上 下
14 / 147
1章

4 新生活 2

しおりを挟む
 両手にナタを構え、中年の農夫はじりじりと迫る。
「見てはならん物を覗いたな。好奇心は猫も阿呆も殺す‥‥」
「この畑、もしや違法物!?」
 殺気に満ちたその態度からピンと来るガイ。
「感のいいガキは長生きできん!」
 叫ぶや農夫はナタを振り上げ跳びかかって来た!

 だが相手がにじり寄る間に、ガイは珠紋石じゅもんせきを用意していた。
 緑の結晶がとび、宙で砕けて煙を放つ。
 一息吸い込み、農夫は地面に倒れて痙攣した。

 珠紋石じゅもんせきに籠められていた魔法は麻痺の霧【パラライズ】。ガイのスキル効果により、それは半端な耐性なら貫通して敵を行動不能に陥れる威力を持っていた。

「うおぉ‥‥無念」
 苦しそうに農夫は呻くが、もはや地面に突っ伏すだけだ。


 農夫を横目に、ガイは畑を調べる。
 植えている植物は複数種類のポーション素材に使える物で、ガイの知識にも有った。
「ああ、これリョウゲシか。確かに毒物にもなるから届け出が必要だけど、役所に行けばその日のうちに許可が出るじゃないか」
 呆れるガイ。

 だが農夫は突っ伏したまま呻く。
「出しておらんのじゃ」
「そりゃアンタが悪いだろ!」
 怒鳴るガイになお農夫は呻く。
「出したら隠し畑にならんじゃろが」
「隠し畑!? 重罪じゃないか!」
 驚くガイになお農夫は呻く。
「ああ、死罪じゃな。皆やっとるけど」
「あ、うん、そうらしいけど‥‥」
 戸惑うガイになお農夫は突っ伏したまま叫んだ。
「どうせやっとるからと思って御上は五公五民なんて年貢をとっとる! だから必要悪になるんじゃ! ワシは悪くねぇ! ワシは悪くねぇ!」

(世の中の汚ぇ部分を見ちまった‥‥)
 うんざりするガイ。そんな事で自分は殺されそうになったのかと思うと農夫にトドメを刺そうかとさえ思う。

 しかし考え直し、溜息混じりに農夫へ声をかけた。
「わかったわかった。俺は何も見なかった。どうせ俺もカサカの村にしばらく厄介になるんだからさ」
 すると農夫はガバリと顔を上げる。
「なんと! では小僧が村を救った勇者か!」
「ゆ、勇者‥‥」
 今までなかった持ち上げられ方にガイは面食らった。


 だが話題が村に移った事で、改めてガイは山へ来た目的を思い出す。
 そこで農夫に話を持ち掛けた。
「丁度今、回復薬が要るからこの花を買いたいけど‥‥手入れが雑だなぁ」
 咲いている花の半分ほどは力なく萎れているのだ。当然、そんな株からは薬を精製する事はできない。
 農夫は突っ伏したまま溜息をついた。
「去年、綿花が暴落してから思いつきで始めたからのう」


 困って頭を掻くガイ。
(使い物になる株だけ買うか。それでも本来期待したよりは多くの回復薬が造れるし‥‥)
 そんなガイの憂い顔を見て、肩のイムがふわりと宙に舞った。

 イムは畑の上で羽ばたく。陽を浴びて翅は虹色の輝きを強めた。
 そこから鱗粉が宙に浮かび、イムを取り巻いた。
 ゆっくりと踊るように宙を舞うイム。その動きと羽ばたきにより、鱗粉が畑に降りてゆく。

 萎れていた花が瑞々しさを得て、顔を上げるかのようにゆっくりと茎を伸ばした。
 元々元気だった花も増々色鮮やかになるようだ。
 満開の花が咲き乱れる畑の上からイムがガイの肩に戻る。ちょこんと腰かけ、にっこりと微笑みかけた。


 驚き、戸惑い、それでもイムの笑顔に「あ、ありがと‥‥」と返すガイ。
 はっと気を取り戻し、改めて農夫に持ちかける。
「えっと‥‥この花、売ってくれるか?」
「あ、ああ‥‥口止め料と花の蘇生代も勘定して、一割引きで売ってやろう」
 同じく驚き戸惑いながらも、農夫は承諾した。
(そこまで入れて一割かよ‥‥もうちょっとまけてくれても良さそうなもんだが)
 ガイはちょっとそう思わないでもなかったが。


――村への帰り道――


 予想を超える収穫を背嚢に入れ、ガイの足取りは軽い。
 だが山を下りて街道に出た辺りで、ガイは声をかけられた。

「あの、すいません。この近くに村はありますでしょうか?」



(謎の女・正体は次話)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する

紫電のチュウニー
SF
 宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。  各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な 技術を生み出す惑星、地球。  その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。  彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。  この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。  青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。  数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...