フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
24 / 147
1章

6 商売開始 1

しおりを挟む
 魔王軍の大規模侵攻により大打撃を受けたケイト帝国。
 敵主力に首都で辛勝した事により公式には「勝利」したものの、未だ全土に魔王軍の兵が残っていた。
 当然、各地では小規模な戦いが続いている。

 だが今のガイにそんな事は無関係。
 奇麗な妻と可愛い妖精が共に暮らす幸せな家から出もせず、冒険者時代のように危険な場所で戦う事もなく、ただ心穏やかに内職だけする日々がここしばらく続いていた。


――カサカ村、ガイの家――


 テーブルに素材と道具を広げ、造り物に専念するガイ。抽出した薬液を凝固させ、外殻に閉じ込め、結晶化させる。朝起きてからずっと繰り返している作業だが‥‥
(今日中に‥‥できれば後32個‥‥)
 休む暇もなかなか無い。内職自体は心穏やかだが納期と数はそうでもなかった。まぁよくある事だ。

「さすがガイ。さすがガイ。さすがはガイ」
「ガイ、さっすがぁ」
 テーブルの向かいでミオンが頬杖を突きながらどこか退屈そうに言うと、テーブルの上でイムが合わせて手を叩いた。
 ガイは彼女達へ目を向ける‥‥作業の手は止めずに。
「‥‥それは何のマネかな?」
「村長さんのマネ。商売が上手く行っちゃったのは本当に流石じゃないかしら」
 ミオンの返事に、ガイは疲れで溜息をついた。
「褒めてくれて嬉しいけど、今同じ事を始めたら誰でもこれぐらい儲かるって事だぜ」


 山で特産品の候補を集めて来たガイ達。
 栽培するため畑に植え直した物もあるが、即金にするため加工する物もある。
 というわけで村のあちこちで醸造や菓子類の製造がにわかに始まり、元難民や敗残兵にもやらせる仕事はできた。
 商売開始から既に日も経っており、早くもいくつかは村の商品として期待できる売行きを見せている。

 さて、そんな新商品の中には珠紋石じゅもんせきもあった。造れるなら造る、そして売るというだけの物だが‥‥珠紋石じゅもんせき作成の技能スキルを持つのはこの村にはガイのみ。
 そしてガイにとっては意外な事に、今最も売れているのがそうした珠紋石じゅもんせきである。「カサカ村の道具屋は珠紋石じゅもんせきの種類が豊富だ」と聞いた冒険者や近隣領主の軍部関係者がわざわざ立ち寄るほどに。

 理由は簡単、魔王軍の残党がケイト帝国全土をうろついているせいだ。
 正規の兵士やある程度のレベルの冒険者が減ってしまった今、「誰が使っても期待通りの威力が出る」攻撃アイテムは非常に価値が高い。
 消費アイテム中心のコストのかかる戦闘など、今まではこの世界の冒険者も軍もやらなかったのだが、そう言っていられない状況なら話は別だ。

 だがそうなると常に売り続ける事になる。
 素材は「これを山で探してきてくれ」と頼めば、低級の物ならイムがいなくても地元民でなんとかなる。販売店の店番も。
 しかし作成できるのがガイのみとなれば、連日独りで内職に励むハメになるのだ。


 そんなガイにミオンが優しく声をかけた。
「実行できた事が大切なのよ。ではお嫁さんから愛のご褒美があります」
「えっ? いや、変な事なら要らないぜ!?」
 思わず手を止め警戒するガイ。
 酷い言い草だが、怒りもせずにミオンは「ふふっ」と微笑む。
「美味しいご飯ですけど。もう遅い時間よ?」
 そう言うとお盆に食事を乗せて持ってきた。
 それをテーブルに乗せるとにんまりと笑う。
「ところで‥‥変な事ってナニかなー?」

 ガイは素直に手を止めた。
「‥‥疲れてたみたいだな。認めるよ、メシにするわ」
「じゃあ今日は食べたらもう寝ましょうね。ここ最近、いつも夜遅いんだから」
 そう言った時には、ミオンの眼差しも声も再び優しくなっていた。


――翌日、村の道具屋――


 商店が開店する前の早朝。
 ガイが昨日造った珠紋石じゅもんせきを開店前の道具屋に持って行くと、村長のコエトールが顔を見せていた。
「おおガイ殿! 昨日、川向うのヤラレール市からの商人が大量買いしてくれたので在庫が全部はけましたぞ」
「またそこか!? 二日前も来たよな」
 驚くガイに、村長は首を横に振る。
「いいえ、二日前は川向う南西のヤレラタワ男爵領からの使者です」
 魔王軍に苦戦している地域は多いのだ。

