25 / 147
1章
6 商売開始 2
しおりを挟む
その日の早朝。
ガイは商品の卸値見積一覧表を書いた紙を手に、道具屋の脇で村長や店番、鍛冶屋と話し合っていた。
「とりあえず原価に加工費あわせてこんなもんで‥‥」
「となると、村人や難民が材料を調達すればここまで下がるわけですな‥‥」
大雑把な算出法を伝えながらガイは表を見せ、村長のコエトールが確認してゆく。
話を順調にまとめていると――ガイの肩にいるイムが「ねえ、あれ」と指さした。
巨漢禿頭の戦士ウスラ。かつてガイを追放したチームメイトにして、魔王軍の走狗となって敗れた男。
彼が大股で歩いてくるのだ。
手ぶらで。
「ただいまッス」
「ウスラ? 帰ってきたのか、けどなんで一人?」
頭を下げるウスラに訊くガイ。
ウスラは他の村々を周る行商班の一人に組み込まれた。よって商品の入った風呂敷を背負い、他の捕虜達と一緒に他の村や町へ出かけたのだ。
予定では早ければ今日帰還ではあった。それにしても一人で荷物も無いとは‥‥?
「俺と組んでいた奴等が商品と売上もって逃げたからッス」
「なにィ!?」
ウスラの返事で謎は全て解けた。
ガイは驚愕して目を剥くしかなかったが。
「それでお主は報告に帰ってきたのか。犯罪に加担しなかっただけ偉いぞ」
村長はそう言ってくれたが、ウスラは頭を振る。
「いや、俺はハブにされたみたいで、今朝起きたら他の連中が皆消えてただけで。声かけられてたら話は違うッス」
「そこは正直になるなよ!」
怒鳴るガイ。
その後ろで鍛冶屋のイアンが腕組みして唸った。
「しかし村の売上をギッて逃げるとは。こうならんよう今後は行商はやめるとして、逃げた奴等は何とか捕まえてブチ殺したい所じゃ」
すると皆の後ろから勝ち誇った声が届いた。
「ふっ、そいつらなら既に我ら魔王軍が捕えている」
「なにィ!?」
聞き覚えのある声に、驚き振り向くガイ。
そこにいたのは彼の予想通りの人物。見た目は美しい町娘。髪をヘアバンドで纏め、上下一体のワンピースを着ている。武具の類も荷物も持っていない。
しかし剣呑な微笑みを浮かべるその女は――魔王軍の親衛隊、マスターキメラ。
彼女の後ろにはゴブリンやオーク等の下級魔物兵達がいる。
そして、それに囚われている人間の男達も!
ガイ達はそれに見覚えがある。ウスラと同じ行商班の連中だ。
せせら笑うマスターキメラ。
「治安の悪い都市に逃げ込んだはいいが、そこが我らの占領地だと気付かなかったらしいな。馬鹿な連中だ」
「いや本当に心底バカだな」
ガイは納得した。後ろで村長も。鍛冶屋も。店番も。
男達は魔王軍と戦って敗れた人類の兵士なのだが‥‥あまり質の良い連中では無かったのだろう。
持ち逃げとかするぐらいだし。
「おかげで私は貴様が作った道具をこちらで使わせてもらえるわけだ。今日こそ覚悟するがいい!」
声高に言って、マスターキメラは風呂敷包みを取り出した。村の商品――そこにはガイが造った珠紋石やポーションも数多く含まれているのだ。
歯軋りするガイ。
「クソッ‥‥なら俺の怒りはお前にぶつけるぜ!」
だが尚もマスターキメラは余裕を見せる。
「いいだろう。だが私の前にこいつらを見てもらおうか」
そう言うと下級兵の群れが割れた。
そこから出てくるのは、ガイもよく知る二人の人物。
「ララとリリ!?」
驚くガイ。
かつてガイを追放したチームメイトの女性メンバーが二人‥‥魔術師と僧侶がそこにいた。
「ふふっ、貴様の仲間が我らの捕虜にいる事はわかっていたからな」
マスターキメラは彼女達へ振り返りながら笑う。
その視線を受け、女魔術師のララが冷たい目でガイを見つめながら静かに告げた。
「ガイを倒せば自由にしてくれるって」
その言葉に歯軋りするガイ。
一方、女神官のリリはめそめそと泣いていた。
「うう、ごめんなさい‥‥本当はこんな事したくないの。信じて」
しゃくりあげながら彼女は訴え、恨めしそうにマスターキメラを見た。
「カラダなら好きにしていいから勘弁してくださいってお願いしても、女同士の趣味は無いからって‥‥」
「有る前提で話されてもマジ困ったんだけど!?」
一転、怖気で鳥肌を立てながらマスターキメラは後ろに退いた。
「いい加減に寝ればなんとかなると思うのやめろよ!」
ガイは怒鳴った。
「ひ、酷い」
神官リリはめそめそ泣き続けた。
だが魔術師のララは動じずに淡々と告げる。
「酷いのはリリの頭だと思うけど、それはそれとして、こうして出て来た以上は好きにさせてもらうわ」
そして魔力の輝きを帯びる杖を手に、一歩、また一歩と、ガイの方へと近づいてきた‥‥!
