フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

文字の大きさ
上 下
13 / 147
1章

4 新生活 1

しおりを挟む
――ガイが救った村にて。夜――


「大体、期待した通りね」
 ベッドに腰掛けて屋内を見渡すミオン。
 村長が三人にくれた家は、村の一番端にある一軒家だった。空き家になって久しく、所々に隙間があったが、夜までかかって風が入り込まない程度にガイが修繕した。

「期待って‥‥かなり痛んでボロだけど?」
 ガイは肩にイムを停めながら、ちょっと落ち着かない様子で、室内に運び込んだ荷物を壁際に片付けている。
 ミオンは頷いた。
「ええ。けれど寝泊まりするのに大がかりな修理は要らないわ。もっと肝心なのは、村外れで、他の住人に私達の話を聞かれない事よ」
 ガイの表情が引き締まる。
「ミオンさんは自分が誰かに狙われていると思っているのか?」
 訊かれたミオンも真剣な目つきで答えた。
「そこまではっきりと危惧しているわけじゃないわ。けれど私の身元はまだわからない。貴族で身柄がお金になるなら‥‥余計な事を考える人もいるかもしれない」

「で、離れた所を要求しても怪しまれないための新婚設定というわけか」
 ガイが感心し、イムが合わせて頷いていると、ミオンは一転、いつもの笑顔になった。
「ええ。だからこれからは私の事を『ミオン』と呼び捨てにしてね」
「あ‥‥うん。わかったよ、み‥‥ミオン」
 ちょっと気恥ずかしいガイ。しかしこれも依頼人からの要求と考え、指示に従う。
 するとミオンの笑顔は悪戯っぽくなり、わざとらしく優しくささやいた。
「はい。あ・な・た」

「それで俺を呼ぶの!? 『ガイ』でいいだろ」
 思わず抗議。
 ミオンはどこか余裕のある笑顔で「ふうん?」と呟く。
「それならそれでもいいか。じゃあもう寝ましょうか、ガイ」
 そう言ってベッドに腰掛け、毛布を持ち上げた。

 そしてガイに手招き。
 ここに入れ、という意味なのは明白。

「あ、おやすみ‥‥」
 ガイはミオンに背を向け、自分の荷物から野宿用の毛布を引っ張り出した。

 ミオンは「あら?」と首を傾げる。
「設定を徹底しないの?」
「男にそういう冗談は感心しない!」
 ガイの語尾が少しキツめになっているのは、実は動揺によるものだ。
 にまぁ、と意地悪な笑みになるミオン。
「あら、ガイは本気にしちゃいたい?」
「もう寝るます!」
 変な言葉遣いになりながらガイは己の毛布に入って床に寝転んだ。
 胸元にイムが入り込む。

 ほんの少し、くすくすと笑って‥‥ミオンも一人、眠りについた。


――翌朝――


 ガイ達が居を据える事になったのはカサカという村だ。
 なにせ昨日の今日である。村はまだあちこちが壊されていたし、道行く村人にもケガ人がごろごろいた。
 そんな中、ガイ達は村長に案内されて一人の人物と会っていた。

 禿げ頭の老人である。
 歳をとっているのに筋肉質で、腕も足もまだ太く、胸元にははっきりと筋肉が見てとれた。
 老人は徳利とっくりから酒を直飲みして「ぬふぅ」と唸る。
「あんたが村を救ってくれたのか。礼を言うぞ。不甲斐ないこの老いぼれに代わって、よくぞ助けてくれた」

 彼はイアン=ジャクソン。
 この村の鍛冶屋であり、ケイオス・ウォリアーの整備士であり、操縦担当にして村の守衛である。
 村を襲った魔王軍にも立ち向かったのだが、たった一機ではかなうわけもなく、撃墜されて負傷していた。

 そう、負傷だ。
 彼は今、体の各所を包帯でぐるぐる巻きにされていた。
 今いるのも村の中央にある寺院。ケガ人が多いので緊急の病院として使われている。爺さん以外にも、何人もの重傷者があちこちで寝転んでいるのだ。

「薬がもっとあればいんですけど。司祭様も治癒の呪文を唱えてはお休みになられていますが、一人なのでなかなか追いつきません」
 そう嘆くのは村の尼僧・ディア。
 彼女の後ろでは、御座に横たわって年老いた神官がいびきをかいて眠っていた‥‥MPを回復するために。

 ガイは顎に手を当て考える。
「回復薬の類があればいいんだよな。最安値のポーションでも、数あれば」
「そうですけど、なにせ田舎村の道具屋なのでもう在庫全て買ってしまいました。それでも足りないのです」
 村長のコエトールが涙ながらに言う。

 だがガイは笑みを浮かべた。
「材料を集めて俺が作るよ。その代わり、今後はケイオス・ウォリアーの修理に村の工場を使わせてもらうから」
 そして肩のイムに目をやる。
「すぐに行こうか。頼むぜ」
「了解だよぉ」
 イムは笑顔で大きく頷いた。


――近くの山中――


 イムとともに山の中を歩くガイ。
 安物のポーションなら材料もすぐ見つかるだろう。とりあえず夕方まで見つかるだけ探そう、と思いながら。
 山の中腹まで来た時——イムがふわふわと宙へ飛んだ。

(何かレア素材かな? 強力な素材からなら、安い回復薬を沢山作る事ができる場合もあるぞ)
 ガイは期待しながら後を追う。

 そしてほどなく花畑に出る。
 畑、だ。文字通り、人の手で人工的に整備された畑である。
 そこに紫の花がいくつも咲いているが‥‥栽培が上手く行っていないのか、半分ほどはしおれていた。

(なんでこんな山中に畑? 周りは森で村からは見えないし、人の通る道も無かったけど‥‥)
 戸惑うガイ。
 だが後ろに気配を感じ、慌てて振り向いた。

 両手にナタを握った中年の農民がガイを睨んでいる。
 殺気も露わに呟く男。
「見たな‥‥」



(村の鍛冶屋 イアン=ジャクソン)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...