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1章
6 商売開始 5
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アイテム販売の取り分も決まり、魔王軍も撃退し、ガイは帰路に着く。
怒鳴り声をあげながら。
「だから俺の家に泊まる所は無いって言ってるだろ! ウスラと一緒に寝てろよ!」
宿を求めてのこのこついてくるかつてのパーティメンバー女性二人‥‥魔術師のララ、神官のリリに。
だがそのウスラも彼女達の後ろをついて来ているのだ。
「俺も泊まる所はねーッス」
「じゃあこの村に来てから今までどうしてたんだよ?」
思わぬ言い分に半ば驚くガイ。
ウスラは表情を沈ませた。
「初日にガイがメタクソにしてくれたんで寺院に放り込まれて治療を受けて、翌日からは行商に出たんで外泊。村の中に拠点的な所は無いままッス」
ちょっと思い出してみるガイ。
言われてみればそんな感じかもしれない。
「困った。屋根の有る所で寝られない」
そう言いつつ、魔術師のララがチラッチラッとガイを横目で伺う。
「寝なきゃいいぜ」
ガイの誠意あふれる提案に対し、その背へ縋るように神官リリの声がかけられる。
「ねぇガイ。私、実は貴方の事をずっと素敵だと思っていたの。貴方になら私の全てをあげてもいいって‥‥」
「いらん。じゃあな」
ガイは振り向きもしなかった。
「私を捨てるの!?」
「拾った覚えはねぇ」
リリが泣き声を飛ばすが、ガイはそれを引き離すかのごとく歩く速度を速めた。
なのに三人もまた歩く速度を速めてガイを追うのだ。
しかしここは村の往来。他に人が歩いている事もあり得る。
というわけで四人に声がかけられた。
「あらあら、修羅場の最中かしら? 私という物がありながら‥‥」
四人が振り向いた先にいるのはミオンだった。
ガイはバツの悪そうな顔で頭を掻く。
「始まりもしてねぇさ。買い物帰りか?」
「ええ、晩御飯の具材を。新鮮なワニの切り身があったから買っておいたわ」
にっこり笑顔で買い物籠を見せるミオン。
(主婦業も板についてきたなぁ‥‥)
そう思いつつ、彼女と早く一緒に家へ帰りたい気持ちがガイの中で大きくなってゆく。
しかしミオンは三人組を横目に訊いてきた。
「あの人達は?」
ガイより先にララが答える。
「ガイの仲間です」
「元だろうが! どのツラ下げて‥‥」
露骨に顔を顰めるガイ。
いっそ今すぐこの三人を焼き払ってしまおうか、と割と本気で考える。
その傍らで、ごく自然に、当然のように。
「初めまして。私はミオン、ガイの妻です」
言って一礼、にっこり笑顔。
そんなミオンにガイの元パーティ三人は固まった。
いつも無表情なララが強張った顔をガイへ向ける。
「そういう風俗があるの?」
「ちげーよ! なんだその決めつけは!?」
怒るガイ。
しかしララは疑いを隠そうともせずジト目を向けてきた。
「そんな美人さんがガイを好きになってくれたって? 嘘にリアリティが無さすぎる」
「俺が惚れて結婚を申し込んで一緒になってもらったんだよ! 文句あっか!」
勢い任せに怒鳴るガイ。咄嗟についたにしては中々の嘘だ。
だがガイの肩でイムが実に嬉しそうな笑顔を見せた。
「二人はとっても仲良しだよ!」
だがそんなナイス援護にも関わらず、元パーティ三人の疑いの目は変わらない。
信じられないという感情は個人の胸中においてはいかなる証拠にも勝るのだ。
まぁそんな人間達とはいつまでも付き合わない、という賢明な選択をガイはとった。
「そういうわけで俺の家にお前らが泊まる場所はねぇ! じゃあな!」
ガイは背を向け、ずんずんとその場を大股で去る。
「そんな‥‥今夜はどうすれば?」
リリが泣き声をあげても、歩く速度を緩めはしなかった。
一応返事は大声でする。
「素直に宿屋へ行け!」
それでも着いて来る三人を肩越しに確認するミオン。
