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1章
4 新生活 5
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戦いが終わり、怪獣の屍から使える部位を拾ったり機体を村の工場に戻したり‥‥と、色々忙しいガイ。
薬を調合して寺院に持ち込めたのはもう夕刻になった頃だ。
それでもケガ人のためにと、疲れた体に鞭打ってガイは薬を「使用」する。
【道具効果増幅】スキルは薬の回復量にも有効なのだ。
ケガ人達は感嘆の声をあげる。
「おお! 皆がみるみる回復していく!」
「さすがガイ殿! さすがガイ殿!」
村長のコエトールはここぞとばかりにガイを褒め称えた。太った体を揺すり揉み手する。
正直、ガイはやめて欲しかったが。なんか嫌な思い出が浮かぶので。
ともかくガイは薬を「使用」し続けた。七輪に皿をくべて熱し、そこに白い粉薬を投入し、煙をいぶし続ける。スキルの効果により、的確な量と火加減を見極めながら。
そう、調合したのは飲み薬や塗薬ではない。
複数人を同時に癒すため、煙にして吸引する粉末を調合したのだ。
素材となるリョウゲシが手に入ったのは幸運だった。非戦闘時にパーティ全員を一度に治療するための回復剤【ヒールスモーク】の調合を覚えていたのも良かった。
というわけでガイはせっせと白い煙をたき、その中で村人達が鼻をふんふん鳴らしては酩酊状態になる。
「効くぜぇ‥‥こいつは効くぜェ~」
「おほぉ、い、いく~」
「とぶわぁ~、めっちゃとぶわぁ~」
うつろな目で口を半開きにしたまま効果を讃える村人達。
確かな効果の割に評判がいまいちな煙薬を、ガイは頑張って炊き続けた。
イムは肩でむせていた。
――帰宅――
寺院での治療が終わって帰宅するガイ。既に夜空に月が輝いている。
「ただいま」
声をかけて戸を開けると――
「あ、おかえりなさい。今日もお疲れさま」
ミオンがエプロンをつけ、竈で料理を作っていた。
鍋が二つ、何かを煮ているようだ。
「ミオン!? 料理、できるの?」
驚くガイ。
ミオンは貴族のお嬢様だと推測しているのだが、その階級のご婦人が料理を学んでいる事は少ない。
対してミオンの返答は――
「した事は無いわね。だから料理の本を貰ってきたの。これから少しずつ覚えていくから、味見、よろしくね」
革表紙の本を見せて、にっこり笑った。
――小一時間ほど後――
ミオンが大小の鍋を順番に運んでくる。
片方は炊いたご飯、もう片方はごくありふれたシチュー。
この世界の田舎村の晩飯としてはありがちなメニューの一つである。
ミオンは皿によそうと、ガイに差し出して微笑んだ。
「はい、新妻の手料理よ。どうぞ」
「いや、まぁ、いただきますけどね‥‥」
バツの悪い物を感じながらもガイは皿を受け取る。
ミオンとしては、どうせなら楽しく過ごそうと冗談混じりでやっているのだろうが‥‥生まれてこの方、恋人なんて一人もおらず、そもそも恋愛経験さえロクに思い出せないガイである。
奇麗な年上の女性に夫婦設定でからかわれると、変に意識してしまって、どう流せばいいのかわからないのだ。
ともかく腹は減っているので口をつける。
(‥‥!)
一瞬驚き、ガイは黙って黙々と食った。
「ダメ?」
少し心配したように訊いてくるミオン。
ガイは彼女をまじまじと見てしまう。
「初めて? これ‥‥そりゃメチャクチャ美味いとまでは言わないけど、普通にちゃんとできてる」
ミオンはほっと安心してからくすりと微笑んだ。
「そりゃ本に書いてあるとおりにしたもの」
「いや、書いてあるからできますって‥‥それで最初からこの出来なら、才能あると思うよ」
正直に感心するガイ。
そもそも料理自体をするのが初めてらしいのだが‥‥。
(かなりの才媛だな。ぬくぬくと育てられたお嬢様っぽくはない‥‥)
そんな考えがガイの脳裏をかすめる。
一方、ミオンはガイの言葉を喜んで掌を合わせた。
「あら、嬉しいわね。それじゃあ明日からも愛情こめてがんばりますか。ね、旦那様」
にっこり笑ってウインク一つ。
「いや、その‥‥お芝居‥‥」
たじろぐガイに、ミオンは顔を寄せてくる。
「でも美味しい方が嬉しいでしょう?」
「あ、うん」
ガイは頷いた。
思わず背筋を伸ばして距離をとりながら。
そんなガイを見てくすくす笑い、ミオンはテーブルの端へと振り返る。
「どうせ『お芝居』するなら楽しい方がいいに決まっているわ。ね?」
そこではイムが、切り分けられた果物を食べていた。
切った梨から顔をあげ、妖精の少女は「うん!」と満面の笑みで頷く。
ぽりぽりと頬を掻くガイ。