ガイは商品の卸値見積一覧表を書いた紙を手に、道具屋の脇で村長や店番、鍛冶屋と話し合っていた。
「とりあえず原価に加工費あわせてこんなもんで‥‥」
「となると、村人や難民が材料を調達すればここまで下がるわけですな‥‥」
大雑把な算出法を伝えながらガイは表を見せ、村長のコエトールが確認してゆく。
話を順調にまとめていると――ガイの肩にいるイムが「ねえ、あれ」と指さした。
巨漢禿頭の戦士ウスラ。かつてガイを追放したチームメイトにして、魔王軍の走狗となって敗れた男。
彼が大股で歩いてくるのだ。
手ぶらで。
「ただいまッス」
「ウスラ? 帰ってきたのか、けどなんで一人?」
頭を下げるウスラに訊くガイ。
ウスラは他の村々を周る行商班の一人に組み込まれた。よって商品の入った風呂敷を背負い、他の捕虜達と一緒に他の村や町へ出かけたのだ。
予定では早ければ今日帰還ではあった。それにしても一人で荷物も無いとは‥‥?
「俺と組んでいた奴等が商品と売上もって逃げたからッス」
「なにィ!?」
ウスラの返事で謎は全て解けた。
ガイは驚愕して目を剥くしかなかったが。
「それでお主は報告に帰ってきたのか。犯罪に加担しなかっただけ偉いぞ」
村長はそう言ってくれたが、ウスラは頭を振る。
「いや、俺はハブにされたみたいで、今朝起きたら他の連中が皆消えてただけで。声かけられてたら話は違うッス」
「そこは正直になるなよ!」
怒鳴るガイ。
その後ろで鍛冶屋のイアンが腕組みして唸った。
「しかし村の売上をギッて逃げるとは。こうならんよう今後は行商はやめるとして、逃げた奴等は何とか捕まえてブチ殺したい所じゃ」
すると皆の後ろから勝ち誇った声が届いた。
「ふっ、そいつらなら既に我ら魔王軍が捕えている」
「なにィ!?」
聞き覚えのある声に、驚き振り向くガイ。
そこにいたのは彼の予想通りの人物。見た目は美しい町娘。髪をヘアバンドで纏め、上下一体のワンピースを着ている。武具の類も荷物も持っていない。
しかし剣呑な微笑みを浮かべるその女は――魔王軍の親衛隊、マスターキメラ。
彼女の後ろにはゴブリンやオーク等の下級魔物兵達がいる。
そして、それに囚われている人間の男達も!
ガイ達はそれに見覚えがある。ウスラと同じ行商班の連中だ。
せせら笑うマスターキメラ。
「治安の悪い都市に逃げ込んだはいいが、そこが我らの占領地だと気付かなかったらしいな。馬鹿な連中だ」
「いや本当に心底バカだな」
ガイは納得した。後ろで村長も。鍛冶屋も。店番も。
男達は魔王軍と戦って敗れた人類の兵士なのだが‥‥あまり質の良い連中では無かったのだろう。
持ち逃げとかするぐらいだし。
「おかげで私は貴様が作った道具をこちらで使わせてもらえるわけだ。今日こそ覚悟するがいい!」
声高に言って、マスターキメラは風呂敷包みを取り出した。村の商品――そこにはガイが造った珠紋石やポーションも数多く含まれているのだ。
歯軋りするガイ。
「クソッ‥‥なら俺の怒りはお前にぶつけるぜ!」
だが尚もマスターキメラは余裕を見せる。
「いいだろう。だが私の前にこいつらを見てもらおうか」
そう言うと下級兵の群れが割れた。
そこから出てくるのは、ガイもよく知る二人の人物。
「ララとリリ!?」
驚くガイ。
かつてガイを追放したチームメイトの女性メンバーが二人‥‥魔術師と僧侶がそこにいた。
「ふふっ、貴様の仲間が我らの捕虜にいる事はわかっていたからな」
マスターキメラは彼女達へ振り返りながら笑う。
その視線を受け、女魔術師のララが冷たい目でガイを見つめながら静かに告げた。
「ガイを倒せば自由にしてくれるって」
その言葉に歯軋りするガイ。
一方、女神官のリリはめそめそと泣いていた。
「うう、ごめんなさい‥‥本当はこんな事したくないの。信じて」
しゃくりあげながら彼女は訴え、恨めしそうにマスターキメラを見た。
「カラダなら好きにしていいから勘弁してくださいってお願いしても、女同士の趣味は無いからって‥‥」
「有る前提で話されてもマジ困ったんだけど!?」
一転、怖気で鳥肌を立てながらマスターキメラは後ろに退いた。
「いい加減に寝ればなんとかなると思うのやめろよ!」
ガイは怒鳴った。
「ひ、酷い」
神官リリはめそめそ泣き続けた。
だが魔術師のララは動じずに淡々と告げる。
「酷いのはリリの頭だと思うけど、それはそれとして、こうして出て来た以上は好きにさせてもらうわ」
そして魔力の輝きを帯びる杖を手に、一歩、また一歩と、ガイの方へと近づいてきた‥‥!
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。


最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる