゴの皮を剥きだした。
切り身にする前に小皿を二つ用意する……妖精と夫(設定)のぶんを。
「はい、あーん」
「俺は自分で食えるって」
爪楊枝に刺したリンゴの切り身を差し出すミオンにガイは仰け反って拒否。
イムは先に同じ事をされており、喜んでリンゴに齧りついていた。
照れくささにむすっとしながら、ミオンの手から爪楊枝ごと取ろうとして……
家の戸を村長が勢い良く開けた。
「なんだよ!?」
驚き半分・邪魔者を疎む半分で振り向くガイ。
家の中で乳繰り合っている夫婦|(設定)へ、空気など全く読まずに村長は叫んだ。
「ガイ殿! やっと希望者が来ましたぞ!」
「やったぜ!」
喜色満面、勢いよく立ち上がるガイ。
ミオンが「お邪魔虫……」と口を尖らせていたが、まぁ仕方がない事だ。
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