上 下
29 / 147
1章

7 冥界の刺客 1

しおりを挟む
 大帝国を崩壊させた大規模な侵攻……それ自体が終わっても混乱と戦いはまだまだ収まらない。
 大河の辺にある田舎のカサカ村でも、今日もまた難題が持ち上がっていた。


――早朝・開店前の道具屋裏手――


「ガイ殿。元難民と敗残兵ですが、少々困っておりましてな」
「そうなのか」
 腕組みしながら難しい顔をする村長コエトールに、ガイは素っ気なく応えた。
 店番の中年農夫タゴサックに昨日造った品物を納品しながら。

「ええ。住居の問題です。ここは田舎村ですでな、一度に人口が増える事など想定しておらんのです。今は寺院と村の集会場とその裏のテント群に押し込んでおりますが、プライバシーがなんやかんやと連日訴えられておりましてな……」
「そうなのか。じゃあまた明日」
 腕組みしながら難しい顔をする村長に、ガイは素っ気なく応えた。
 納品が終わったので愛想なく背を向けて。

「ガイ殿!?」
 大慌ての村長に、ガイは初めて顔を向けて大声を出す。
「だって俺もいっぱいいっぱいだし!」
「なぜです!? アイテム作成については前回話をつけましたぞ?」
「ギャラはな! 納期と納品の問題は未解決だしよ!」

 何個あたりいくらで買いとる、という話は確かに済んだ。
 だが各地で魔王軍が暴れている現状、珠紋石じゅもんせきとポーションを売り続けるため、ガイは今でも毎日夜遅くまで内職して製造し続けているのである。

「ガイ殿しかアイテム作成ができない事がこうも問題になるとは……」
 呟いたのは品物を店に運び込んでいる最中のタゴサックだ。
 村長は太った体をぺこぺこと何度も折り曲げてガイへ必死に頼み込む。
「しかしそこをなんとか」
「どうしろってんだ……誰かに作成スキルを教えろとでもいうのかよ」
 溜息をつくガイ。
 タゴサックが呟いた。
「かなりマジでその通りでは?」

「……そうだな」
 自分で出した案に呆然と呟くガイ。
「……確かに」
 呆然と呟く村長。だが再び腕を組む。
「しかし村人にはそんなスキルを習得できる者はいませんな。一体どうやって探せばいいのやら」

「張り紙でもするか……」
 かなり苦し紛れに思いつきを口にするガイ。放浪者の増えている今なら、該当者がこの村を通りかかる事もあるかもしれない。
 村長がハッと顔を上げた。
「流石ガイ殿! 流石ガイ殿!」
「そこ本当に流石なのか?」
 納得のいかないガイ。

 まぁでもダメモトで張り紙はしようと言う事になった。


――数日後の夕方。ガイの家――


 今日もガイはテーブルに道具と材料を広げて延々と商品の製造に取り組んでいた。【ファイアウェポン】の珠紋石じゅもんせきを明日までに30個造らないといけないのだ。
 そんなガイに、鍋を火にかけたミオンが一息つくついでに話しかけて来た。
「まだ応募者はいないのね。誰でも習得できる技能スキルじゃないから仕方ないけど」


 特殊な技能スキルは対応する職業クラスでなければ習得できない。これは地球でもこのインタセクシルでも似たような物だ。
 魔法の効果を発動するアイテムを農夫や漁師に身に付けろといっても大概はできない。
 ガイが就いている工兵エンジニアは元々軍隊の製造部門担当職だから可能な事であり、他にアイテム製造系の技能スキルを習得できるのは、ほとんどは魔術師や司祭などの魔法関係職ばかりだ。


「どこかの町から焼け出された工房の職員でも通りかからないかと、ちょっと期待してるんだけどな……」
 溜息をつくガイ。

 道具屋の壁に貼られた道具製造工員の募集は、虚しくも無反応のままだった。
 今日は火属性の珠紋石じゅもんせきを99個買っていった冒険者パーティがいたので在庫も一気に減っており、それも合わせてガイの心労はなかなかに深刻だ。

 そんなガイにミオンが微笑みかける。
「元気だして。今夜はガイの好きな物な牛鍋だから」
「はは、サンキュ」
 疲れた顔ながらガイも笑い返した。

 自分を労わってくれる者がいる事の安心感と心地よさが胸に沁みてくる――若くして飛び込んだ冒険者生活の日々では無かった事だ。
 なんだかんだでこの偽装結婚生活に楽しさと安らぎを覚えている事を、ガイ自身が自覚しているのかどうか。

 そんなガイにミオンが微笑みかける。
「口移しとあーんするのとどっちがいい?」
「何その二択!」
 疲れもどこへやら、ガイは目を剥いた。
 だが軽やかにイムが飛んできて、テーブルに着地するや口をあける。
「あーん」
「あら、決まっちゃったわ」
 くすくす笑いながらミオンは手元にあったリンゴの皮を剥きだした。
 切り身にする前に小皿を用意する……妖精と夫(設定)のぶんを。


「はい、あーん」
「俺は自分で食えるって」
 爪楊枝に刺したリンゴの切り身を差し出すミオンにガイは仰け反って拒否。
 イムは先に同じ事をされており、喜んでリンゴに齧りついていた。
 照れくささにむすっとしながら、ミオンの手から爪楊枝ごと取ろうとして……

 家の戸を村長が勢い良く開けた。

「なんだよ!?」
 驚き半分・邪魔者を疎む半分で振り向くガイ。
 家の中で乳繰り合っている夫婦|(設定)へ、空気など全く読まずに村長は叫んだ。
「ガイ殿! やっと希望者が来ましたぞ!」

「やったぜ!」
 喜色満面、勢いよく立ち上がるガイ。
 ミオンが「お邪魔虫……」と口を尖らせていたが、まぁ仕方がない事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...