にんまり笑うと、おもむろに買い物籠を持っていない方の腕をガイと絡めた。まとわりつく柔肌と体温にどきりとするガイだが、ミオンの目くばせを見て、何も言わずされるがまま歩く。
新婚さんという事になっているのだ。設定は大事だ。
イムが後ろを振り返ると、三人は目を丸くしていた。
それでも着いて来る三人を肩越しに確認するミオン。
くすくす笑いながらガイへ話しかける。
「帰ったらご飯にする? お風呂が先かしら?」
「え、あ、そうだな‥‥」
どう答えるのが自然かガイが考えている間に、ミオンが言葉を続ける。
「ご飯かしらね。お風呂だとガイがなかなか離してくれないから長いもの」
「!?!?」
ガイが目を白黒させるが、設定は大事だ。
イムが後ろを振り返ると、三人は驚きで顎が外れそうになっていた。
それでも着いて来る三人を肩越しに確認するミオン。
ガイの肩に頭を預ける。
「君を死ぬまで離さない、と言ってプロポーズしてくれたけど。毎晩それを果てて寝ちゃうまで実行するんだもの。子だくさん家庭にしたくてたまらないなんて、本当、困った旦那様ね」
それを言い終えた時、ガイ達は家の玄関を潜っていた。
だいぶ増えてしまったが、まぁ設定は大事だ。
戸が閉まる前、最後にイムが後ろを振り返ると、三人は茫然と突っ立ってガイ達を見送っていた。
しばし立ち尽くしてから、ウスラ・ララ・リリの三人はこそこそと忍び歩きで家の周りを歩き出す。
風呂場らしき場所に検討をつけると、こそこそと窓の下へ近づいて息を潜めた。
確認は大事だ。
だが窓からにゅっとガイの手が出る。
三人へ塩がブッかけられた。
「十秒後に殺すぞ」
そんな言葉もオマケにつけて。
全力疾走で家から離れる三人。
「うう‥‥女が欲しいなら私に靡いてくれればいいのに」
「あの嫁さん相手に勝ってる所が一つも無さそうッス」
走りながら泣くリリの横で、走りながらウスラが極めて的確な評価を口にした。
メイスでウスラが殴打される音の横でララが呟く。いつもの無表情ではなく、極めて悔しそうな顔で。
「ガイのくせに‥‥くそう」
怒鳴り声をあげながら。
「だから俺の家に泊まる所は無いって言ってるだろ! ウスラと一緒に寝てろよ!」
宿を求めてのこのこついてくるかつてのパーティメンバー女性二人‥‥魔術師のララ、神官のリリに。
だがそのウスラも彼女達の後ろをついて来ているのだ。
「俺も泊まる所はねーッス」
「じゃあこの村に来てから今までどうしてたんだよ?」
思わぬ言い分に半ば驚くガイ。
ウスラは表情を沈ませた。
「初日にガイがメタクソにしてくれたんで寺院に放り込まれて治療を受けて、翌日からは行商に出たんで外泊。村の中に拠点的な所は無いままッス」
ちょっと思い出してみるガイ。
言われてみればそんな感じかもしれない。
「困った。屋根の有る所で寝られない」
そう言いつつ、魔術師のララがチラッチラッとガイを横目で伺う。
「寝なきゃいいぜ」
ガイの誠意あふれる提案に対し、その背へ縋るように神官リリの声がかけられる。
「ねぇガイ。私、実は貴方の事をずっと素敵だと思っていたの。貴方になら私の全てをあげてもいいって‥‥」
「いらん。じゃあな」
ガイは振り向きもしなかった。
「私を捨てるの!?」
「拾った覚えはねぇ」
リリが泣き声を飛ばすが、ガイはそれを引き離すかのごとく歩く速度を速めた。
なのに三人もまた歩く速度を速めてガイを追うのだ。
しかしここは村の往来。他に人が歩いている事もあり得る。
というわけで四人に声がかけられた。
「あらあら、修羅場の最中かしら? 私という物がありながら‥‥」
四人が振り向いた先にいるのはミオンだった。
ガイはバツの悪そうな顔で頭を掻く。
「始まりもしてねぇさ。買い物帰りか?」
「ええ、晩御飯の具材を。新鮮なワニの切り身があったから買っておいたわ」
にっこり笑顔で買い物籠を見せるミオン。
(主婦業も板についてきたなぁ‥‥)