実は正直な所、毎度たじろいではいるが‥‥ミオンにからかわれるのが嫌かというと、そうではないのだ。
まぁ仕方ない。ガイとて若い青少年なのである。
薬を調合して寺院に持ち込めたのはもう夕刻になった頃だ。
それでもケガ人のためにと、疲れた体に鞭打ってガイは薬を「使用」する。
【道具効果増幅】スキルは薬の回復量にも有効なのだ。
ケガ人達は感嘆の声をあげる。
「おお! 皆がみるみる回復していく!」
「さすがガイ殿! さすがガイ殿!」
村長のコエトールはここぞとばかりにガイを褒め称えた。太った体を揺すり揉み手する。
正直、ガイはやめて欲しかったが。なんか嫌な思い出が浮かぶので。
ともかくガイは薬を「使用」し続けた。七輪に皿をくべて熱し、そこに白い粉薬を投入し、煙をいぶし続ける。スキルの効果により、的確な量と火加減を見極めながら。
そう、調合したのは飲み薬や塗薬ではない。
複数人を同時に癒すため、煙にして吸引する粉末を調合したのだ。
素材となるリョウゲシが手に入ったのは幸運だった。非戦闘時にパーティ全員を一度に治療するための回復剤【ヒールスモーク】の調合を覚えていたのも良かった。
というわけでガイはせっせと白い煙をたき、その中で村人達が鼻をふんふん鳴らしては酩酊状態になる。
「効くぜぇ‥‥こいつは効くぜェ~」
「おほぉ、い、いく~」
「とぶわぁ~、めっちゃとぶわぁ~」
うつろな目で口を半開きにしたまま効果を讃える村人達。
確かな効果の割に評判がいまいちな煙薬を、ガイは頑張って炊き続けた。
イムは肩でむせていた。
――帰宅――
寺院での治療が終わって帰宅するガイ。既に夜空に月が輝いている。
「ただいま」
声をかけて戸を開けると――
「あ、おかえりなさい。今日もお疲れさま」
ミオンがエプロンをつけ、竈で料理を作っていた。
鍋が二つ、何かを煮ているようだ。
「ミオン!? 料理、できるの?」
驚くガイ。
ミオンは貴族のお嬢様だと推測しているのだが、その階級のご婦人が料理を学んでいる事は少ない。
対してミオンの返答は――
「した事は無いわね。だから料理の本を貰ってきたの。これから少しずつ覚えていくから、味見、よろしくね」
革表紙の本を見せて、にっこり笑った。
――小一時間ほど後――
ミオンが大小の鍋を順番に運んでくる。
片方は炊いたご飯、もう片方はごくありふれたシチュー。
この世界の田舎村の晩飯としてはありがちなメニューの一つである。
ミオンは皿によそうと、ガイに差し出して微笑んだ。
「はい、新妻の手料理よ。どうぞ」
「いや、まぁ、いただきますけどね‥‥」
バツの悪い物を感じながらもガイは皿を受け取る。
ミオンとしては、どうせなら楽しく過ごそうと冗談混じりでやっているのだろうが‥‥生まれてこの方、恋人なんて一人もおらず、そもそも恋愛経験さえロクに思い出せないガイである。
奇麗な年上の女性に夫婦設定でからかわれると、変に意識してしまって、どう流せばいいのかわからないのだ。
ともかく腹は減っているので口をつける。
(‥‥!)
一瞬驚き、ガイは黙って黙々と食った。
「ダメ?」
少し心配したように訊いてくるミオン。
ガイは彼女をまじまじと見てしまう。
「初めて? これ‥‥そりゃメチャクチャ美味いとまでは言わないけど、普通にちゃんとできてる」
ミオンはほっと安心してからくすりと微笑んだ。
「そりゃ本に書いてあるとおりにしたもの」
「いや、書いてあるからできますって‥‥それで最初からこの出来なら、才能あると思うよ」
正直に感心するガイ。
そもそも料理自体をするのが初めてらしいのだが‥‥。
(かなりの才媛だな。ぬくぬくと育てられたお嬢様っぽくはない‥‥)
そんな考えがガイの脳裏をかすめる。
一方、ミオンはガイの言葉を喜んで掌を合わせた。
「あら、嬉しいわね。それじゃあ明日からも愛情こめてがんばりますか。ね、旦那様」
にっこり笑ってウインク一つ。
「いや、その‥‥お芝居‥‥」
たじろぐガイに、ミオンは顔を寄せてくる。
「でも美味しい方が嬉しいでしょう?」
「あ、うん」
ガイは頷いた。
思わず背筋を伸ばして距離をとりながら。
そんなガイを見てくすくす笑い、ミオンはテーブルの端へと振り返る。
「どうせ『お芝居』するなら楽しい方がいいに決まっているわ。ね?」
そこではイムが、切り分けられた果物を食べていた。
切った梨から顔をあげ、妖精の少女は「うん!」と満面の笑みで頷く。
ぽりぽりと頬を掻くガイ。
実は正直な所、毎度たじろいではいるが‥‥ミオンにからかわれるのが嫌かというと、そうではないのだ。
まぁ仕方ない。ガイとて若い青少年なのである。
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