 少々不穏な世間話をしていると、店番担当のタゴサックもやって来た。
「流石はガイ殿! おかげで難民と捕虜達の生活もギリなんとかなりそうですぞ」
「ギリ、か‥‥人の口って金かかるんだな」
 今後の労働時間を考えて肩を落とすガイ。
 そんな彼に村長が告げる。
「ところで‥‥外回りの連中がそろそろ明日辺り帰る頃です」
「売れてりゃいいけどな。俺はまた夜更かしになるけど‥‥」
 ガイにしてみれば溜息も出る。

 そんな彼に村長が恐々と訊いてきた。
「この機会にお聞きしますが。ガイ殿の取り分に関してはまだ何もお話ししておりませんな?」
「?」
 ガイが首を傾げる。
 そんな彼に村長が恐々と訊いた。
「貴方に支払う報酬ですよ。まさかタダ働きしていただけるわけではありますまい」

 数秒後、ガイはハッと気づいた。
「‥‥あ」
「え?」
 村長は察した。
 ガイが己の取り分を全く考えていなかった事を。
「‥‥奥様に半殺しにされますぞ?」
「されねぇとは思うけど‥‥とりあえず明日見積もってくる」
 頭を抱えて村長にそう告げるガイ。
 まぁ誰しも疲れると頭が回らない物なのだ。


――その夜、ガイの家――


「俺も元メンバーの事をとやかく言える頭してなかったみたいだな‥‥」
 肩を落としながら、ガイはミオンに朝の事を話した。
 そんな彼をミオンは腕組みして威圧的に見下ろす。
「これはオシオキが必要かな?」
「面目ねぇ」
 詫びるガイ。

 というのも、今の生活費はだいたいミオンが出しているのだ。遭難現場で拾った宝石袋の中身を少しずつ崩しながら。
 まぁ護衛にかかる費用を依頼主から支給して貰っている、と解釈すれば別に恥ずべき事でもない。
 ないが‥‥表向きの夫婦設定のせいで、ガイは無意識に自分が稼いで養うべきだと考えてしまっているようだ。

 それに気づいているのかどうか、ミオンはガイの手をとった。
「じゃあ私の言う事をきいてね。ほら、こっち」
 そう言って引っ張っていくのは‥‥ミオンのベッド。

 設定は夫婦でも|(ガイの提案で)寝室は別々である。大きな一部屋しかない小さな家の中、衝立ついたてを立ててベッドしかおけない部屋を無理矢理二つ捻出していた。

 ミオンはベッドに腰掛けてガイをいざなった。
「!?」
「ほらほら」
 目を白黒させるガイの手をミオンがく。
 首をぶんぶん横に振るガイ。
「いや、罰っていうのは、俺に辛い事であるべきなわけで‥‥」
「ふーん。ふーん」
 悪戯っぽく微笑みながら、ミオンはベッドに横たわった。

 うつ伏せに。

「今回のオキオシは、私の背中のツボのマッサージなんだけど?」
「え? ああ、そういう事」
 ミオンに言われてやっとガイは理解した。
 くすくすと可笑しそうに笑うミオン。
「どういう事だと思ったのかなー?」
「や、やるよ! やればいいんだろ」
 ガイは慌ててミオンの背中に指をあてた。

 ミオンに指示されるまま、背中の筋肉を親指で押すガイ。
 確かに、強張っている箇所があちこちにあるようだ。 

「やっぱり家事をやり慣れてないのね、私。だいぶできるようになったけど、料理でも掃除でもやって初めてわかる事が多いの」
 それをミオンは不甲斐なく思っているようだ。
 だが本当に貴族令嬢だったなら当然でもある。
「仕方ねぇさ。いつもありがとう」
「ガイもね。お疲れ様‥‥」
 いたわり合う二人。

 をほぐされる感触が心地良い。少しの痛さが混じる気持ち良さに、ミオンは自然と小さなうめき声が出る。
「あ、は‥‥うん‥‥うっ」

 邪念を押し殺そうとするガイ。

 しかしクラスの技能のため器用に鍛えた指先は、ミオンの体のしなやかでなめらかで柔らかい感触を正確に告げてくる。
 腰辺りを押す時には、視界に当然その下の部位も入る。丸く女性らしく、張りのある膨らみに満ちた部位も。

 頑張って邪念を押し殺そうとするガイ。

「ガイは‥‥固くなってない?」
「ななな、なってないと思いますよ!」
 ミオンに訊かれた時に多少慌てたとしてもそれは仕方ない事だ。
 そもそもどこがなるというのか。

 そんなガイにかけられたミオンの声は優しかった。
「そう? 次は私がマッサージしてあげようかなって、思ったんだけど」

「ごめんなさい」
 ガイは詫びた。
 誠心誠意、彼女の疲労回復に勤めようと思った。
「?」
 ミオンには伝わっていない事もあったが、思いやりと奉仕は美しい物なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...