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1章

6 商売開始 2

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 その日の早朝。
 ガイは商品の卸値見積一覧表を書いた紙を手に、道具屋の脇で村長や店番、鍛冶屋と話し合っていた。

「とりあえず原価に加工費あわせてこんなもんで‥‥」
「となると、村人や難民が材料を調達すればここまで下がるわけですな‥‥」
 大雑把な算出法を伝えながらガイは表を見せ、村長のコエトールが確認してゆく。
 話を順調にまとめていると――ガイの肩にいるイムが「ねえ、あれ」と指さした。


 巨漢禿頭の戦士ウスラ。かつてガイを追放したチームメイトにして、魔王軍の走狗となって敗れた男。
 彼が大股で歩いてくるのだ。
 で。

「ただいまッス」
「ウスラ? 帰ってきたのか、けどなんで一人?」
 頭を下げるウスラに訊くガイ。

 ウスラは他の村々を周る行商班の一人に組み込まれた。よって商品の入った風呂敷を背負い、他の捕虜達と一緒に他の村や町へ出かけたのだ。
 予定では早ければ今日帰還ではあった。それにしても一人で荷物も無いとは‥‥?

「俺と組んでいた奴等が商品と売上もって逃げたからッス」
「なにィ!?」
 ウスラの返事で謎は全て解けた。
 ガイは驚愕して目を剥くしかなかったが。

「それでお主は報告に帰ってきたのか。犯罪に加担しなかっただけ偉いぞ」
 村長はそう言ってくれたが、ウスラはかぶりを振る。

「いや、俺はハブにされたみたいで、今朝起きたら他の連中が皆消えてただけで。声かけられてたら話は違うッス」

「そこは正直になるなよ!」
 怒鳴るガイ。
 その後ろで鍛冶屋のイアンが腕組みして唸った。
「しかし村の売上をギッて逃げるとは。こうならんよう今後は行商はやめるとして、逃げた奴等は何とか捕まえてブチ殺したい所じゃ」


 すると皆の後ろから勝ち誇った声が届いた。
「ふっ、そいつらなら既に我ら魔王軍が捕えている」
「なにィ!?」
 聞き覚えのある声に、驚き振り向くガイ。
 そこにいたのは彼の予想通りの人物。見た目は美しい町娘。髪をヘアバンドで纏め、上下一体のワンピースを着ている。武具の類も荷物も持っていない。
 しかし剣呑な微笑みを浮かべるその女は――魔王軍の親衛隊、マスターキメラ。

 彼女の後ろにはゴブリンやオーク等の下級魔物兵達がいる。
 そして、それに囚われている人間の男達も!
 ガイ達はそれに見覚えがある。ウスラと同じ行商班の連中だ。

 せせら笑うマスターキメラ。
「治安の悪い都市に逃げ込んだはいいが、そこが我らの占領地だと気付かなかったらしいな。馬鹿な連中だ」
「いや本当に心底バカだな」
 ガイは納得した。後ろで村長も。鍛冶屋も。店番も。

 男達は魔王軍と戦って敗れた人類の兵士なのだが‥‥あまり質の良い連中では無かったのだろう。
 持ち逃げとかするぐらいだし。

「おかげで私は貴様が作った道具をこちらで使わせてもらえるわけだ。今日こそ覚悟するがいい!」
 声高に言って、マスターキメラは風呂敷包みを取り出した。村の商品――そこにはガイが造った珠紋石じゅもんせきやポーションも数多く含まれているのだ。
 歯軋りするガイ。
「クソッ‥‥なら俺の怒りはお前にぶつけるぜ!」

 だが尚もマスターキメラは余裕を見せる。
「いいだろう。だが私の前にこいつらを見てもらおうか」
 そう言うと下級兵の群れが割れた。
 そこから出てくるのは、ガイもよく知る二人の人物。
「ララとリリ!?」
 驚くガイ。
 かつてガイを追放したチームメイトの女性メンバーが二人‥‥魔術師と僧侶がそこにいた。

「ふふっ、貴様の仲間が我らの捕虜にいる事はわかっていたからな」
 マスターキメラは彼女達へ振り返りながら笑う。
 その視線を受け、女魔術師のララが冷たい目でガイを見つめながら静かに告げた。
「ガイを倒せば自由にしてくれるって」
 その言葉に歯軋りするガイ。

 一方、女神官のリリはめそめそと泣いていた。
「うう、ごめんなさい‥‥本当はこんな事したくないの。信じて」
 しゃくりあげながら彼女は訴え、恨めしそうにマスターキメラを見た。
「カラダなら好きにしていいから勘弁してくださいってお願いしても、女同士の趣味は無いからって‥‥」

「有る前提で話されてもマジ困ったんだけど!?」
 一転、怖気おぞけで鳥肌を立てながらマスターキメラは後ろに退いた。
「いい加減に寝ればなんとかなると思うのやめろよ!」
 ガイは怒鳴った。
「ひ、酷い」
 神官リリはめそめそ泣き続けた。

 だが魔術師のララは動じずに淡々と告げる。
「酷いのはリリの頭だと思うけど、それはそれとして、こうして出て来た以上は好きにさせてもらうわ」
 そして魔力の輝きを帯びる杖を手に、一歩、また一歩と、ガイの方へと近づいてきた‥‥!
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