そう思いつつ、彼女と早く一緒に家へ帰りたい気持ちがガイの中で大きくなってゆく。
しかしミオンは三人組を横目に訊いてきた。
「あの人達は?」
ガイより先にララが答える。
「ガイの仲間です」
「元だろうが! どのツラ下げて‥‥」
露骨に顔を顰めるガイ。
いっそ今すぐこの三人を焼き払ってしまおうか、と割と本気で考える。
その傍らで、ごく自然に、当然のように。
「初めまして。私はミオン、ガイの妻です」
言って一礼、にっこり笑顔。
そんなミオンにガイの元パーティ三人は固まった。
いつも無表情なララが強張った顔をガイへ向ける。
「そういう風俗があるの?」
「ちげーよ! なんだその決めつけは!?」
怒るガイ。
しかしララは疑いを隠そうともせずジト目を向けてきた。
「そんな美人さんがガイを好きになってくれたって? 嘘にリアリティが無さすぎる」
「俺が惚れて結婚を申し込んで一緒になってもらったんだよ! 文句あっか!」
勢い任せに怒鳴るガイ。咄嗟についたにしては中々の嘘だ。
だがガイの肩でイムが実に嬉しそうな笑顔を見せた。
「二人はとっても仲良しだよ!」
だがそんなナイス援護にも関わらず、元パーティ三人の疑いの目は変わらない。
信じられないという感情は個人の胸中においてはいかなる証拠にも勝るのだ。
まぁそんな人間達とはいつまでも付き合わない、という賢明な選択をガイはとった。
「そういうわけで俺の家にお前らが泊まる場所はねぇ! じゃあな!」
ガイは背を向け、ずんずんとその場を大股で去る。
「そんな‥‥今夜はどうすれば?」
リリが泣き声をあげても、歩く速度を緩めはしなかった。
一応返事は大声でする。
「素直に宿屋へ行け!」
それでも着いて来る三人を肩越しに確認するミオン。
にんまり笑うと、おもむろに買い物籠を持っていない方の腕をガイと絡めた。まとわりつく柔肌と体温にどきりとするガイだが、ミオンの目くばせを見て、何も言わずされるがまま歩く。
新婚さんという事になっているのだ。設定は大事だ。
イムが後ろを振り返ると、三人は目を丸くしていた。
それでも着いて来る三人を肩越しに確認するミオン。
くすくす笑いながらガイへ話しかける。
「帰ったらご飯にする? お風呂が先かしら?」
「え、あ、そうだな‥‥」
どう答えるのが自然かガイが考えている間に、ミオンが言葉を続ける。
「ご飯かしらね。お風呂だとガイがなかなか離してくれないから長いもの」
「!?!?」
ガイが目を白黒させるが、設定は大事だ。
イムが後ろを振り返ると、三人は驚きで顎が外れそうになっていた。
それでも着いて来る三人を肩越しに確認するミオン。
ガイの肩に頭を預ける。
「君を死ぬまで離さない、と言ってプロポーズしてくれたけど。毎晩それを果てて寝ちゃうまで実行するんだもの。子だくさん家庭にしたくてたまらないなんて、本当、困った旦那様ね」
それを言い終えた時、ガイ達は家の玄関を潜っていた。
だいぶ増えてしまったが、まぁ設定は大事だ。
戸が閉まる前、最後にイムが後ろを振り返ると、三人は茫然と突っ立ってガイ達を見送っていた。
しばし立ち尽くしてから、ウスラ・ララ・リリの三人はこそこそと忍び歩きで家の周りを歩き出す。
風呂場らしき場所に検討をつけると、こそこそと窓の下へ近づいて息を潜めた。
確認は大事だ。
だが窓からにゅっとガイの手が出る。
三人へ塩がブッかけられた。
「十秒後に殺すぞ」
そんな言葉もオマケにつけて。
全力疾走で家から離れる三人。
「うう‥‥女が欲しいなら私に靡いてくれればいいのに」
「あの嫁さん相手に勝ってる所が一つも無さそうッス」
走りながら泣くリリの横で、走りながらウスラが極めて的確な評価を口にした。
メイスでウスラが殴打される音の横でララが呟く。いつもの無表情ではなく、極めて悔しそうな顔で。
「ガイのくせに‥‥くそう」
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